第16話 無限の闘気で獣人たち大量レベルアップ



 数時間後、練兵場には兵士たちが集まっていた。

 私の前には行列ができている。


「うぉおおおお! 力がみなぎります!」


 私は獣人兵士の手を握り、白色闘気を流す。

 すると彼の体から闘気が吹き出す。


「今貴方の体を包んでいる光が見えますか?」

「はい! 見えます! それに……剣神様の体の光も! すさまじいですね!」

「ありがとう。それが闘気オーラです」

「これが……! うぉおおお!」


 獣人兵士はその場でジャンプ。

 びょん! と空高く飛び上がった。


「うおぉおおお!」「すげえええ!」「なんだあのジャンプ力!」

 

 驚く兵士たちに、私は言う。


「次の方」

「はい!」


 そうやって闘気オーラを次々と兵士たちに流していく。

 

「せ、先生……!?」


 元弟子バーマンがこちらにやってくる。

 慌ててる様子だ。やれやれ。


「バーマン、寝坊ですよ。寝坊癖は昔から治りませんね」

「あ、あう……すみません……」


 私はバーマンの寝癖を手で治す。

 彼女は「ふぉ……♡ さいこぉ~……♡」と目を閉じて気持ちよさそうにしていた。昔から、こうしてあげると彼女は喜ぶのだ。


 

「はっ! そ、それより先生! いったい全体、こりゃどういうことですかい!?」

「兵士たちのことですか?」

「そうだぜ! どうなってんだ、兵士たちが、みんな闘気オーラ使いになってるぜ!?」


 バーマンが驚くのも無理はない。

 昨日まで、兵士たちの中で、闘気オーラを使えるものはいなかったのだから。


「戦神さまっ。説明いたします!」

「ワンタ……って、トイプ!? おま……足はどうしたんだよ!?」


 若き獣人剣士、ワンタくんの隣には、妹のトイプちゃんが立っている。

 バーマンはトイプちゃんが、足が不自由なことを知ってるようだ。


「剣神様に歩けるようにしてもらったんです!」

闘気オーラをこう、おれらに流してくれたおかげで、こんな風になったんですよ!」


 ぎょっ、とバーマンが目をむく。

 だが、何度もうなずいて、拍手してきた。


「さすが先生だぜ! やっぱ闘気オーラ操作コントロールの腕は、超一流だなっ! なにせ、他者に闘気オーラを流しても、相手を傷つけてないんだからさ!」


 ふむ?

 それのどこが難しいのだろうか。他者への闘気オーラの付与なんて、簡単ではありませんか。


「ばーまんおねえちゃん、他者に闘気オーラを流して傷つけないって、どーゆーこと?」


 トイプがバーマンに尋ねる。


闘気オーラってのはな、外に出すとこう、ぐぁー! ってなる」

「ぐ、ぐあー?」


「そう。で、ぐあーって、なるから、それを受けると、どひゃー! ってなる」

「ど、どひゃー?」


 やれやれ。

 バーマンの説明が雑すぎて、子供らがわかっていないではないか。


「バーマン。もう少し丁寧に説明してあげなさい」

「す、すんません……先生……どうにも口で説明するの苦手で」


 私はバーマンに変わって説明する。


「皆さんも聞いてください。闘気オーラの説明をしますね」


 兵士たちが私に注目する。


闘気オーラには二種類あります。【外力系・衝気】【内力系・活気】」

「がいりきけい……。ないりきけい……」


「はい。短く外力系、内力系とも言います」


 外力系・衝気→ためた闘気オーラを外に放出。

 内力系・活気→闘気オーラをためて体を強化。


「外力系は攻撃、内力系はパワーアップ、ってかんじですか?」

「そのとおりですよ、ワンタくん」


「なるほど……外力系は基本攻撃だから、他者を傷つけてしまいますよね?」

「そうです! 飲み込みが早いですよ、ワンタ君」


 そうなのだ。

 外力系衝気は通常相手を傷つけてしまう。


「じゃあ、けんしんさま。あたしにやったのは?」


 トイプちゃんが手を上げて質問してきた。

 彼女の足は、私が闘気オーラを付与して治した。


「外力系でアウトプットした闘気オーラを、他者の体に入る瞬間に内力系に変換したのです。そうすることで、他者を傷つけず、闘気オーラを付与できるのです」


 なるほどぉ……と兵士たちが感心してる。

 ん?


