第15話 兵士を一瞬で超パワーアップさせる



《アレクSide》


 剣神となった翌朝。

 私はベタリナリ城へ向かう。


 今日から本格的に兵士たちに訓練を施す。

 剣神という、この国にとって重要なポジションについた以上、生半可な覚悟でものを教えてはいけない。


 この国に仕える身となったのだ。この国の利益となる行動を常位心がけねばならない。

 もとより軽い気持ちではなかったものの、より一層気を引き締めて、剣を教えないとな。


 さて。現在時刻は6時。

 訓練は朝9時からなのだが、習慣で早く目が覚めてしまった。


 朝食をとったあと、私はベタリナリ城の庭、練兵場へとやってきた。


「ふ! は! せい!」


 練習用のカカシ相手に稽古をしてる子がいた。

 あの子は確か、ミーア姫とともに私のもとにきた、年若い獣人くんだ。


 茶髪に、犬耳の獣人である。


「やぁ、おはよう」

「剣神さま! おはようございます!」


 ぱっ、と笑顔になると私の元へとやってきた。


「改めて自己紹介を! ワンタです! 今日からよろしくです!」

「ワンタくんですね。改めて、アレク・サンダーです。よろしく。君はいつもこんな朝早くから練習を?」


「はい! 自分が一番へたっぴなんで!」

「なるほど。それ感心ですね」

「えへへ!」


 ふむ。時間もあるし、さっそく指導といこうか。


「ワンタくん。君の剣は、元気一杯で大変よろしいです」

「ほ、ほんとっすか!? あざます!」


 頭ごなしに否定するのではなく、まずは相手のいいところを褒める。

 もの教える際の基本だ。


「ただ、力が入りすぎてますね」

「力みすぎっすか?」

「そうです。もっと力を抜いて。脱力から一瞬だけ力を入れたほうが、相手に与えるダメージが大きいのですよ。見ててください」


 私はカカシの前に立ち、木刀を構える。

 すぅ、はぁ、と呼吸をする。力を抜いて、剣を振る。


 ストン。


「えええええええ!? か、カカシを木刀が、すり抜けた!?」


 つんつん、とワンタくんがカカシをつつく。

 ぽと、とカカシの上半分が地面に落ちた。


「す、すげええええ! 木の棒でカカシを切るなんてぇ! ありえないっす! 神業っすよ!」

「君も鍛えれば、できるようになりますよ」


「まじっすか! がんばるっすー!」


 うんうん、素直な子だ。

 こういう子が一番伸びる。ここで、できないよ、とか、そんなの無理とかいう子はちょっと手こずるけれども。


 物事をするとき一番重要なのは、私は、素直さだと思ってる。

 教えてくれる人の言うことに反発するのではなく、素直に受け入れ、実践してみる姿勢。それが、肝要だとね。


「それと、闘気オーラをまとえるといいのですが、できないですね」

「はいっす、さーせんっす!」


 この国に来てわかったことがある。

 それは、誰もが闘気を自在に操れないということ。


 私の教えてきた弟子たちは、最初から闘気が視認できたうえ、コントロール術もすぐに覚えた。

 彼女らは特別に優秀だったのだ。


「すみません、おれ、才能ないっすかね……」

「とんでもない! ありますよ、才能。努力家っていう才能がね」


 私は彼の手をとる。


「この手を見れば、あなたがどれだけ一生懸命剣に打ち込んできたのかがわかります。努力する才能があなたにはある。伸びますよ、あなたは」

「……う。ううう、うううううう! うれしいっすぅ〜」


 ぎゃんぎゃんとなくワンタくん。


「おれがんばるっす! ご指導よろしくおねがいします!」

「はい、こちらこそ」


 さて、どうやって教えていこうか。

 さしあたってはまず、闘気をまとえるようにする。


 私の教えてきた子らはみんな闘気を使えていた。

 最初から使えない子に、どうやって使えるようにするか。


 と、そのときだった。


