第41話 悪い大臣を捕まえる
私はスカーレット姫とともに、ゲータ・ニィガ王国王都へとやってきた。
王都。とても懐かしいな。
基本的にデッドエンドから出たことがない私だが、何度か、師匠の代わりに出稽古をしに来たことがある。
けれどそれも、数えるくらいのことだ。しかも馬車で直接城を訪れたくらいなので、王都の街を歩いたことは一度もない。
仕事が終わったら、帰りに
まあ、それはさておき。
私は姫に連れられ、王城、王の間へと通された。
玉座に座るのは、白髪頭の60代くらいの男性。
現ゲータ・ニィガ国王陛下だ。
「お初におめにかかります。アレクサンダー・ネログーマと申します」
「おお……なんということだ……」
陛下は私を見て、手で顔を覆っていた。
「どうかなさりましたか?」
「いや……うむ。わが国は、大変な痛手を負ったなと思ってな」
「?」
「いや、何でもない。今はもう詮のないことだ。しかし……はぁ。なんと惜しいことをした……はぁ……」
陛下はどうやら落ち込んでいるご様子だ。
いったいどうしたことだろうか。
「まあそれはよい。アレクサンダー殿。此度は、我が娘の命を救出してくださったこと、心より、感謝申し上げる」
すっ、と陛下が頭を深々と下げてきた。
「いえ。剣士として、当然の振る舞いをしたまでです」
「おお、なんと高潔な精神。そして謙虚な振る舞い。さすが、大英雄の直弟子」
大英雄……?
誰のことを言ってるのだろうか。
まあ、今はそれどころじゃない。
「陛下。進言したいことがございます」
「よい。許す」
私は、姫をさらったのが魔族であること。
そして魔族と内通する人物がこの城の中にいることを告げる。
「なんと……この城に裏切り者が……。それを見抜くとは、さすがアレクサンダー殿だ」
と、そのときである。
「陛下ぁ! そんな戯言を信じてはなりませぬぞぉ!」
国王のそばに控えて、今まで黙っていた男が口を開いた。
「【ワルイ財務大臣】よ」
とスカーレット姫が私に教えてくれる。
「ワルイよ。戯れ言とはどういうことだ?」
はげ頭の太った人間、ワルイ大臣に、国王陛下が尋ねる。
「この人間国ゲータ・ニィガに、魔族と内通してる人物がいるわけがないじゃないですかぁ!」
「しかし我が娘を連れ去ったのは魔族だ。魔族がこの国で活動するためには、手引きする人物がいると考えるのが普通だろう」
「それを言うのでしたらぁ、そこの副王を騙る男が一番あやしいと思いますぅ!」
ワルイ大臣が私に指をさす。
ほう……
「副王を騙る、ですか。どういうことでしょうかそれは?」
「副王なんてポジション、聞いたことないですよ! なんです副王って。どんな仕事をする、どんな立場の人間なんですかぁ? 少なくともゲータ・ニィガに副王なんて存在しませんがぁ?」
……ふむ。なるほど。そこをせめてくるのか。
「副王は現ネログーマ女王が今回特別に作った役職になります。知らないのも当然です。そしてこれは、私の身分を保証する、王家の印の入った書状です」
私は羊皮紙を取り出して、ワルイ大臣たちに見せる。
しかし。
「こんなもの、どうとでも偽装できますよ。だいたいおかしいじゃないですか、女王の旦那と、王女の婚約者? 次期国王? 獣人国の王に人間が? おかしなことだらけじゃないですか!」
……そう言われると、まあそうなのだが。
「ちょっとワルイ! なに、もしかしてアレクを疑ってるわけ!?」
「もしかしても何も、姫。この男以上に胡散臭い方がどこにいます? そもそも獣人の国から人間が来てることがおかしいのに」
さて、どうしたことか。
私には犯人がわかっているのだが。
「陛下。お願いがございます」
「許す」
「まだ、何をするのか行ってないのですが」
「よい。そちの自由にしなさい」
では、遠慮なく。
私はワルイ大臣の前に立つ。
「な、なんだね?」
「あなたですね、魔族との内通者は」
「はん! 何を証拠に!?」
「闘気の揺れです」
言ってまあ、通用するともおもってないし、誤魔化されることは百も承知だが、説明する。
「あなた、私が先ほどこの中に裏切り者がいると言ったとき、内心で動揺してましたね。闘気を見れば、あなたの心の揺らぎがよくわかりましたよ」
「闘気? 心の揺らぎ? おいおいおいおい、なんだ今度はオカルトか? ペテン師ぃ」
ワルイ大臣が私を小馬鹿にしてきてるのがわかる。
「ペテン師ですって!? ちょっとワルイ! アレクを馬鹿にしてるの!?」
「いえいえ。ただ、この男は素性も言動も怪しいということですよぉ」
がるる、とスカーレット姫がうなる。
「姫。落ち着いてください。確かにワルイ大臣の言ってることももっともです。ですので」
私はワルイ大臣の前に立ち、腰の木刀を握る。
トンッ。
「? なんだ、貴様?」
「いえ。処置は終わりました」
「処置ぃ? 何かしたのか貴様?」
「ええ、しました」
あれ? 見えていないのだろうか?
