第44話 伝説の武器を既に持ってた



 王都で一番の鍛治師から、剣を買うことになった。

 ガンコジーさんに導かれて、私達は店内へと入る。


 壁には武器が所狭しと並んでいる。

 だが……わかる。


「どれも素晴らしい切れ味の剣ですね」

「ほぅ! わかりますかなっ?」

「ええ」


 私は武器に近づく。

 すると武器には闘気オーラが付与されているのがわかった。


「どの武器からも、強い闘気オーラを感じます」

「? 副王様。どういうことっす? 武器から闘気オーラなんて出るんすか?」


 ワンタくんが私に尋ねてきた。


「ええ、剣士にかぎらず才能のある人間は、無意識に闘気オーラを使っているのです。その人たちが作るモノには闘気オーラが込められているのです」

「はえー! じゃあ、武器に闘気オーラが付与されてるかどうかで、凄い武器かどうかが見分けがつくってことっすね!」


「そういうことです」

「そんな見分けたを知ってるだなんて! さすが副王さまっす!」


 ワンタ君が不用意に武器に触ろうとする。

 私はやんわり彼の手を握ってとめる。


「強い武器というのは、それだけ、扱いが難しいということです。今のワンタ君がこれらに触ったら、怪我してしまいます」

「ま、まじっすか! す、すみません……」


 ぱっ、と私は手を離す。


「謝る必要はありません。ただ、武器は相手だけでなく、己も傷つける危険性があります。それゆえ、使い手は選ばないといけない」

「!」


 ガンコジーさんは目をむいていた。

 一方、ワンタ君は感心したよううなずいてる。


「それゆえ、武器を作る人たちは、使い手を選ぶのです。だから、ワンタ君。ガンコジーさんを見たとき、頑固な人だなって思うのは、早計ですよ」

「うう……バレてたっすか……さーせん」


「謝れて、偉いですよ」


 よしよし、と私はワンタくんの頭をなでる。

 一方……ガンコジーさんは泣いていた。


「どうなされましたか?」

「いや……今まであなたのように、わしらのことを理解してくれる御方がいなかったもので。あなたが初めてですじゃ……ぐす……」


 武芸をたしなむものなら、これくらい理解してるモノだと思っていたのだが。

 そうではないらしい。ならば、私は人に剣を教えるとき、剣を作る人たちの気持ちも、きちんと教えていかねばなるまいな。


「それで、ガンコジー? アレクにふさわしい武器、売ってくれないかしら?」


 スカーレット姫がそういうも、ガンコジーさんは首を振る。


「残念ですが、ここには副王殿にふさわしい武器はございませんじゃ」


 ガンコジーさんが神妙な顔つきで言う。

 

「それって……アレクに釣り合う武器が無いってこと?」


 スカーレット姫は、武器を売ってもらえないと聞いても、憤慨することはなかった。

 多分さっきの私の話をちゃんと聞いていたからだろう。


「そのとおり。副王様ほどの超凄腕剣士に見合う武器は、ここにはありませぬ。現に……」


 ガンコジーさんは壁に掛かっていた黒い剣を1本、手に取って、私に渡してくる。


「どうぞですじゃ。握ってくださいませ」

「……いいのですか?」

「はい、もちろん」

「……おそらくですが、この剣では……」

「承知の上です。お願いします」


 そこまで言うのなら……。

 私は黒い剣を握る。軽く、握った。


 そして、軽く、本当に軽く振った。


 バキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


「副王様が握った瞬間、剣が粉々になった!」


 トイプちゃんが目をむいて叫ぶ。

 水蓮すいれんは落ちている破片を手に取って、これまた目をむく。


「もしかしてこれ……神威鉄オリハルコンではございませぬか? 世界最高の鉱物の!」

「そうですじゃ、勇者殿。副王殿の剣を振る速度では、神威鉄オリハルコンですら壊れてしまう」

「それほどまでの剣速……すごいです! さすがアレク殿っ!」


 私は落ちてる破片をすべて拾って、彼に頭を下げる。


「申し訳ありません、ガンコジーさん。壊してしまって」

「謝ることはございませんじゃ。こうなるのは予想できておりましたし」


「それでも、魂込めて作られた剣を壊したことには代わりません。謝罪いたします。きちんと弁償も……」

「いや! 弁償なんて必要ありませぬ。あなた様に剣を振るってもらった、それだけでお題としては十二分すぎますじゃ! 感謝いたします!」


 壊したのに感謝されてしまった。

 心が痛い……。


「ふと、思ったんすけど」


 ワンタ君が言う。


「副王様の木刀って、すごくないっすか?」

「急にどうしたのお兄ちゃん?」


 トイプちゃんが首をかしげながら言う。


「いや、だって副王様って神威鉄オリハルコンの剣でも、壊しちゃうんでしょ? でも副王様のただの木刀って、いつも凄い勢いで震ってるのに、全然壊れないし。もしかして……とんでもない代物なんじゃないかなって思ったんす」


 私の輿には1本の木刀が握られている。


「確かにこの木刀は、思い入れのあるものです。師匠から最初の剣です。ですが……ただの木刀ですよ」


 するとガンコジーさんが私の腰の木刀を見て、その場で腰を抜かした。


「す、す、すごすぎるのじゃああああああああああああああ!」


 何をしていないのに、ガンコジーさんが驚愕の表情を浮かべている。


「そ、それは【世界樹】の枝! それも、一番質の良いところから作られた、【神木刀しんぼくとう】とも言える代物!」


 ふむ……?

 世界樹……?


