第24話 凶悪な粘液魔物も一撃で倒す
エヴァシマの浄水が汚染されていた。
どうやら、大精霊の不調が原因らしい。
私、精霊ちゃん、そして戦神バーマンの三人は、大精霊のいる場所へと向かう。
大精霊はこの国の北東にある、巨大な湖【聖域】に住んでいるそうだ。
本来なら聖域には一般人は立ち入れないとのこと。
今回、アビシニアン女王陛下から特別に許可証をいただき、この三名で聖域を調査することになったのだった。
さて。
「バーマン。何か気づきませんか?」
私は森を歩きながら、隣のバーマンに尋ねる。
彼女は首を傾げる。
「い、いや何も……。敵の気配もしねーですし」
「やれやれ。そこの二人、出てきなさい」
私は振り返ってそういう。
するとちょっと離れた木のかげから、ひょっこりと、二人の獣人が顔を出す。
「ワンタくん。トイプちゃん。ダメじゃないですか、ついてきちゃ」
獣人兵士わんたくん、トイプちゃん兄妹だ。
エヴァシマを出てからずっとついていたきたのである。
しばらく歩いてもついてきたので、こうして立ち止まって、彼女らを質問することにしたのだ。
「な、なんでバレたんすか……?」
「こっそりついてきたのに……」
二人が近づいてきた。
「
「「
「ええ。闘気を極めると、相手の放つ闘気から、相手の位置を割り出せるようになるのです」
「「す、すごい!」」
それにしても、やれやれ。
「バーマン。二人の闘気に気づけなかったのですか?」
「や、ご、ごめんなさい先生……。アタシ、魔物の闘気には気づけるんだけど、戦意のないやつの闘気探知はどうにも苦手で……」
ふむ。
確かに前から、バーマンは苦手そうだった。
敵意のない相手の闘気は揺らぎが少ないため、感知しずらいのだ。
「修行不足ですね」
「面目ないです……」
さて。
次はワンタくんたちにいう。
「君たちはどうしてついてきたのですか? 今回は、兵士たちはついてこないようにと、バーマンが命令したはずですが?」
「そーだぜおまえら! なんでついてきやがった?」
しゅん、とワンタくんたちが肩をすぼめる。
「ご、ごめんなさいっす。おれは止めたんすけど妹が……」
「あたし、剣神さまとバーマンさまの、実戦の剣を見たかったんです!」
なるほど。
トイプちゃんは新兵だ。まだ実践訓練を受けていない。
実戦での私たちの剣を見たことがないのだ。
だから、好奇心を抱き、ついてきたと。
「ほら、やっぱりめーわくだ! 帰るぞ、トイプ!」
「えー! 帰るならお兄ちゃんだけ帰りなよぅ! ね、剣神さま、ついてっちゃだめー?」
「ダメに決まってんだろ、遊びじゃなし。危ないからついてくんなって言ってたんだぞ!」
「やー!」
どうやらトイプちゃんは結構わがままな妹のようだ。
元々そういう性格だったんだろうか。病がなおって、元の性格に戻ったのだろう。
「いいですよ。許可しましょう」
「ほんとー!」
「ええ。何かあれば私が守りますので」
「やったー! 剣神さまありがとー! やさしいー! 大好き!」
トイプちゃんが私の腰にしがみついてくる。
はは、子犬みたいで可愛い。
「お、おれもついてっていいっすか。見て、覚えたいっす」
「どうぞ。では、行きましょうか」
こうして、私たち三人に加えて、獣人兵士二名を連れて、聖域を目指すことになった。
さて。
私たちがしばらく歩いていると、敵の気配を感じ取った。
私はバーマンのテストも兼ねて何も言わないでおく。
バーマンは立ち止まり、大剣を抜いた。
「先生」
「ええ、そのとおり。敵への闘気感知は見事ですね」
「えへへっ。っと、あいつはアタシがやります!」
「まかせますよ」
私たちの会話を聞いて、獣人兄妹が首を傾げる。
「どうしたんすか?」
「敵が現れたので、バーマンが対処するそうです」
「敵!? そんな気配まったくしないのに」
「五感だけに頼っていてはいけません。闘気を感じ取れるようになりましょう」
バーマンが大剣を構えて立つ。
そこへ、茂みから巨大な猪が飛び出してきた。
「
猪を前に、バーマンは歯を剥いて、飛び出す。
彼女の体から赤い闘気が噴き出す。
「烈火の太刀! 焔斬り!」
赤色闘気を纏った体験で、回転しながら、猪の体を一刀両断。
どがあぁああん!
