第49話 究極の剣技を習得する



 ゲータ・ニィガ国王陛下から、宮廷鍛治師ガンコジーさんと大鉱山をいただいた。

 

「では、皆さん。ネログーマへ帰りましょうか」


 私がいるのは、ゲータ・ニィガ王城。その庭。

 私の前にはネログーマの若き兵士2名、水蓮すいれん、スカーレット姫、そしてガンコジーさん。


「また馬車で数日の旅か~。長いわね! ねえアレク、どうにかできない?」


 スカーレット姫が私に尋ねてくる。

 水蓮すいれんがそれを聞いて言う。


「どうにかって、具体的にどうしてほしいのでござる?」

「こう、一瞬でネログーマに、びゅーん、みたいな。ほら、転移魔法ってあるんでしょ?」


 転移魔法。空間を一瞬で移動する魔法のことだ。


「いやいや、姫。さすがのアレク殿でもそれは……そもそもアレク殿は魔法使いではござりませんし」

「アレクならできるでしょ? ねえ?」


 ねえ、と言われても……。

 水蓮すいれんの言うとおり、私は魔法使いでは無い。

 転移魔法なんて……。


「…………待てよ」


 私はふと、気づく。

 そういえば……。


「どうしたの?」

「いえ、師匠の剣を思い出したのです」

「師匠って……確か、アーサー様?」


 スカーレット姫もアーサー師匠のことは知っているようだ。

 凄い剣士様だったのだ。知ってて当然だろう。


「はい。アーサー師匠は、【極光剣】の他に、究極の剣技を使えたのです」

「きゅ、究極の剣技!? なにそれ!」


闘気オーラを使った剣術、極光剣。それを極限まで鍛えあげ、聖なる剣を持つことで使えるようになる、究極の剣技。【秘奥義】」

「ひおうぎ……な、なんか凄そうね」


「はい。師匠は4つの秘奥義が使えました。天、地、海。そして……時空。その4つ」

「天、地、海……時空……」


 私は今まで、そのどれも使えなかった。

 だがしかし。


 今、私は一つの確信を得ている。

 ファルを使い、奥義【陽光聖天衝ようこうせいてんしょう】を難なく放つことができた……。


 そのとき、私の手に、聖剣が……神器が、しっくりときた。なじんだのだ。

 今までは、ファルに対して、どこか、師匠の借り物という意識があった。


 でもさっき奥義を放ったとき、私はしっかり聖剣を握り、そして振るうことができた。

 それはまるで……


『そのとおりじゃ。あれく。おぬしは、正式な聖剣の使い手……神器使いとなったのじゃ。あーさーと同様にな』


 ファルが……言った。私が師匠と同じ立場になったと。


『おぬしは今日までずっとずっと鍛練を重ねてきた。そして、多くの人たちをその剣で救ってきた。それが認められたのじゃよ』


 認められた……?

 誰に?


『天に、じゃな』

「天……」


 ……正直、ファルの言ってることは理解できない。

 天に、と言われても、何のことやらだ。


 ……それでも。

 聖剣ファルシオン……師匠の剣から直々に、師匠と同じ高みへとやってこれたと。

 太鼓判を教えてもらえことは……うれしかった。


『今のおぬしなら、【四天王剣】が一つ、【天王剣】が使えるだろう』

「天王剣……」


 師匠が見せたことがある、四つの秘奥義が一つ。

 天王剣。それは、天を斬る奥義のこと。


 天とはすなわち空間のこと。


「ねえ、アレク。どうしたの、ずっと黙ってるけど?」

「いえ、皆さんを今から、ネログーマへとお連れいたします。一瞬で」

「一瞬で!? え、まさかアレク……使えるの? 転移魔法!?」

「魔法ではありません。剣技……です」


 私はファルを構える。

 そして、師匠の剣をイメージする。大丈夫、いける。


 すぅ……はぁ……。

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「わぷっ! 副王様の体から、すさまじい量の闘気オーラがあふれ出るっす!?」

「すごい! 七色の闘気オーラが、ファルシオン様の刀身に凝縮されていく……!」


 極光の輝きが、ファルシオンの美しい刀身を彩る。

 

「秘奥義……。【天王剣】」


 私は剣を振り上げて、下ろす。動作としてはそれだけだった。


 スパンッ……!


