第19話 壊れた外壁を修復・強化



 西の街サクツにて、弟子のシルフィードを強化した。


「あ、あのぅ……」


 街の方から、狐の獣人がやってきた。

 

「剣神様……でございますよね?」

「はい、そうです」


 ほっ……と獣人が安堵の息をつく。


「剣神様。そして、勇者様。このたびは助けてくださり、誠にありがとうございました」

「いえ。それより、あなたは?」

「申し遅れました。サクツ街長の、【ゴンギ】と申します」


 なるほど、街長さんだったか。


「いえ、剣士として、当然のことをしたまでです。ですよね、シルフィード?」

「…………」

「シルフィード?」


 シルフィードは「は、す、すみません!」と頭を下げる。

 何か考え込んでいたようだった。ふむ? どうしたんだろう。

 

「どうかしましたか?」

「い、いえ……剣神様、というのは?」


 ああ、そうだった。

 シルフィードには伝えてなかった。


「私は今この国で、剣を教えているのです。そして、剣神といって、この国を守護する立場についてるのです」

「!? く、国の守護者……! す、すごいです師範!」


 キラキラ、とした目を私に向けてくる。


「これで、【やっと】……師範のすごさが、世に伝わるわけですね!」

「いえいえ。私なんて、全然凄くないですよ」

「いえ! 師範は凄いです! 私は、ずっと歯がゆい思いをしていたのです。こんなに凄い人が世界にはいるのに、世界はそれに気づいていない……と!」


 シルフィードは大げさにそういう。

 凄い人?


 ううん……確かに私はそこそこ腕が立つ。

 が、私にとって凄い人とは、デッドエンド村にいるアベル爺やセイ婆など、世界を救った英雄たちなのだ。


 私は世界なんて救ったことは一度もない。


「私なんて、まだまだですよ。シルフィード、あなたは知らないようですが、世界にはもっともっと凄い人が居るのです」

「! なるほど……しかし、私にとって凄い人は、英雄は、師範です! それは揺るぎないです!」


 やれやれ。どうやら、シルフィードは少々、視野が狭いみたいだ。

 まあ、勇者として活動していくうちに、気づくだろう。世界の広さに。


「ところで……剣神様。お願いがございます」


 サクツ街長、ゴンギさんがそう言ってくる。


「お願い?」

「ええ。サクツの壁を直す作業を、手伝ってはいただけないでしょうか?」


 外壁は先ほどの巨大亀の襲撃により半壊していた。

 レンガの外壁を、全部直すとなると、結構時間がかかりそうだ。


 なるほど。理解した。


「街の大工たちが直してる間、魔物が襲ってこないように……」

「わかりました」

「え? ま、まだ言い終わってないのですが……」


 つまり、だ。


「このレンガの外壁では、また魔物が襲ってきたときに危ないから。もっと強固な物に作り替えて欲しい。そういうことでしょう?」

「え? あ、いや……まあ、それができたら確かに最高ですが……ですが、レンガの壁を直すのだって一苦労で……」


 私は木刀の柄を持って、刃を地面に突き立てる。


「極光剣。【橙の型】」


 橙の型。土の型とも言われる。

 橙色闘気が私の手から、刃を通して、地面を伝わる。


「土隆壁」


 瞬間……。

 ズォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「なっ!? じ、地面から土が盛り上がって、壊れた外壁を修復していくぅう!?」


 橙色闘気は大地に作用する。

 まずは大地に含まれる粘土層だけを選別して操り、それを使って壊れた部分を覆う。


「続いて、極光剣、【橙の型】、鋼鉄化。さらに【白の型】、活性」


 二種の闘気を刃に込めて、一気に流し込む。

 粘土部分を中心として、外壁をぐるりと、私の闘気オーラが覆う。


「ふむ……こんな物でしょうか。どうしました?」


 ぱくぱく……とゴンギさんが口を開いたり閉じたりしてる。

 また、その一部始終をエルザが見ていた。


「……凄い。修復魔法、錬成魔法その二つを、こんな高度なレベルで扱えるなんて」

「? いえ、魔法ではなく、剣技ですよ」


 橙色闘気を使って、大地を動かしただけだ。

 

「これで壊れた部分を直せましたし、外壁の防御を闘気で強化しておきました。多分これで、大丈夫だと思われます」

「は、はあ……なる、ほど?」


 と、そのときだった。


「ガメェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」


 む?

