第47話 一振りで山を吹き飛ばす




 私は神器ファルシオンの試し切りをしてる。

 五頭山にて。


「それでは、剣を抜いてみせましょう」


 今までは剣を納めた状態での試し切りだった。

 いよいよ剣を刃から抜く。


 柄をにぎり、ゆっくりと、剣を抜いて構える。


「わぁ……! 綺麗な剣ね……!」


 スカーレット姫がうっとりと、刃を見てつぶやく。

 そうでしょうとも。ファルは美しいのです。


『おほほ~! あれくにほめられた~! うれしー!』

「やっぱり凄いアレクには、これくらい綺麗な剣が似合うわね! って、どうしたの、二人とも?」


 スカーレット姫が、水蓮すいれんとトイプちゃんを見やる。

 彼女たちは真っ青な顔をして、カタカタと震えていた。


「ど、どうしたっすかトイプ!」

「お、お兄ちゃんは……感じないの? 副王様の剣から漂う……圧倒的な、力を」

「? いや。単に綺麗な剣だなってくらいにしか思わないすけど……」


 瞬間……。

 ズァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


「うえ!? 鳥が一斉に飛び立ったっす!?」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!


「今度はなんすか!? 地鳴りっすか!?」

「違うよお兄ちゃんっ。森の獣たちが、一斉に逃げていくんだよ!」

「うえ!? 獣が!? そんなのなんでわかるんすかトイプ!?」


 確かに鳥は、空を見れば逃げてるのがわかる。

 だが獣たちが森から去って行く姿は、目の前にないので、普通ならわからない。が。


「トイプちゃんは衝気円で、周囲の獣の気配を探知したのですね?」

「は、はい……。獣の闘気オーラを、見分けられるようになったので」


 なんと!


「それは見事です」

「ほ、本当でござるな……。種族ごとの闘気オーラの見分けがつくようになるには、拙者でもかなりの修行が必要だったでござる……」


 水蓮すいれんもトイプちゃんの才能に驚嘆してるようだった。

 この子はきっと伸びていくだろう。


「でも獣たちは何で逃げてるのよ? あとなんでそこの二人も怯えてるの?」


 スカーレット姫の問いかけに、ガンコジーさんが応える。


「わからぬか、嬢ちゃん。皆……副王殿が剣を抜いた姿に、怯えてるのじゃ」

「アレクが剣を抜いただけで、獣たちをびびらせってこと?」


「そうじゃ。わかるものには、わかるのじゃ。世界最高の剣士が、世界最高の剣を手に持つ、その恐ろしさを」

「ふーん……よくわからないけど、さすがアレク! 剣を抜いただけで動物をびびらせるなんてね!」


 さて。

 ファルを久しぶりに握ってるわけだが……。


 やはり、しっくりきますね。


『われもあれくに握ってもらえて光栄じゃ! とてもうれしい! さぁ、振っておくれよ!』

「ふむ……」


 私は水蓮すいれんとトイプちゃんを見やる。


「わかりますか?」

「?」


 水蓮すいれんが首をかしげる。

 トイプちゃんが一瞬首をかしげるも、すぐに気づいたようにうなずいた。


「はい! この山……魔物です!」

「んな!? そ、そうなのでござるかっ!?」

「はい。闘気オーラが山……自然物に近いですが、山のように大きな魔物ってことがわかります!」


 慌てた様子で、水蓮が目を閉じて、闘気を感じ取る。


「ほ、本当でござる! 5つの頭を持つ、巨大な魔物の気配でござるよ!!」


 水蓮が驚愕の表情をうかべる。


「わかりますよ、水蓮。すごいですよね、トイプちゃんの才能」

「いや、確かにそっちもですが! この地下に巨大魔物がいることに驚いてるのでござるよ!」


 そんなに驚くほどだろうか。

 ただの魔物なのだ。


 まあ、暴れられても困る。


「そういえば王家の伝承で聞いたことあるわ。神話の時代、ゲータ・ニィガのちかくに5つの頭を持つ魔竜がいたって。あまりに強大な力を持つ、凶悪な竜であることから、封印するしかなかったって」