「君たちは……?」


 そのとき、私は気づいたのだ。

 兵士たちの後ろに、見慣れる獣人たちがいた。


「……おはよう、アル」

「エルザ。おはよう」


 昔なじみにして、宮廷医長、治癒神エルザがそこにた。


「エルザ。君の周りに居る獣人たちは誰だい?」

「……宮廷医たちよ」


 宮廷医。なるほど。


「あ、あの! 剣神様!」


 めがねをかけた、ウサギの獣人が手を上げる。

 宮廷医のひとりのようだ。


「なんでしょう?」

「わ、我々にも闘気オーラを使えるように、していただけないでしょうかっ?」

「? かまいませんが? どうして?」

闘気オーラを医術に使えないかな、と! トイプちゃんを見て、思ったんです!」


 なるほど……。

 医術か。確かに、闘気オーラをつかえば怪我の治りも早くなる。


「なるほど。わかりました。では、闘気オーラを覚醒させますね」

「おねがいしますです!」


 私はめがねウサギ獣人ちゃんの手を握り、白色闘気を流す。


「こ、これが……闘気オーラ! 力がみなぎるのですっっ!」

「宮廷医の皆さんにも闘気オーラを付与しますので、並んでください」

「「「はーい!」」」


 私は宮廷医たちにも、兵士たちと同様に闘気オーラを流し続けた。

 エルザが目をむいている。


「な、なあ……エルザ……」

「……なに? バーマン」

「先生……やばくね?」

「……ええ、相当に」


 ん? 二人が何か話している。


「どうしたのですか?」

「い、いや先生さ……兵士全員、宮廷医全員に、闘気オーラを流してたけど……全く疲れてないですよね?」

「? はい。全然」


 全く疲れていない。


「一度に流す闘気オーラの量、結構あるじゃないですか。それをこの大人数に付与しても……全然?」

「はい、全く」

「す、す、すげええ……」


 すごい?

 どういうことだろうか。


「……アル」


 エルザがため息交じりに言う。


「……私ね、あの村にいるときは気づかなかったけど。その後研究してわかったことがあるの」

「はい、なんでしょう?」


「一日に生産できる、闘気オーラ量には限りがあるってこと」

「……?????」


 一日に生産できる、闘気オーラ量……?


「何を言ってるのですか。闘気オーラは自然エネルギーを体内に取りこみ、生産します。自然のエネルギーは外には無限にあるのですから、無限に闘気オーラを作り出すことくらい、可能ですよね……?」


 私の問いかけに、しかしエルザは首を振る。


「いいえ、アル。それは間違い。自然エネルギーは確かに外界には無限にある。でも取りこめる量は限られるの。水をイメージして」


「水?」

「たとえばそこに綺麗な、巨大な湖があるとするでしょう? あなたは喉が渇いてる。最初のうちはたくさん飲めるけど、でも次第に飲めなくなっていく」


 なるほど。

 言われてみれば……。


「水を闘気オーラに置き換えて考えれば、伝わるかしら」

「な、なるほど……」


 乾きが満たされれば人は水が飲めなくなる。

 胃袋のサイズだって限りがあるんだから、無限に水(※闘気オーラ)が飲めるのはおかしい……。


「? おいエルザ。水は闘気オーラじゃねえぞ? 何言ってるんだ?」

「……ふぅ。ともかく、アル。闘気オーラを無限に生成できてる、あなたは……異常なのよ」


 そう、だったのか……。

 全く気づいてなかった……。


「ま! とにかく先生はすげえってこった! な、おまえら!」

「「「はい! さすが剣神様ですっ!」」」


 尊敬のまなざしを向けてくる兵士、宮廷医の皆さん。

 私は教える立場として、恥ずかしかった。己の使っている力の全容をきちんと把握できていないのに、教えていたので……。


「エルザ。ありがとう。教えてくれて」

「……ううん。気にしないで。今後も、頼ってくれていいわ♡ なんでも、教えてあげる♡ ねえ部屋に来ない? 二人きりでじっくり、たっぷり……いろいろ教えてあげる……♡」


 エルザが私に近づいて言う。


「ああ、お願いしたいな」

「ちょぉっとまったー! 抜け駆けはずるいぜエルザぁ……!」


 抜け駆け……?

 単にいろいろ名ことを教えてくれるってだけでは……?


「アタシも! アタシも参加したい!」

「ええ、どうぞ。勉強熱心で大変結構ですよ、バーマン」

「えへへっ♡」


 しかしエルザは途端に不機嫌になってしまった。


「邪魔よ。消えなさい」

「やなこった! 二人きりでエロいことするつもりだったんだろ? させるかよ!」

「子供はひっこんでなさい。大人の話をしてるんだから」

「むきー! うるせえババア!」


 仲が良いことだ。

 

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