「いえ、これはうちの村に生えてるご神木から作ったただの木刀ですよ?」

「いやいやいや! ただのってレベルじゃないですじゃ! 世界樹は世界にたった1本しかない、特別な木と言われており、その所在は不明とされておりますじゃ!」


「? そうなのですね」


 神木=世界樹ではないとおもわれる。

 なぜなら、普通に村の中心に生えているだけの、ただの大きな木だものな。


「事実、この神木刀は、世界樹の枝でできております。つまり、村に生えているのは、所在不明かつ世界にたった1本だけの世界樹。そこから作られた、とても希少な木刀ともいえる代物ですじゃ……! これは世界級の、伝説の武器ともいえるものですじゃぁ!」


 なるほど……。

 そんなたいそうな代物だったのか。師匠、そして、この枝を提供してくださった、師匠には感謝しなければ。


「えっとつまりどういうことなのよ?」


 スカーレット姫がガンコジーさんに尋ねる。


「今、副王殿が身につけてる武器以上に、凄い武器は【そうは】ないということ」

「そうは、ってことは……あるにはあるのね」

「ああ。……それは【神器】と呼ばれるものですじゃ」

「「「じんぎ?」」」


 聞いたことがないな。


「神器とは神のごとき奇跡の力を発揮する、すさまじい武器のことですじゃ。人間の手では決して作ることができぬ代物。わしも長年、神器を作ろうと試みてはおるものの……作れたことはありませぬ」


「へえ……あんたほどの職人でも作れないのね。でも、神器って概念が存在するってことは、どこかにはあるのね」

「うむ。それは神が直接作ったとされており、世界各所に散らばっておるされておる。が、どこにあるかわからぬうえ、神器は使い手を選ぶのじゃ」


 凄い武器である神器は、所在不明かつ、誰でも使える代物ではないらしい。


「あんた知らないの? 神器がどこにあるのか?」

「わしでもしらん。が、手がかりはある」

「手がかり?」


 するとガンコジーさんは言う。


「神器は、皆生きてるのじゃ」

「い、生きてる……!? 武器なのに!?」


「うむ。神器は皆、生きて、意志を持つとされておる」


 ……。

 …………ん?

 生きて、意志を持つ……武器?


「え、それって、そんな特別なことなのですか?」

「「は……?」」


 スカーレット姫とガンコジーさんが目を丸くしてる。

 ファンタジー小説を読むと、普通にしゃべる剣やら武器やらは存在していた。


 だから、【あのこ】がしゃべっていたことに対しても、特に不思議に思わなかった。


「ど、どういうことですじゃ?」

「いえ、我が村にはしゃべる武具は普通にありましたので」

「はぁああああああああああああああああ!?」


「なんだったら元々使っていた剣が、しゃべる剣でした」

「なんじゃとおぉおおおおおおおおおおおおおお!?」


 私が元々使っていた剣、ファルシオン。

 彼女は意志を持ち、しゃべることができていた。


「そ、それが神器ですじゃ!」

「……………………なるほど。彼女は神器だったのですね」


 知らず、使っていたな。


「い、今その剣はどこに!?」

「故郷の村においてきました。あれは師匠の剣ですから。道場を追放された私に、持つ資格はありません」

「むぐぅううう! もったいない! アア惜しい! 神器が拝めるチャンスだったのにぃ~……」


 ガンコジーさんが、がっかりと肩を落とした、そのときだった。


「兄貴、いるかい?」


 武器屋に、新しいドワーフが入ってきたのだ。

 その手には箱が握られていた……。


 が。


「ファル!」


 私はドワーフさんのもとへ一瞬で移動し、箱に触れる。


「な、なんだおまえ……?」

「あ、すみません。ネログーマ副王のアレクサンダーと申します」

「は、はあ……んで、なんだよ、ファルって?」


 すると私は彼に言う。


「その箱の中に、剣が入ってませんか? 私の大事な剣が入ってるのです!」

「!? ど、どうして剣があるとわかるんだおまえ……?」


 ドワーフさんが目を丸くする。


「わかります。わかりますとも……箱から漏れ出る、その闘気オーラを見れば……」


 でも、その闘気オーラの色が、あせている。嫌な予感しかしなかった。


「イッコジー。わるいが、その御方にその箱わたしてやっておくれ」


 とガンコジーさんが、ドワーフさんに言う。イッコジーさんと言うらしい。


「まあ兄貴が言うならいいけどよぉ」


 私は頭を下げて箱を開ける。

 その中には……。


「ファル……」


 私の相棒、ファルシオンが、箱の中に入っていた。

 ……けれど。


「壊れてる……わね、これ……」


 美しい刀身は粉々になっていた。

 鞘も、全く手入れされていない……。そんな……


「ファル……おまえ……こんな姿になってしまって……」


 ファルシオンは師匠の大事な剣。しかも、私にとっての大事な相棒だ。

 それがこんな……こんな姿に……こんなことって……。


「この剣どうしたのじゃ、イッコジーよ」

「オークションに出品されてたんだよ」

「こんな粉々の状態で?」

「ああ。多分、この剣ほら、装飾品が付いてたあとがあるだろ? 多分それらを全部抜いて、金に換えたあとに、本体を売ったんだろうね」


 ……。

 ……オークション、だと?


 ファルを、売った……だって……?

 ……誰だ? いったい誰がそんなことを?


 ……言うまでも無い。ハイターだ。

 ファルに、こんな酷いことを……ハイター!


「わ、す、すげえ闘気オーラっす!」「副王様がこんなに怒ったとこはじめてみた!」


 いかん……子供の前で、感情的になってしまった。冷静にならねば。

 それに、まだだ。


 ファルは死んだわけじゃない。

 ファルからは闘気オーラを感じる。つまりまだ生きてるのだ。


 大丈夫だよ、ファル。私がおまえを必ず直してみせるからね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る