「おにーちゃーん」


 からから、と車輪が回る音がする。

 振り返ると、そこには可愛い犬の少女が、車椅子に乗ってやってきた。


「トイプ! どうした?」

「トイプ?」

「おれの妹っす」


 ワンタくんがトイプーちゃんの元へ行く。

 なるほど、兄妹か。確かに似てる。


「どうしたんだよ、トイプ?」

「お兄ちゃん、弁当忘れてるよ。はいこれ」

「ああ、ごめんよ〜」


 お兄ちゃんのお弁当を届けにきたのか。

 優しい子だ。


「あ、あのっ。剣神さまですよね?」


 トイプちゃんが私に問いかけてきた。


「ええ、そうですよ」

「やっぱり! わぁ! 本物だ! かっこいー!」


 キラキラした目を私に向けてくる。


「あ、あの! あたしにも剣を教えてほしいんですがっ」

「ばかトイプ! 無理に決まってるだろ。おまえ、足が動かないんだから」


 ふむ。

 トイプちゃんの足の肉つきから、生まれた時から足が動けないのだと思われた。


「そっか……そうだよね。お兄ちゃん。足が動かないと……だめだよね。うん、諦めるよ……」


 落ち込むトイプちゃんの顔を見て、私は微笑む。


「諦める必要はありませんよ。大丈夫、動けるようになります」

「へ? え? ど、どういうことですか?」


 私はしゃがみこんで、トイプちゃんの足に手をやる。


「極光剣。【白の型】。活性」


 私は闘気をトイプちゃんの体に流し込む。

 足が動かないのは、足を動かす神経が生まれつき弱っているからだと思われた。


 だから、私はトイプちゃんの体に闘気を流し、弱ってる神経を活性化させた。


「か、体が、あつい! ていやー!」


 ぴょんっ、とトイプちゃんが飛び上がる。

 

「え、えええええ!? トイプ!? おま、え、ええええ!?」


 空高く飛び上がったトイプちゃん。

 とん、と着地し、その場を走り回り出す。


「みてみてお兄ちゃん! あたしの足うごくよぉお!」

「うぉおおおおお! すげえええええ! 剣神様すげええ!」


 ん?

 なぜ私の方がすごいになるんだろうか。


「ありがとうございます! 妹を、歩けるようにしてくれて!」

「? どういたしまして」


 なんだかワンタくんが大泣きしていた。

 ただ闘気を流して、歩けるようにしただけなのに。大袈裟すぎないだろうか。


「これであたしも剣士になれるね! たー!」


 トイプちゃんが、兄が落としてた木刀を手に取って、カカシにきりかかる。

 すぱん!


「ほげえええ!? 剣神様と同じことしてるぅうう!?」


 ……これは。

 トイプちゃん、闘気をコントロールしてる?


 いや、まさか。

 そうか、そういうことか。


「ワンタくん。申し訳ないが、私の実験に付き合ってくれないかい?」

「いいすけど、なにするのです?」

「今から君の体に、闘気を流す。うまくいけば、君は闘気をコントロールできるようになる、かもいれない」


 トイプちゃんに闘気を流すと、彼女は闘気をコントロールできるようになっていた。

 もしかして、闘気は外部から流し、体を流れる感買うを覚えることで、コントロールが誰でも簡単にできるようになるのでは?


 あくまで、仮説の段階だ。


「いいすよ! むしろ、お願いしますっす!」


 私はトイプちゃんにしたように、ワンタくんにも白色闘気を流す。


「うぉおおおおお! 全身に力が漲ってきたぁ!」


 ワンタくんもまた、闘気をコントロールできるようになっていた。

 まさか、そうか。第三者が闘気を流す、ただそれだけで、コントロールは身につくのか……


「剣神様まじはんぱないっす! 一瞬でこんなすげえ力を、身につけさせちゃうなんて!」

「すごいすごーい!」

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