猪は大爆発を起こし、木っ端微塵になった。
「す、すげえ! バーマン兵士長すげえ!」
「あんなおっきな猪一撃で倒しちゃうなんて!」
二人がはしゃぐ。
「ま、ざっとこんなもんよ。ど、どうですか先生!」
「いい一撃です」
「しゃあ! ありがとうございます! 先生に褒めてもらえて、すっげーうれしいです!」
ぱたぱたぱた! とバーマンが尻尾を揺らしまくる。
「剣神さま、今のってどういう技だったんすか? 切ったあとにぼがんって爆発したようにみえたっすけど」
「あれは赤色闘気を使った一撃ですね」
「前から思ってたんすけど、その〜色闘気ってなんなんすか?」
「闘気には7つの種類があるのです。赤い色の
「性質変化?」
「
「そ、そんなことできるんすか!?」
「ええ。鍛えていけばだれでもね」
なるほどぉ! と二人が目を輝かせながらいう。
二人もバーマンみたく、かっこよく闘気を変化させて戦いたいのでしょう。
「ただ、性質変化を覚えるためには、基礎となる内力系、外力系の闘気の扱いを覚えないとですね。修行あるのみです」
「「はい!」」
さて。
先へと進んでいく。
「お、また黒猪です。アタシがやっつけます!」
茂みからのそり、と猪が顔を覗かせる。
バーマンは特に気にせず突っ込んでいった。
だが、私は違和感を覚えていた。
あの猪の体から立ち上る闘気の性質が、さっきの個体と異なっていたからだ。
「お待ちなさい」
「焔斬りぃ!」
バーマンは私が静止するより早く剣で敵を切りつけた。
大爆発を起こす。
「余裕! って、うわぁ!」
猪の死体から、何かが飛び出してきたのだ。
黒い粘液のようなものが、べちゃり、とバーマンの体にまとわりつく。
「うわ! な、なんだよこの黒いヘドロ! くそ! 取れない!」
バーマンの体に黒い粘液がべったり張り付いてる。
彼女がそれを取ろうとするも……
「だ、だめだ! 液状だし掴めない。それに、なんか、し、しびれてきた……」
バーマンは額に汗を流す。
「ち、ちくしょ! はなれろ!」
バーマンは身につけている服を脱いで、そして放り投げる。
べちゃ、と粘液が少し離れた場所に落ちる。
ずる……ずる……と粘液が動き、黒い水球へと変化した。
「どうやら魔物のようですね。猪の体内に寄生してようです」
「ちくしょ! なめやがって! くらえ!」
上半身裸のまま、バーマンが体験で、黒い粘液生物に切りかかる。
だが。
ふにょん。
「くそ! 柔らかすぎて切れない! って、ひゃぁああん!」
黒い粘液が今度はバーマンの肌に直接張り付いてしまった。
ぺたん、とバーマンが腰をつけてしまう。
「だ、だめ……なんか、力が抜けて……しびれて……」
どうやら、ここまでのようですね。
私は木刀を手にとって、弟子の元へ向かう。
「な、なにするんすか?」
「この粘液生物を倒します」
「え!? で、でもバーマン兵士長にくっついて……」
私は木刀を上段にかまえ、そして、振り下ろす。
すこん!
「うわぁあ! バーマン兵士長ごと斬ったぁ!?」
「! お兄ちゃん見て、戦神さま、無事だよ!」
「なんだってぇ!?」
粘液生物だけが煙のように消えていく。
バーマンは無事だった。
「ど、どうなってんすか!? バーマン兵士長はどうして無事なんすか?」
「? 一流の剣士は、どれを斬って、どれを斬らないのか、選択することくらい誰だってできますよ?」
「うぇええ!? ま、まじっすか!?」
「ええ。まじです」
私はバーマンの服を拾って、彼女に渡す。
「す、すまねえ……先生。へましちまった」
「いいんですよ。それよりバーマン。修行不足ですね。この程度に苦戦するだなんて」
「めんぼくないです……」
少し厳しいだろうか。
いや、でも兵士らとちがって、この子は他の弱い子たちを守る立場なのだ。
強くなってもわらないといけない。
「先生……ありがとうございます! 愛のあるご指導、感謝です! 部下たちのために、アタシ、もっともっと強くなります!」
きちんと私の意図は伝わってくれたようだ。
「精進なさい」
「はい!」
それにしても、とトイプちゃんが近づいてくる。
「さっきのネバネバ生物、なんだったろーね? お兄ちゃん」
「うーん、スライムじゃないかな?」
「そっかー! スライムかー!」
……バーマンがスライムごときに、手を焼くだろうか?
何か別のものではないだろうか。
「一撃で倒しちゃった、剣神さま、やっぱりすごーい!」
「はんぱないっす! さすが剣神さまっす!」
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