「え、ただ素振りしただけ?」

「い、いや! ち、違うでござるよ! く、空間が! 空間に、裂け目が!」


 私の目の前に空間の裂け目ができていた。

 裂け目の向こうから見えるのは、見慣れた、緑と水の美しい都……。


「裂け目の向こうに、ね、ネログーマの王都! エヴァシマの街が見えるっすーーーーーー!?」


 ワンタ君とトイプちゃんが腰を抜かしている。


「なんだ、アレク! 転移魔法使えるんじゃない! すごいわ!」

「魔法じゃないでござるよ! アレク殿は空間を斬ったのでござる! どういう仕組みなのか、拙者さっぱり理解できないでござる!」


「魔法じゃ無いのに転移できるってこと!? す、すごすぎるわよアレク!」


 皆がはしゃいでいるなか……。

 私は、その声が耳に届いていなかった。


 私にあるのは、高揚感。私の尊敬する師と、同じ高見にこれた。その確信を得た。


 それが……うれしかった。

 師匠……あなたの剣を、すべて……継承できました。


 やっとです。私は今38。約40も……かかりましたが。

 やっと……やっと……。


「アレク? どうしたの、泣いてるの?」

「いえ……少し、感慨にふけっていたのです。……さて。帰りましょうか」


 私達は空間の裂け目をくぐる。

 そこには、王都エヴァシマの町並みが広がっていた。


 ぎょっ、と周りの獣人達が目をむいている。


「副王様!?」「副王様だ!」「い、いったいどこから……?」


 しまった。皆さんを驚かせてしまった。

 申し訳ない……。


「せ、先生……」

「バーマン」


 戦神バーマンが、私の前までやってきた。

 どうやら王都の見回りをしていたようだ。


 彼女は私の前までやってきて、背後の空間の裂け目を指さす。


「これ……先生が?」

「はい。師匠の秘奥義を使……」


 どさっ!

 バーマンが私を、その場で押し倒してきた。


「ば、バーマン?」

「はぁ♡ はぁ♡ はぁ♡」


「どうしました、バーマン? バーマン!」


 彼女が私の腹の上で馬乗りになると、服を脱ぎだしてきたのだ。


「せ、先生……♡ ごめん……♡ もう……あたし……あたし……我慢できない!」

「何発情してるのよ、このメス獣人ー!」


 ぐいっ、とスカーレット姫がバーマンを引っ張る。

 だが、彼女はびくともしない。


「くぬっ! 拙者の腕力でも動かない!? どうなってるでござる!?」

「はあはあ……先生……だめだ……獣人は、強いオスをみたら、無条件で発情しちゃうんだよ……」


 そういえばそんなことを言っていたような気がする。


「先生が、たどり着いた究極の剣技を見て……発情しちゃったんだ。すごすぎて……。あたし、あたしもう……ごめん! もう自分を抑えきれない……! ごめんせんせい!」


 ……どうやら私のせいで、バーマンは我を忘れるほどに、強く発情してしまったようだ。

 弟子の痴態を衆目にさらすわけにはいかなかった。


「すみません」


 とんっ、と私はバーマンの首筋に手刀をあてる。

 ぐんにゃり、とバーマンがその場で気絶した。


「お、恐ろしく速い手刀……勇者せっしゃでも目で追えなかったでござる……さすがアレク殿……」


 しかし、困りました。

 究極の剣技を習得した結果、バーマンが今まで以上に発情してしまった。


 ……ということは。

 バーマン以外の、たとえばアビシニアン陛下やミーア姫も同様に……。


 ……………………。

 大変なことになってしまったかもしれないな。

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