第13話 魔族を倒した(事後)出世した



 東のガロウとか言う魔物を倒したその日の昼ごろ、私はベタリナリ城へ来るように、アビシニアン陛下から通達があった。

 何かしてしでかしてしまったろうか……?


 しかし、謁見の間には凄い晴れやかな笑顔のアビシニアン陛下、および、よく晴れた夜空のようにキラキラした目をしたミーア姫が待ち構えていた。

 とりあえず、怒られる感じではなさそうであった。


「剣聖殿。このたびは、大義でありました」

「は、はぁ……何のことでしょう? 陛下」


「東のガロウを討伐したことです」

「は、はい……それが、なにか?」


 魔物をただ倒しただけだ。

 それが……大義? 一体何をおっしゃってるのだろうか。


「いやぁ、ほんと、先生すごぎますよ」

「……さすがはアルね。見事だわ」


 戦神バーマン、治癒神エルザもまた、部屋の中にいて、俺に拍手してきた。

 大臣たちも併せて、俺への惜しみない拍手をしてくる……。


「恐縮です」

「剣聖殿に、今回報酬を用意しております」

「ほ、報酬……ですか?」

「ええ。目録を、渡しなさい」


 大臣がうなずくと、私のそばまでやってきた。

 私は目録を受け取り、ざっと目を通す……。


 ……?

 ??????


「あ、あの……陛下。恐れながら、お聞きしたいことが」

「なんでしょう?」


「その……目録には、【屋敷(新築)】とあります」

「ありますね」

「これは何かの間違いでしょうか?」

「? いえ、新しい屋敷を、剣聖殿のために造ることが決定しております」


 ……はい?

 新しい屋敷……? 私のために、造る……ですって……?


「えと……その他にも、【勲章】、【副賞として1000万ゴールド】とありますが……」


 1ゴールド10円くらいの価値がある。

 つまり、1億円を贈る、と書いてあるのだ。


 ただの狼の魔物を、軽く倒しただけで、一億円……?


「何かの冗談で……ですよね?」

「?」


 アビシニアン陛下がものすごく不思議な物を見る目で見てきた。


「いえ。目録に書いてあるものは、すべて、貴方に授与することが会議で決定済みです」


 ……そんな。

 バカな。


 狼を倒しただけで……?


「先生。わかってないようだけどね」


 戦神バーマンが私に説明する。


「ガロウっていうのは、ずぅっとこのネログーマの頭痛の種だったのさ。やつのせいで、森の奥に入れないし、何人もの優秀な兵士の命は奪われてきた。また、やつが馬車の荷物を送るせいで、外から物資を仕入れるのは一苦労だったわけ」

「な、なる……ほど……」


 この国にとっての、頭痛の種だったと言うことか……。


「バーマンでも倒せなかったのですか?」

「ああ……。先生、あいつは魔族なんだよ」

「????」


 魔族……?

 ネット小説では結構有名だが。


 この世界でも、魔族なんてものがいるのか……?


「魔族は生まれたときから、高い魔法適性と、デフォルトで闘気オーラを操作する術を持っていたのさ。そのせいで、アタシは何度も煮え湯を飲まされてきた……」


 なるほど。魔族というのは、魔法に加えて闘気オーラによる肉弾戦も使えるということか。

 私もそうだが、バーマンも魔法が使えない。


 だから、魔法を使える魔族に苦戦を強いられてきた……か。


「……幸い、ワタシの結界でなんとか、魔族が王都エヴァシマに入れないようにはしてたけど、でも、みんなガロウの影におびえていたのよ」


 と、エルザが教えてくれる。

 な、なるほど……。私が思った以上に、ガロウはやっかいな相手だった訳か。


「それを一撃で倒してしまう……見事な剣術の腕! さすがです、アレクさん! いいえ、アレク様!」


 ミーア姫が目を♡にして、そういう。

 いやいや……。


「様なんて不要です」

「いえ! あなたはもう、様を付けるに値する地位を手に入れましたので!」

「……地位?」

「目録を最後まで見てください」


 ええと……。

 なになに。

 アレク・サンダーに、【剣神】の称号を与え、戦神バーマン、治癒神エルザとともに、ネログーマ三大守護神の地位を与える……。


「……何かの間違いですよね? 私が、この国の二大守護神と同等の存在と地位を与えられる……と書いてあるのですが?」


 しかしアビシニアン陛下、そして守護神たちは、誰も冗談を言ってるようにはみえなかった。


「そ、その……さすがに、私には身に余りすぎます。屋敷や報酬だけで十分すぎます」


 それだってもらいすぎだと思ってる。

 そのうえ、守護神の地位だなんて。過剰もいいところだ。


「どうぞ、受け取ってください、剣聖殿。あなたはそれだけの働きをしたのです」

「……は、働きといわれましても。私はただ、日課の鍛錬をするついでに、倒しただけですので……」


「ガロウを片手間で倒してしまわれるなんて! すごいですね、さすが剣聖殿ですわ♡」


 アビシニアン陛下も、なんだか目を♡にしている……。

 そ、そういえば獣人は強いオスに惹かれる習性があるとか、聞いたような。


 ま、まさか……陛下が私に懸想してるとか?

 いや、ないな……。


「と、とにかく……私はその……無理ですよ。こんなたくさん、もらえません。宮廷指南役として雇ってもらうだけで十分すぎるのに」


 するとアビシニアン陛下が玉座から立ち上がり、私のそばまでやってきて、手をつかんで言う。


「指南役、そして守護神として、どうか……この国を、末永く、守ってくださりませんか?」


 ……王直々に、こんなふうに依頼されて、断れるわけがなかった。

 王族がここまで言ってきているのに、断れば、王の威信に関わる……。


「…………」


 正直、まだ自分がそんなたいしたことした、という実感はない。

 森に居た魔物より、魔族とか言うやからのほうが弱かったし。


 ……それでも。

 それでも、私が守護神となることで、この国の人たちが、安らかに暮らせるようになるのだったら……。


「……わかりました。守護神、および、剣神の名を、襲名させていただきます」


 かくして、私は転職して二日目にして、大出世を果たしたのだった。

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