「アレク? どうしたの? ぼうっと突っ立って」
「アレク殿?」
……ふむ。水蓮すら、私が何をしたのか見えていないらしい。
ううむ……まあ、それはあとで検証するとしよう。
「さて、ワルイ大臣。もう一度うかがいます。あなたは魔族と内通してますね?」
「ちょ、アレク……こいつが真実を言うわけないじゃない……」
そう、彼は嘘をついていた。
それもさっきまでの話である。
「そうだ! ワタクシは魔族と内通してるぞぉ!」
「……は?」
「「えええええ!?」」
ワルイ大臣、および、スカーレット姫が驚いてる。
何をしたのかわかってない人たちには、今何が起きてるのか理解できないだろう。
「ワルイ。本当におまえが犯人なのだな?」
と、国王陛下が尋ねる。
「そうですぞぉ! ワタクシがはんにんですぅう! ってあれえええ!? 思ってることが全て口に出てしまうぅ! どうなってるのだぁあああ!?」
ワルイ大臣を含め、この場にいる全員が困惑してるようだ。
私は説明する。
「脳の一部を斬り、嘘をつけなくしたのです」
「は? …………はぁぁああああああ!? 脳の一部を斬ったぁ!?」
ワルイ大臣が驚愕する。
国王陛下が私にたずねてくる。
「アレクサンダー殿。どういうことか?」
「脳の一部、理性を司る部分を傷つけたのです。結果、彼は嘘がつけなくなりました」
「なんと……。しかし、ワルイには血の一滴も出てないようにみえるが?」
「はい。闘気を刃にかえて、体の内部に送り込んだのです。外部から刃で傷つけていないため、出血はありません。また、斬った後白色闘気で治癒し、細胞を活性化させることで、臓器へのダメージ、出血量をゼロにすることができます」
「な、なんと!?」
……ふむ。
国王陛下は驚いていらっしゃる。無理もない、闘気を使った手術なんて、珍しくて見たことがないだろう。
「ちょっと難しくて何言ってるかわからないわ」
「人体の手術をするときは、メスなどを用いて、体を切り開くでしょう? でも、闘気を使えば、体を開くことなく、内臓などを治療できるのです」
「えええー!? そ、それってめちゃくちゃすごいじゃない! さすがアレクね!」
どうやらスカーレット姫も、私のやったことを理解してくださったようだ。
さて。
「ワルイ大臣。あなたはもうこれで嘘がつけません。あなたが、内通者です」
「わははあ! そうだぁ! よくぞ見破ったなぁ! ああくそ、嘘がつけないぃいいい!」
ワルイ大臣の自白を聞いて、陛下が決定をくだす。
「そやつを捕えよ」
「ちく、しょぉお! こうなったらやけだぁ! おまえら動くなよぉ!」
ワルイ大臣が懐に手を突っ込む。
「これが目に入らないかぁ!」
「そ、それは……?」
「爆弾だぁ!」
「ば、爆弾……? 何も持ってないじゃない」
「はぁああ!?」
スカーレット姫がワルイ大臣の腕を見ていう。
その腕には、何も握られていなかった。
というか、そもそも腕が、なかった。
「ひぃいい! 腕がないぃいいい! 腕がないのに血がでてなぃいい! こわいこわい何が起きてるんだよぉおおおお!?」
私はワルイ大臣の元へ向かう。
足元に落ちてるそれを手に取る。
「そ、それはワタクシの腕ぇ!? き、貴様まさか、き、斬ったのか!? あの一瞬で!?」
「ええ。はい、返しますよ」
私は切断したワルイ大臣の腕を、ぴたり、とくっつける。
大臣の指がぴくっ、と動く。
「う、うそぉお!? 切断された腕が、く、くっついたぁ!? い、一体何がおきてるのだぁ!?」
「一流の剣士は、刃で大根を切っても、ぴったりと二つがくっつくといいます。あれです」
「いやいやいや! 大根と人間の腕は別だろう!?」
「同じですよ」
「いや同じじゃないからぁ! 貴様、化け物かぁ!?」
「いえ、ただの剣士です」
するとワルイ大臣は叫ぶ。
「嘘を見破り、体を治療し、魔法のようなことやってのける。貴様のような剣士がいてたまるかぁあああああ!」
その後、ワルイ大臣は騎士たちに拘束され、地下牢にぶち込まれることになった。
「アレクぅ! ありがとう! 国を救ってくれてっ!」
「アレクサンダー殿。感謝申し上げる」
姫と国王陛下が私に頭を下げてきた。
私は言う。
「いえ。副王として、剣士として、当然のことをしたまでです」
「ああ、やはりあなたはすごいお方だ。だからこそ、逃してしまって、惜しいことをした……」
するとスカーレット姫がいう。
「パパ。あたし、アレクのお嫁さんになるっ。ネログーマに嫁ぎたいの!」
「おお! そうか! その手があったか!」
すると国王陛下が私に向かって、またも深々と頭を下げる。
「アレクサンダー殿! どうか、我が娘をもらってはいただけないでしょうか! おねがいします!」
お、お願いされてしまった。
まあ、こちらとしてはネログーマの国益になるので、願ってもないことだが。
「スカーレット姫は、良いのですか? 自分が政略結婚の道具に使われても?」
「もちろんよ! 政略結婚大いに結構! ま、他の凡百な男どもになんて絶対に嫁ぎたくないけど、アレクは特別だものっ」
ぎゅーっ、とスカーレット姫が私の腕にしがみついてくる。
ううん、いい、のかな。まあ、本人が納得してるし、親も了承してるのであれば、いい、のか。
「わかりました。では、よろしくお願いします」
「やったー!」「でかしたぞ、スカーレット! これで我が国の未来は安泰だ!」
かくして、私にまた新しい嫁ができたのだった。
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