第33話 屋敷と妻×5を手に入れる
私はネログーマの副王となった。
……その日の夜、私は、すごい広い屋敷の庭に一人いた。
「待遇が、良すぎる……」
私が現在いるのは、王城の裏にあった、平屋の屋敷だ。
どことなく、日本の武家屋敷を想起させられる巨大な屋敷。
ここは、元後宮だそうだ。
ネログーマ現国王、アビシニアン陛下の後宮だ。
けれど彼女は他に男をとっていなかったため、ここを一切使用してなかったとのこと。
今回、副王である私に、この広すぎる屋敷が与えられたのである。
「困った……」
『ふふっ、どうしたの旦那様』
ネロさんが隣に現れる。
青い髪の美女が、べったりとくっつく。
「ネロさん。あまりくっつかないでほしいのですが……」
色々と大きいのだ。ネロさんは。
「あら♡どうして? 旦那様を欲情させ、あわよくば子種をもらいたがための作戦なのよ♡」
「……そういうの、いいので」
「あら、でも旦那様。王様に言われたじゃない? 副王の仕事について」
……副王の仕事、か。
陛下が私に課した、副王として仕事は大きく三つ。
1.国民への剣術の指南
2.女王の仕事の補佐(国民からの悩み相談)
ここまでは、まあ今までと同じこと。
問題は3つめ。
3.世継ぎを作り、王族を増やすこと
……つまり、女を作り、子をなせと、と。
「国公認で、ハーレムと子作りが認められてるのだから。別に拒む必要はないんじゃない? わたくしはいつでもOKですよ? なんだったら今からでも♡」
ネロさんが身につけているドレスを脱ぎだしたので、私はその手を取る。
「精霊たちの長が、そのようなハシタナイことをしてはいけないと思います」
「きゅん♡すき♡」
目を♡にして、ネロさんが絡みつこうとしてくる。
私はすっ、と半身を捩って逃げる。
「旦那様は女体に興味がないのですか?」
目に涙を浮かべながらネロさんがいう。
だがその闘気を見れば、悲しんでいないのは明らかだ。おそらく嘘泣きで気を引こうとしてるのだろう。
しかし興味がないか? と言われると、どうだろう。
私はもう38のおっさんだ。
しかも、前世の分、年もプラスされるため、魂(があるかはわからないが)の年齢は結構なおじいさんだ。
たけるような性欲はない。が、ゼロというわけではない。
女体を無我夢中で追いかけ回すということはしない。
子をなせ、それが義務だというのなら従うのもやぶさかではないが……
急に副王になれといわれて、はいそうですか、と納得できるわけがない。
心の中で戸惑いの感情でいっぱいだ。
「迷ってるの? 旦那様」
「……まあ。私で本当に良いのだろうかとは思ってます」
「救国の英雄にして、神と契約を結んだのだから、あなた以上に副王に、次期国王にふさわしい人物はいないと思うわよ?」
……そうは言っても。
やはり、私がやるべきことかと聞かれると首を傾げてしまう。
バーマンやエルザといった、もっとこの国を思い、この国のために尽力するような人物がなるべきではないか?
「旦那様は、この国の人たち、嫌いなの?」
「まさか! そんなことはないですよ。ここの人たちは優しいかたばかりだし。弟子もいる。だから……嫌いなわけがないですよ」
「じゃあ、もうそれでいいじゃないの。この国が好き。そしてあなたにはすごい力がある。だから、副王をやる。みんなも納得してたじゃないの」
陛下から副王の座をいただいたあと、兵士の前でそのことを伝えた。
みんな笑顔で、拍手してくれていた。ワンタくんも、トイプちゃんも、バーマンやエルザもだ。
「彼らを愛おしいと思うのでしょう?」
「……そうですね」
「彼らを守るために、副王をやればいいじゃない。次期国王とか、王の資格とか、余計なことを考えずに」
副王という立場になろうと、私のやりたいことは変わらない。
この緑豊かな大地にいる、優しい獣人たちを、守る。か弱き人々を守るため、剣を教え、剣をふる。
立場が上がることで、より多くの困っている人たちの声が聞こえるようになるのであれば。
副王になってもいいかもしれない。
「そうですね。やってみましょう。副王」
「はい決定! じゃあさっそくお勤めを……♡ん〜♡」
ネロさんが私にキスをしようとしてきた。
と、そのときである。
「「ちょっとまったぁ!」」
どこからか、女性の声が聞こえてきた。
塀の上には見知った二人組がいた。
戦神バーマン、治癒神エルザ。
二人の守護神が塀から飛び降りて、凄まじい勢いでこちらにやってくる。
そしてネロさんを引き剥がす。
「あんた第五婦人なんだから、5番めな」
「な!? 5!? 無礼者! わたくしはこの国のお守り様ですよっ? 第五とは何事ですか!」
「わりぃな。順番だからほら」
いや、いや。
何を言ってるのだろうか。
「ば、バーマン? 何を?」
こほん、とバーマンが赤い顔をしながら咳払いをする。
「せ、先生。今日からあたし、ここに住むから。だ、第三婦人として!」
「…………はい?」
ば、バーマンの言ってることが理解できない。
「……そして私はアルの第四婦人」
エルザがふふん、と鼻を鳴らす。い、いやいや。
「い、いつの間に?」
「いやぁ、悪いね先生! 王命なんでこれ!」
バーマンがバッ、と懐から巻物を取り出す。
エルザも同じものを持っていた。
私がそれに目を通す。
……なんということだ。
そこには、王の署名とともに、バーマン、エルザを副王の妻とすると書いてあったのだ。
「こ、これはどういうことでしょう?」
「この国の未来のため、強い遺伝子を残したいという、王の粋な計らいですぜ!」
「そ、そうなんですね……」
ウキウキしながら、バーマンがいう。
「王の命令じゃあしょうがない! 国の未来のためならしょうがない! ということで、先生♡これからよろしくお願いします♡」
「は、はぁ……その、本当にいいのですか?」
「もちろんですよ! 言ったじゃあないですか。アタシ、先生大好きって!」
そういえば、バーマンをはじめとして、彼女らは私に好意を寄せているのでしたね……
「……アル。子供を産ませるのも、たくさんの女を侍らせるのも、副王の仕事だから。ちゃんと副王としての責務を果たさないとね」
にまにま、とエルザが笑いながらいいう。
この人もこの状況を受け入れてるようだ。う、ううん。
まあ、その、仕方ないか。仕事ならば。
「つーことで、みんなで仲良くしようや! な! お守り様よぉ」
ぽんぽん、とバーマンがネロさんの肩を叩く。
くっ、とネロさんが嫌そうな顔をする。
「仕方ない。でも! 第五婦人は嫌です! わたくしはこの国のお守り様なのですよっ。第一夫人にしなさい!」
「いやぁ、そりゃ無理だわ。女王陛下が決めたことだしぃ」
「く!」
……何はともあれ。
私に大きな屋敷と、五人の妻が与えられたのだった。
やれやれ。みなさん、こんな剣しか取り柄のないおじさんのどこがいいのでしょうね……
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