第20話 枯れた井戸と温泉を復活させる



 サクツの街にて。

 外壁を修繕したあと、私はサクツの街にやってきた。


 街長のゴンギさんから、怪我人がいるとうかがったのだ。

 私、エルザ、シルフフィードの三人は街へと訪れる。


 怪我人はそこまで多くなかった。

 シルフィードが火山亀の注意をひきつけてくれていたからだろう。うちの弟子は本当に優秀だ。


 怪我人を白色闘気で直し、また壊れた建物を橙色闘気で修復した。

 これで問題は解決した、かに思えたのだが。


「剣神様。治癒神様。ご相談がございます」

「どうしました、ゴンギさん?」

「実は、今とても困ったことが起きておりまして」

「うかがいましょう」


 ゴンギさんに連れられ、私は街の中心部へとやってきた。

 そこには、巨大な穴があった。


「この穴はなんですか?」

「温泉でございます」

「ほぅ、温泉」


 ここにそんな魅力的なものがあったとは。

 エヴァシマからも近いし、今度ここへ温泉に入りにでもこようか。


「といっても、跡地なのですが」

「ふむ? 跡地……?」

「はい。かつて、サクツは有名な温泉地でした。ですが、時代の経過にともない、温泉が出なくなってしまったのです」


 ふぅむ……それは残念。

 非常にもったいない。温泉があればもっと人も来るだろうに。


「困り事とは、温泉が沸かないことでしょうか?」

「それとは別の問題があるのです。こちらです」


 私たちは街の中心部へとやってきた。

 そこには、井戸があった。


「先ほどの火山亀襲撃の際、ついに、井戸までもが枯渇してしまったのです」


 ゴンギさんがオケを井戸の中に落とす。

 かこーぉん……という乾いた音が響くばかりだ。


「……巨大魔物出現による地震の影響で、地下水が枯渇してしまったのでしょうね」


 エルザが枯井戸を見ながら分析する。


「治癒神様。魔法でどうにかできないでしょうか」

「……そうね。水の魔法でこの井戸を満杯にはできるでしょうけど。でも、一時的な処置にすぎないわ」


 入れた分の水がなくなったら、また水が足りなくなってしまう。


「エルザ。地下水を復活させることはできないのか?」

「……無理ね。残念だけど」


 がくっ、とゴンギさんが肩を落とす。

 ふむ?


「どうして落ち込んでいるのですか?」

「だ、だって魔法じゃどうにもできないと」

「ええ、魔法では無理というだけです」


 私は木刀を手にもつ。


「極光剣。【青の型】」


 ぶぶうん、と刃に青い光が付与される。


「水柱」


 木刀をぱっ、と枯井戸のなかへと落とす。

 すとん、と木刀の先端が井戸の底に突き刺さる。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!


「……な、なに!? なに!? 何が起きてるの!?」


 エルザが慌てふためく。

 どばぁあああああああああああああん!


 井戸の底から、大量の水が溢れ出してきたのだ。


「す、すごいです! 剣神様! 水が! こんなに大量の水が溢れ出るだなんて!」

「い、一体何をしたの、アル?」


 地面に落ちてる木刀を回収して、私はいう。


「闘気を地面に流したのです」

「それでこんなふうにできるの?」


「ええ。もとよりここには水脈があったのです。が、地盤が変動して水が出なくなった」


 水脈がなくなったわけではないのだ。


「水脈に自然エネルギーである闘気を流すことで、水は勢いと量を取り戻し、結果として水が溢れ出るようになったということです」

「……な、なるほど。闘気は性質を変化させ自然のものにできるし、自然そのものに活力を与えることもできるのね。すごいわ」


 む?

 ゴゴゴゴゴゴお! とまた地面が揺れ出した。


「な、なんだ!?」


 ドバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


「また水が吹き出したぞ!?」

「温泉の跡地のほうからだ!」


 温泉の跡地のほうからも、水が吹き出した……?

 私たちは現場へと急行。そこにあったはずの穴のなかには、大量のお湯で満たされていた。


「お、温泉だ! 温泉が復活したぞ!?」


 巨大な穴を満たすお湯からは、硫黄の香りがただよっている。

 温泉だ……。


「ふむ。しかし、どうして?」

「……アル。おそらくだけど、闘気が枯た温泉にも作用したんじゃない?」


 地面の中の熱エネルギーも活性化させていた、ということか。

 

「ありがとうございます、剣神様!」


 ゴンギさんが涙を流しながら、私に何度も頭を下げる。


「井戸の水だけでなく、枯てしまった温泉までもを復活させてくださるなんて! なんてお礼をしてよいやら!」

「お礼なんて不要ですよ。私はこの国を守る、守護神の一人なのですから」

「ああ! なんて素晴らしいひとだ! ここに生まれて、本当によかったぁ!」


 その様子を、シルフィードは見ていた。

 何度もうなずきながら、けれど、少し寂しそうな顔をしていた。


「どうしました、シルフィード」

「……いえ。師範は、この国になくてはならない存在に、なってしまったのですねと思って。嬉しい反面、寂しくも、あります……」


 ふむ?

 寂しい?

 どういうことでしょうか……?

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