第38話 禁術を使い方こなしてた
水蓮が後宮に加わった。
その日のうちに、私と水蓮は、ゲータ・ニィガへと向かった。
馬車にて。
「でも副王さま。どーして、ゲータ・ニィガに行くんすか?」
窓の外から、馬に乗った、ワンタくんが尋ねてきた。
護衛として、兵士のワンタくん、トイプちゃんが付いてきてるのである。
「水蓮を、国選勇者をうちで預かることになりましたからね。きちんと状況説明と、許可をもらわないと」
「ふぅん、面倒っすね。本人が移籍したいってんなら、させてあげりゃいいのに」
「そうはいきません。水蓮は国からの援助を受けて、人々を救う活動をしてたのですから。勝手に辞められませんし、辞めるにしても、きちんと事情説明しなければ」
「なるほど……」
水蓮がぺこぺこ、と頭を下げる。
「申し訳でござる、ご迷惑をおかけして」
「いえいえ、気にしないでください。外交も副王の仕事ですから」
「はう♡優しいでござる……素敵……♡」
私たちを乗せた馬車がガラガラと進んでいく。
「ゲータ・ニィガに行って帰ると、けっこーかかるっすよね。ネログーマを離れてる間に、副王さまのお客様が来たらどーするっす?」
「さすがに、私を尋ねてくる方はもう直近じゃいないのではありませんか?」
シルフィード、水蓮と、ここ最近来客が多かったが。
さすがにそんなには、客がこないだろう。
「他の四大勇者さんは?」
「残り二人は今、遠征に行ってるでござる。すぐには戻ってこれないと思うでござるよ」
火、および地の勇者は任務で遠方にいるそうだ。
「勇者さん以外のお客さんが来たら?」
「そのときは、待っててもらうしかないですね。申し訳ないですが。ただまあ、弟子以外で私を尋ねてくるものなんて、絶対いないとは思いますがね」
そんなふうに馬車を走らせてると……
「馬車を止めてください」
がたん、と車輪が止まる。
水蓮は遅れて気付く。ワンタくんは首を傾げていた。
「どうしたんすか? まだ目的地じゃないっすよ?」
「お兄ちゃん、気づいてないの? 敵じゃん」
おお、トイプちゃんは気づいたようだ。
闘気コントロールについては、兄より妹のほうが優れている様子。
「うぇ!? まじ? 全然気づけねえ」
「お兄ちゃんもまだまだだねー」
得意がるトイプちゃん。ふむ。このこはもう少しレベルの高いことを教えてもいいかもしれない。
「では、トイプちゃん。近づいてくる敵の種類はわかりますか?」
「え!? そ、それはぁ……うう、わかりません」
「素直でよろこしいです」
私は馬車から降りる。
「水蓮はわかりますか?」
「はいでござる。竜、でござるなっ」
「半分正解ですが、半分不正解です。勉強が足りないようですね」
「あうぅ……面目ない」
さて、では教えるとしよう。
「今から来るのは飛竜です。闘気を極めると、敵の種類までわかるようになります」
「どうやって判別するんですか?」
「闘気は人によって、固有の色と揺らぎをしておりますからね。それを把握できれば、敵の種類を即座に、離れてるところからでも察知できます」
なるほどぉ、とワンタくんとイプちゃんが感心したようにいう。
ほどなくして、飛竜の群れがやってきた。
「ほんとに飛竜っす! 言い当てるなんてすげえ!」
「さすが副王さまっ」
さて。
飛竜程度なら、私が出る幕もないな。
「ワンタくんたち、ちょうどいいです。飛竜を倒してみましょう」
「「はい!」」
二人が闘気を纏い、剣を構える。
私が教えた通り、基本となる正眼の構えをとる。
「衝気!」
トイプちゃんが闘気の弾丸で攻撃する。
弾丸はワイバーンの右の翼を撃ち抜いた。
落ちてくる飛竜に向かって……
「活気!」
ワンタくんが白色闘気で自己強化。
飛び上がって、回転しながら切りかかる。
「極光件、烈空!」
高そく回転しながら、ワンタくんが飛竜の首を一刀両断して見せた。
どさ、と飛竜が倒れる。ふむ。いいですね。
「お見事です。二人とも」
「「ありがとうございます!」」
一方、水蓮が目を丸くしてた。
「す、すごいでござるな。一介の剣士が、ここまでやるなんて……」
「副王様のおかげっすよ。おれたち、ついこないだまで闘気も使えなかったっすし」
「は? はぁいいぃいいいい!?」
水蓮が驚愕の表情を浮かべる。
「は、え、ええ!? 闘気が、ついこないだまで使えなかった!? 本当に!?」
「はいっす!」
「そ、そんな。拙者の剣に闘気が乗るようになるまで、10年もかかったのに……」
はれ? とワンタくんが首を傾げる。
「水蓮さまも、副王さまんとこで剣を習ってたんでしょ? なのに10ねんもかかったの?」
「拙者の場合、弟子入りが一番遅かったのでござるよ。それまでは、家の道場で剣を習ってたでござる」
実家での修行に限界を感じて、私の元へきた、とかつて彼女は言っていた。
「剣を握ってすぐの人間に、闘気を使えるようにするなんて。いったい、アレク殿はどんなマジックを使ったのでござるか?」
「ただ闘気を流すだけですよ」
「は、はぃいいいいいい!?」
ふむ?
水蓮がなぜだか、とても驚いてるぞ。
どうしたのだろうか。
「や、やばすぎるでござるよ、それ。普通、死にます」
「そうなのですか?」
「は、はい。他者に衝気を流すのは、とても難しいのでござるよ。一歩間違えれば相手を殺してしまう。うちの流派では、そのやりかたは禁術扱いされておりました」
「? 普通に簡単にできますが」
「それは、アレク殿だからできることなのでござる。すごい……!」
なるほど。
闘気を流して、一気に目覚めさせるやり方は、かなり危ないやりかただったのか。
辞めておいた方がいいだろうか。
「アレク殿ほどの繊細かつ凄まじいいコントロール術があるなら、大丈夫だと思いますでござる」
「よくわかんねえけど……闘気覚えさせる技術は、副王さまにしかできねーってことっすね!」
「すっごーい!」
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