第48話 褒美に鉱山と鍛治師もらう
私はネログーマへ帰る前に、ゲータ・ニィガ王城へ行って、魔竜討伐について報告した。
数時間後。
私は国王陛下の前にいた。
「副王殿。このたびの活躍、誠に大儀であったぞ」
国王はニコニコしながら私に言う。
「まさか、魔竜を討伐してしまいとは。やはり、副王殿は凄い御仁だ」
「ありがとうございます。ただ、姫にも申しましたが、私が意図して討伐したのではありません。魔竜を起こしてしまったのは、私の不注意です。申し訳ございませんでした」
頭を下げる私に、国王が感心したように言う。
「まこと、そなたは謙虚な御仁なのだな。ますます……惜しい人材を手放してしまった……」
くっ、と国王が悔しそうに言う。
私のことを重要人物だと思ってもらえるのはうれしい。が、私はネログーマに仕えると決めたのだ。
「スカーレットの言うとおり、そなたが謝る必要は無い。そたなは我が国が抱える、いつ復活し、厄災を振りまくかわからなかった時限爆弾を片付けてくれたのだ。感謝こそすれ、避難する気は毛頭ないぞ」
「ありがとうございます」
ふぅ。国際問題に発展しなくて良かった。
アビシニアン陛下やミーア姫たち、そして獣人国の皆に迷惑をかけるところだった。
「ところで、今回の報酬についてだが」
「ほ、報酬?」
「うむ。そたなは魔竜を討伐してくださった。その報酬を与えねばなるまい。褒美といってもいいな」
「い、いえ。そんな。報酬ほしさに竜を倒したのではございませんゆえ」
魔竜との戦いは本当に偶然発生したイベントでしかない。
頼まれてやったわけでは無いことだ。褒美も報酬も要らない。そもそももらうほうがおかしいと思う。
だが国王はそうは思ってないらしい。
「本当にそなたは謙虚で、素晴らしい御仁だ。が、どうか報酬を受け取って欲しい。これは、これからともに歩んでいこうという、ネログーマへの敬意の表れでもあるのだ。なにとぞ」
……そこまで言われて、受け取らないということはできない。
私の態度一つで、ネログーマのイメージを下げることになるからな。
「わかりました。ありがたく、ちょうだいいたします」
「礼を言うのはこちらのほうだ。では、褒美を授けよう。入ってきなさい」
国王がそう言うと、謁見の間に、見知った人物が入ってきた。
「さっきぶりですな、副王殿」
「ガンコジーさん」
ゲータ・ニィガの宮廷鍛治師、ガンコジーさんが部屋に入ってきたのだ。
褒美?
まさか、剣をくださるというのか?
しかし剣はもうファルもいるし、神木刀もあるのだが。
「わしゃうれしいですぞ! これから、あなた様の専属鍛治師になれるのですからなっ!」
「…………。専属、鍛治師?」
なんだそれは。聞いたこと無い。
いや、それ以前に、だ。
ガンコジーさんはこの国の宮廷に仕えてるのではなかったのか……?
「今回の魔竜討伐の褒美として、まず、そなた専属鍛治師をさしあげようぞ」
「し、しかし陛下。ガンコジーさんはこの国の重要人物では?」
「その通り。彼は世界最高の鍛治師だ。わが国の宝だ。それゆえ、同じくネログーマの国宝であるそなたにあずけるに値する人物だと判断したのだ」
ネログーマの国宝とは。身に余る評価である。
いや、余りすぎている。
「陛下。獣人国ネログーマの宝は、そこに暮らす優しき国民達です。私などでは……」
すると国王が深く感心したように、何度も何度もうなずいた。
「やはり、そなたは素晴らしい。王の器とは、まさしくそなたの心のありようなのだろう。参考にさせてもらおうぞ」
……王に参考にされてしまった。
私は至極当然のことしかいってないのだが。
「話を戻そう。ガンコジーには正式には、姫の護衛の一人として付けることにする。体面上な」
他国に、自国の重要人物を渡すとなると、世間体が悪いってことだろう。
だから、ゲータ・ニィガ姫の護衛の一人ってことで派遣するそうだ。
「ガンコジーさんは、いいんのですか? ついてきても」
「もちろん! 副王殿の、そして副王殿の国民達の剣を打てるなんて! とんでもなく名誉なことじゃからな!」
まあ、本人が納得してるなら、これ以上私が口を挟むべきではないだろう。
それに褒美として、受け取ると応えてしまっている。ここで拒むのは国際問題になってしまうからな。
「ありがとうございます、ガンコジーさん。あなたが来てくれたら、とても心強いです」
ガンコジーさんの作る剣はどれも素晴らしいものだ。
その剣を装備できれば、わが国の兵力は格段に上昇するだろう。魔物をより効率よく、安全に倒せるようになるわけだ。
獣人の皆が幸せに暮らせるようになる。それは、私にとってうれしいことなのだ。
「陛下も、ありがとうございます。素晴らしい贈り物をしてくださって」
すると国王陛下はきょとんとした顔になる。
「何を言ってるのだ、副王殿。褒美はガンコジー派遣だけではないぞ?」
「は? ほ、他にもいただけるのですか……?」
正直、今の時点でもらいすぎなきがするのだが。
「うむ。では、次の報酬を」
そばに控えていた大臣が、近づいてきて、私に巻物を渡してきた。
それを受け取り、中を検めて……絶句。
「へ、陛下。ここには……その、国が所有する大鉱山の一つを、ネログーマに譲渡すると書いてあると思うのですが……」
「うむ。そのとおり。その鉱山では良質な鉱石が取れる。ガンコジーがいれば、良い武器が量産できるだろう」
そ、そうかもしれないが……。
しかし……これはさすがに……。
「陛下」
「まあ待て。副王殿いいたいことはわかる。が、それくらいそなたがやったことは、凄いことだったのだ」
国有鉱山を渡すほどの、大きなことを成し遂げていた、と言うことか……。私は……。
「場所もネログーマとゲータ・ニィガの国境付近にあるものだ」
「お心遣い、感謝いたします」
正直これを受け取るのは、心が痛い。が、わが国ネログーマには国有の鉱山というモノは存在しないのだ。
武器は他国から買い取ってるのである。
鉱山、そして鍛治師が着てくだされば、自国で武器が生産できるようになり、防衛力はさらに向上するだろう。
……受け取らないという選択肢は、存在しない。国民の未来、安全を思うのならば。
「ありがとうございます、陛下」
私はその場でひざをつき、巻物を掲げながら言う。
「ありがたく、頂戴いたします」
こうして魔竜を討伐した褒美に、ガンコジーさん、そして国有大鉱山を手に入れたのだった。
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