第23話 水不足を一瞬で解決



 水の中級精霊とともに、私はエヴァシマへと戻ってきた。


【おじさんしゅごーい!】


 私の隣には裸身の少女(手のひらサイズ)が浮いてる。


【あの距離、こんな素早く動けるなんて! おじさんはしゅごい!】

「ありがとう。しかし……ふむ。何やら問題がおきてるようですね」


【もんでゃい?】

「問題。街から立ち上る闘気に、ゆらぎが見える」


 闘気オーラのゆらぎは心のゆらぎ。

 エヴァシマの人たちが、みな何かに不安がっているのがわかった。


 私は急ぎ、中に入る。


「どうすりゃいいんだ!」「もう水は飲めないの!?」「どうにかしてくれぇ!」


 平和な街のあちこちから悲鳴や怒号が聞こえてきた。


「どうしましたか?」

「あ! 剣神様だ! 剣神様がきてくださったぞ!」


 わ……! と獣人たちが私の元へ押し寄せる。


「剣神様たいへんなんです!」

「水が! 水がやばいんです!」


 ふむ……?

 水がヤバい……? どういうことだろうか。


「おおい! 先生~!」

「バーマン」


 戦神バーマンが皆を押しのけながら近づいてきた。


「いったいこの騒ぎはどういうことです?」

「面目ねえ……実は、水道がいかれちまってよ。とにかく、来てくれ」


 私たちは街の中央部へとやってきた。

 エヴァシマ中央には噴水公園があり、皆の憩いの場となっていた。


 だが。


「これは……酷い。噴水の水がまるでヘドロだ」


 ドロドロの汚い水が噴水を満たしていた。

 

「先生が出て行ってすぐくらいかな。町中の浄水がこんな具合になっちまったんだ。おかげでみんな、水が飲めなくて参っちまってさ」


 ふむ……確かアビシニアン女王陛下が言っていたな。

 ここの水は、国内最大の湖から引っ張ってきていると。


【きっと、大精霊様の不調のせーだよ!】


 中級精霊がそう叫ぶ。


【大精霊様、この国に水をもたらしていた! でも、今凄く元気ないの! そのせいで、水がヘドロになってしまってんるんだよ!】


「……なるほど」

「せ、先生……? 誰と会話してるんですか? 一人でブツブツと」


 ふむ?

 バーマンには精霊が見えてないし、彼女の声が聞こえてないのか……?


【大精霊さまいっていた。せーれーとの会話ができるのは、こーいの魔法使いだけだって】


 ……なるほど。高位の魔法使い……ん?


「じゃあどうして私は精霊と会話できてるのでしょう?」

「せ、精霊と会話!? 先生、そんなことできるの!? す、す、すげええー!」


 バーマン、君はとても素直な子だ。

 それは長所でもあり、短所でもありますよ。


 しかし、状況は理解できた。

 大精霊の不調によって、エヴァシマの水が汚泥になってしまっていると。


 このまま放っておけば、エヴァシマの街だけでなく、ネログーマ全域にも被害が出てしまう。

 守護神として、なんとかせねば。


【私にまかせてー! 水、だせるよー!】


 なんと、水を。


「お願いしますね」

【OK!】


 中級精霊は手を上げる。

 ズゴォオオオオオオオオオ! と彼女の頭上に直径3メートルほどの巨大な水球が出現した。


「うぉおおお!」

【ふふーん! どうだ! 私の水の魔法!】


「先生! どうしたんですか、不調ですか?」

【はぁあああああああああああああん!? なんですってぇ!】


 精霊が切れていた。

 どうどう。


「先生、前にもっと大きな水の球を作ったことありますよね? おなかでも痛いのですか?」

【はぁああん!? ありえないんですけどっ。中級精霊が作った、最高級の水の球なんですけどっ。マックスの大きさなんですけどっ】


 げしげしっ、と精霊がバーマンの頭を蹴っている。

 しかし魔法使いではないバーマンには、精霊に何されてるのか気づいてない様子。


 ふむ。確かに私が闘気オーラで造る水球よりも小さい。

 水はもっと必要だろう。


「極光剣。【青の型】。水星」


 瞬間……。

 頭上に精霊の作ったものを、遙かに超越する大きさの水の球が出現した。


【しゅ、しゅ、しゅごぉおおおおおおおおおおおおおおい!】

「すげえええええええええええええええええええええええ!」


 バーマンと精霊がともに驚いていた。

 結構二人は似てるように思えた。


【中級精霊が作る、最高級の水だわ! それも、一瞬でこんなにたくさん作るなんて! おじさんしゅごい!】

「なんだあ~先生、調子崩してないじゃないですかー。すっげー心配しましたよ!」


【たしかにおじさんはすごいけど、なんかおまえムカつくっ!】


 げしげし、と精霊が蹴りを入れる。

 

「バーマン。これを兵士達で手分けし、街の人たちに水を供給するのです」

「了解ですっ! 先生はどちらに?」

「私は大精霊の元へ行き、問題を解決してきます」


「? 普通にもうこれで解決じゃあないの?」

「水はすぐになくなってしまいます」


 すぐに……? と精霊が上を見て首をかしげた。


「根本的に問題を解決するためには、大精霊の不調を直す必要があります。でないと、ずっとこの先、水はヘドロのままです」

「なるほど! わかったぜ先生! 兵士どもを集めてくるから、ちょっと待っててな!」


 ……ちょっと待ってて?


「あの、もしかして付いてくるつもりじゃ……」

「うぉおお! 先生と二人きりぃいいいいいいい! っしゃぁああああああああ!」


 バーマンが走りながら去って行った。

 ……どうやら付いてくる来まんまんらしい。やれやれ、遊びではないんですよ……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る