 スカーレット姫が王家の伝承を教えてくれた。


「ちょうどいい。では、軽くその魔竜とやらを退治してみましょう」


 ごごごごお! と音を立てながら地面が盛り上がろうとしてる。

 地中に封印されている竜がいままに出てこようとしてるのだ。


「だ、だめよアレク! 伝承によると……」


 剣を握る。

 呼吸を整える。

 ……真剣を握るのは久しぶりだ。落ち着く。


 この武器は、木刀と違う。触れるだけで命を詰む。

 だから、使う時はきちんと見極めねばならない。


 私は魔竜とやらの闘気を見る。

 なんという邪悪な闘気だ。そこから感じられるのは、人への純粋な殺意。これは説得しても仕方ない。純粋悪とも言える相手。


 これが復活すれば多くの人を傷つけることになるだろう。

 そもそも、私のせいで魔竜を復活させてしまったのだ。速やかに、私が排除すべき案件。


 私はファルシオンを上段に構える。


「極光剣。奥義。【陽光聖天衝】」


 力を抜いて、ただ、斬る。

 ファルから黄金の、巨大な闘気の波動が前方に射出される。


 黄金の闘気の奔流にのまれ、そこにあったもの全てが消えていく。

 そして遅れて、音が聞こえてきた。


 ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 光に飲み込まれ、魔竜は復活する前に、消滅。

 山は消え、平地となった。


「ふぅ」

「「「……す、すごすぎる」」」


 皆が目をむいている。


「すごいわ、アレク。剣の一振りで、山が消えちゃった! こんなすごいことできるのね!」

「ファルのおかげですよ。並の剣では、奥義は繰り出せません」


 神木刀でも、私の放つ奥義を耐えることができない。

 ファルだからこそ使えるのだ。


「それに、奥義はこれで終わりじゃないです」

「え? え、えええええ!? や、山が、も、元通りになったぁ!?」


 消し飛んだはずの山が、まるでビデオテープを逆再生するかのごとく、戻っていくのだ。

 そして、何事もなかったかのように、山が再生された。


「今の奥義は、陽光聖天衝。全てを破壊し、破壊したものを再生する奥義です。山だけをもとに戻しました」


 魔竜のみを選択し、残りは再生してみせたのだ。

 これもまた、ファルのおかげでできること。


「す、す、すごいっすぅ〜!」

「わぁ! 本当にすごい! まさか七つの闘気オーラを全部混ぜると、あんな破壊の力を生み出すんですね! 参考になりますっ」


 ワンタくん、そしてトイプちゃんが拍手している。


「なんと、見事じゃ」

「ね! 本当にすごいわ! アレク、ありがとっ! パパもきっと喜ぶわ!」


 ふむ?

 喜ぶ?


「だって、長い間山に封印することしかできず、いつ復活するかわからない魔竜という脅威を、倒してくれたんですもの!」


 まあ、結果的にはそうなったが。


「パパはきっと褒めてくださるわ!」

「いえ、むしろ怒られてしまいますよ。私のせいで眠っていた魔竜を呼び起こしたのですから」


「でも国がどうにもできないことを、あなたは片付けたんですもの。これはすごいことだし、パパも褒めてくださるわ!」


 そう都合よく進むだろうか。

 ネログーマに迷惑をかけるわけにはいかないし、ちゃんと、帰る前にゲータ・ニィガ王に謝罪しないと。


「スカーレット。今から国王陛下にアポとってもらえますか」

「いいけど、え、帰るんじゃなかったの? ネログーマに?」

「魔竜の件を報告し、謝罪しないといけませんので」

「律儀ねぇ。そんな真面目なところも、大好きよアレクっ」


 そして、手に握られた状態のファルが、つぶやく。


『あれくぅ。本当に強くなっておるのじゃあ。やはりわれの使い手はおぬしだけよ♡もう2度と、われはおぬしもとを離れぬからなぁ』


 ファル。

 私ももうあなたを手放しませんよ。

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