第32話 剣神、副王となる
聖域での事件を片づけ、私は王都へと戻ってきた。
女王陛下にことの次第を報告し、その数時間後。
私は、謁見の間へと呼び出されていた。
アビシニアン女王の前にひざまづく私。
「剣神殿、面をあげなさい」
「はい」
私が顔を上げると……なんでだろうか。
女王陛下がなんだか、熱烈な視線を私に向けてきてる。
隣に立つミーア姫も同様だ。
潤んだ目で私を見てくる。そして、なぜだか頬を真っ赤に染めていた。
な、なんだろうか。
「剣神殿。この度の活躍、誠に大義でありました」
「いえ、私は守護神として当然の責務を果たしたまでです」
「あなた様の活躍をたたえ、この度、褒美を授けることにしました。目録を」
褒美?
また、褒美がもらえるのか?
大臣が近づいてきて目録を渡してきた。
私はそれに目を通して、え、え?
ぱさ、と思わず私は目録を落としてしまった。
は? え?
は?
「あ、あの、陛下。恐れながら、お尋ねしても?」
「ええ、どうぞ♡」
熱烈な視線を向ける女王陛下とミーア姫。
私は、いう。
「この目録には、私に名前を授けると書いてありました。【アレクサンダー・ネログーマ】と」
「ええ♡」
いや、いや、いや。
「あの、陛下? ネログーマの名字は、王族のものではありませんでしたか?」
アビシニアン女王陛下、そしてミーア姫。
二人は王族だ。そして名字はネログーマ。
「そうですわね♡」
「あ、あの……つ、つまり? これはその、私も王族になるということでしょうか?」
「はい。あなたはネログーマ副王となりました♡」
は?
……ふ、副王?
「あ、あの。せ、浅学で申し訳ないのですが、ふ、副王とは? この国のどういうポジションなのでしょうか」
するとアビシニアン陛下が、うっとりとした表情でつぶやく。
「女王の、夫ということです♡」
「…………はい?」
女王の、お、夫!?
「そしてミーアの婚約者として正式に迎え入れることにしましたわ♡」
「は!?!?!?!?!?」
ひ、姫のこ、婚約者!?
な、え、は!?
「あ、あの……り、理解が追いつきません。つまり、女王陛下の夫で、姫の夫、ってことですか?」
「ええ、そうです♡」
いやいやいやいやいや。
「あ、の。その、え? は? その、女王陛下と姫殿下の、夫を兼任してるような形になってますが?」
「それがなにか?」
なにかって。
いやいや。
た、確かに陛下は未亡人とうかがっている。
夫がいないから、新たに夫を迎え入れる。そこまでは、まあわかる。
王族親娘の共通の夫となる意味がわからない。
「私が生きてる間、王位を譲るわけにはいきません。私なき後、王位を継ぐのはその娘、あるいは夫なのです。意味がわかりますか?」
え?
え?
つ、つまり……?
「わ、私を時期国王にしたい、と?」
「はい。そのために、あなたを副王として、私とミーアの夫として迎えることにしたのです♡」
は?
じ、時期国王!? わ、私が!?
「むむ、無理です! だいいち、国民が納得しないでしょう? 私は人間。ここは、獣人国ではありませんか」
エルザから聞いた。
この国は建国から今まで、獣人の王がおさめてきたと。
そこに、人間が王となるだって?
前代未聞ではないか。
「私、常々思っていたのですよ。人もまた動物だと」
「は、はぁ……」
「人間の王がいてもいいのではないかと。私よりも優秀な方でしたら」
「わ、私が優秀!? 大変な誤解ですよ。私なんてただの、年老いた剣士でしかありません……」
すると陛下がぽかんとした表情になる。
「本当に、剣神殿は謙虚なお方です。そんなところも、素敵♡」
「陛下?」
こほん、と陛下が咳払いをする。
「国民も皆納得するでしょう。なぜなら、聖域の【お守り様】を救い、そして契約までしてしまったのですから」
聖域のお守り様?
「ネログーマ建国時は、聖域に住む大精霊様にお力を借りたのです。それ以降、聖域の大精霊様は、我が国に恵みをもたらすお守り様として、信仰していたのですよ」
つ、つまり……国民全員が、大精霊を特別な存在として、あがめていたと?
「お守り様を救い、国を救い、そしてお守り様の夫となった。これだけの偉業をなしたのです。副王、そして、次期国王にふさわしいと、誰もが思っております」
ね、ネロさん?
『なぁに♡旦那様♡』
私の木刀から、ネロさんの声がする。
彼女はこの木刀が居心地がいいといって、ここに宿っているらしい。
「ネロさんって、この国のお守り様だったんですね」
『そうよ♡みんなわたくしを崇めてくれてた、かわいいかわいい子らよ♡』
な、るほど……
つまり、国民全員があがめ、愛してるお守り様を、救った、英雄が、私だと……。
「そういうのは、もうちょっと早く言って欲しかったです……」
『あら♡旦那様は、わたくしがお守り様じゃなかったら、助けなかったの?』
……それは。
そんなことは、ないが。
『でしょう? うふふふ♡』
ああ、なんて、ことだ。
私はこの国に神と崇められている存在を、助けていたみたいだ……
「ということで、あなた様は副王。私と、ミーアの夫となってください♡」
……なんて、ことだ。
「ち、ちなみに拒否権は……?」
しゅん、と女王陛下とミーア姫の耳が垂れる。
……これは断りにくい。
それに、せっかく用意してくださったポジションを蹴ったら、王家の威信に関わる。
「ほ、本当に私を夫に迎えても、よいのですか? お二人は?」
「「もちろん♡むしろ喜んで!」」
……そういえば、前に聞いたぞ。
獣人は強いオスに惚れると。神を救うほどの偉業を成した男(私)に、二人は惚れてしまってるのか……
「わ、わかりました。アレクサンダー・ネログーマを、謹んで、拝命いたします……」
かくして私は副王となり、既婚しゃとなり、そして、三人の妻(女王、姫、お守り様)をめとることになったのだった。
どうして、こうなった……?
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