第22話 精霊を進化させる
シルフィードから勇者に勧誘された、翌朝。
サクツの街、ゴンギさんの宿にて。
私は一人露天風呂に浸かっていた。
「ふぅ……」
昨日のことを思い出す。
シルフィードから、勇者になって欲しいと言われた。でも、私はその申し出を断った。
理由は単純、ここを出ることができないからだ。
私には剣術指南役、そして守護神としての務めを投げ出すことができない。
その旨をシルフィードに伝えると、彼女は非常に残念そうにしながらも、納得し、ゲータ・ニィガ王国へと帰っていったのだった。
「いろんなことが起きすぎた……」
婚約者を弟子に奪われてから今日まで、イベントてんこもりで、正直かなり疲れていた。
……婚約者といえば。
「シルフィード、なんだかとても怒っていましたね」
弟子に聞かれたのだ。そもそも、どうしてネログーマに来たのかと。
私はハイターを弟子のマオトッコに取られて、理不尽に追い出された旨を伝えておいた。
その際、シルフィードの
『国に帰って報告させていただきます』とか、なんとか。国に報告して、正直だからなんだって話だと思う。
私のようなただのおっさんのことなんて、国はなんとも思ってないだろうし。
報告したところで、だからなんだ、って言われるだけだと思うのだけれども。
「まあ、何はともあれ……これで一息ついた感じですかね」
朝風呂にゆったり浸かってから、エヴァシマに戻るとしましょう。
そう、ゆったりしてから……と思ったその時だった。
【あの、もし?】
……ん?
なんだ、この声?
【もしもし】
「……もしかして、私に話しかけているのですか?」
【! は、はい! よかった〜! 聞こえてるんだねっ】
「ええ、まあ」
子供の声が聞こえてきた。
声はすれど、しかし、姿は見えていない。
【あのねあのね、わたし、あなたにたのみがあるの!】
「頼み事……ですか」
声がしかしない存在の頼み事か。あ、怪しい。
「どちらさまでしょうか」
【わたし、せーれー】
……はい?
精霊?
そんなものがこの世界にはいるのか?
そもそもどこに……?
ふよふよ、と目の前を小さな光の玉が飛んでいる。
「もしかして、君が精霊ですか?」
【うん! おじさん、見えるの?】
おじさん、か。
まあ、38だからしょうがないな。
「ええ。光の玉がふよふよと」
【しゅごい! せーれー、ふつー見えないってだいせーれーさま、言ってた!】
ふぅむ。
確かに私も今まで見たことはなかったな。
しかしなんで急に見えるようになったんだろう。
【あ! おじさん、風の指輪もってるね!】
「ああ、これですか?」
私の右手には、エメラルドの宝石が散りばめられた指輪がはめられている。
【それー! 風の指輪! なんでもってるの?】
「弟子からのプレゼントです。強くしてもらったお礼だと」
今朝方、シルフィードがゲータ・ニィガに帰る前に、くれたのだ。
なんだか顔を真っ赤にして、『受け取ってください〜!』とやけに真剣な表情で。
どうやら、自分だけ強くしてもらってばかりだったから、申し訳ないと感じていたみたいだ。
受け取らないのも逆に悪いと思い、風の指輪を受け取った次第。
そういえばなぜだか、ものすごく喜んでいた。
あれはどういうことだったのだろうか。
【おじさんって、あれでしょ? こないだ、ぶわー! って強いエネルギー、この地下に送り込んできたひとでしょ?】
たしかに、サクツの地中に、
そのことを言ってるのだろうか。
【あのねあのね、だいせーれーさまに、その、ぶわーってやつ、やってほしーの】
「大精霊とは?」
【わたしたちの、おやぶん!】
親分……。精霊たちのリーダーってことだろうか。
【だいせーれーさま、とてもおつかれなの。元気ないないなの。だから、ぶわーってやってほしいの。おねがーい】
……ふぅむ。
話を聞くに、その大精霊とやらが、元気がないらしい。
で、この子は大精霊を元気にしてほしい、と頼んできてるようだ。
正直、精霊と関わり合いはほぼない。私に助ける義理があるかと言われると、ない。
だが。
「いいですよ」
【ほんとー!?】
「ええ。困っている人は見過ごせないので」
【わーい!】
ふわふわ、と私の周りを精霊が飛ぶ。
……ふむ?
精霊ちゃん? くん? の体にも
しかも、
「もしかして君も、お疲れだったりしますか?」
【!? ど、どーしてわかるの? 顔ないのに!】
人間と違って、この子には顔がないので、表情がわかりにくい。
でも。
「私は
【おじさん、しゅごーい!】
声は元気いっぱいなのだが。
どうやら疲れてるのは本当らしい。
「少し闘気を流してあげましょう」
【ありがとー! たのむー!】
私は精霊に手を当て、白色闘気を流しこむ。
自然エネルギーが、精霊の中に流れていく。
がくん、と少し多めに闘気が取られたきがした。
が、まあ別に闘気なんて外からいくらでも取り込めるので、全然疲れを感じない。
と、そのときだった。
カッ!
「は?」
精霊ちゃん? くん? の光が強くなる。
光がどんどんと大きくなっていき、そこには、手のひらサイズの、裸の女の子が出現していた。
「だ、だれです?」
「おじさんすごいよ! わたし、中級精霊に進化したよー!」
女の子はくるくるとその場で舞っている。
え、っと……どういうこと?
「精霊には、微精霊、中級精霊、大精霊、ってサンランクあるの。ほとんどの精霊は微精霊、姿が見えない小さな精霊で障害を終える。進化するなんて一握りなの!」
「へえ」
「おじさんのパワーで、わたし、進化しちゃった! しゅごい、しゅごーい!」
……ううん。
どういうことだ。闘気を精霊に流せば、進化する……ってことか?
わ、わからん。
と、とりあえず……博識なエルザに連絡を入れてから、その大精霊さんとやらの元へ行くとしよう。
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