 この声は……私が葬り去った巨大亀のもの。


 私達の背後に、突如として、その亀の闘気オーラを感じ取った。

 振り返ると、先ほどの亀がいた。


「ちょうど良いです。シルフィード。あれは貴方に任せますよ」

「! わかりました……! 私もちょうど、新しい力を試したいと思っていたところです!」


「では、紫色闘気の操るこつですが……」


 私が弟子に教えている間、ドシュウッ! と亀が背中から、噴石を発射した。



「アル! 敵が攻撃してきてるわ!」


 私はシルフィードと話している。


「基本は緑色の使い方と同じです。ただ、紫色闘気は内力系活気という意識を忘れずに」

「ちょっと!? アル!? なにぺちゃくちゃ話してるの!? 敵の攻撃が当たるわよ!?」


 ?

 エルザは何を慌てているのだろうか。


「大丈夫ですよ?」


 敵の巨大噴石が、サクツの外壁に激突。

 ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


「ええええ!?」

「な、なんということだ! が、外壁が……壊れない! 傷一つ付いてないですってぇえええええええ!?」


 エルザとゴンギさんが驚いてる。

 ? 何を驚くのだろう。闘気で外壁の防御力を、強化したと私は説明したはずなのだが。


「そ、そんな……! アル。あの亀は火山亀! Sランクの魔物のなかでも、かなりの火力のある魔物なのよ!? 神威鉄オリハルコンすらその攻撃は砕くと言われてるのよ!?」


 神威鉄オリハルコン……?

 ゲームだととても硬い鉱石として出てきていたが。この世界にもあるのだろうか。


「大丈夫です。闘気で強化してるので。あの程度の攻撃なら、何回、何千回受け手も、びくとしませんよ」

「す、すごいです! さすが剣神様!」


 さて。


「シルフィード。準備はいいですね?」

「はい! いけます!」


 彼女の体を、紫色の闘気が覆っている。

 ばち! ばち! と彼女の体から電気が発生してた。


「いきます、師範! 極光剣、【疾風迅雷】!」


 私もよく使う技、紫の型、疾風迅雷。

 闘気オーラを電気にかえて、それを使って自らの体を強化する内力系活気。

 

 シルフィードはぐぐっ、と体を縮め……。

 ドンッ……! と地面を蹴る。


 迅雷のごときスピードで大地を駆け抜け、そのまま火山亀に、正面から突きを放つ。

 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 亀は体の中心をぶち抜かれて、絶命した。


「はぁあああ!? え、Sランク魔物を、一撃で倒したですってぇ!?」


 エルザが驚愕。

 そんなに驚くことだろうか。あの程度、あの子が本来の力を発揮すれば、そもそも簡単に倒せるのだ。


「師範ー! やりましたー!」


 どんっ、とまたも疾風迅雷をつかって、彼女が戻ってきた。


「お見事です」

「えへっ! 師範のおかげでです!」

「ただ…」


 私は死骸を指差す。


「君ならあの亀、遺体も残さず木っ端微塵にできたはずですよ」

「いやいやいやいや!」


 エルザが首を激しく横に張る。


「Sランクを一撃で倒してる時点で十分でしょ!?」

「いいえ、倒すだけなら、誰でもできます」

「できないわよ!!!!!」


 ふむ?

 ふぅむ、そうなのだろうか。


「なんにせよ、剣神さまは、すごいですな! お弟子様ですら、こんなに強く育ててしまうだなんて!」


 ゴンギさんがシルフィードを褒めてくださり、私も鼻高々であった。

 そう、弟子はすごいのだ。


「……あなたも十分だって言ってるに」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る