第11話 危険な森でも安全に山菜取りできる




 クルミちゃんの宿で一泊した翌日。

 まだ夜が明けてない時間帯に、私は目を覚ます。


 私は木刀を持って部屋を出た。

 客室のあった2階から1階へと降りると……


「あ、あ、あ、あれくさま」

「やぁ、クルミちゃん。おはよう」

「お、おはよ……です……あうぅ」


 リスの獣人少女、クルミちゃんが俯いてもじもじしてる。


「おは、おはようさん」

「シマリさん」


 クルミちゃんの母親、シマリさん。


「随分と早いお目覚めだね。どこかにいくのかい?」

「ええ。日課の素振りをしたくて」

「へえ、素振り。じゃあ街の外へいくのかい?」

「そうですね。お二人は?」


 するとシマリさんはいう。


「あたしらも森に。料理に使う山菜をとりにね」


 山菜取りか。

 正直、素人が武器を持たずに、森に行くのは大変危険だ。


「兵士がついてはきてくれないのですか?」

「ないない。兵士さんらは、街の警備と、森の巡回で忙しいよ」


 なるほど、いち市民一人一人を護衛することは、人数的にできないわけか。

 

「シマリさん、よければ、手伝いますよ」

「いいのかい? あんたはお客さんなのに」

「かまいません。方向は同じですし」

「そうかい。助かるよ」


 ということで、私はシマリさん、クルミちゃんと一緒に、街の外へ向かうことになった。

 外壁を出て、私たちは森へと向かう。


「森のどのへんまで行くのですか?」

「入り口らへんさ。ただ、この辺りは山菜がとりにくいんだよね。みんな取っちゃうからさ」


 なるほど。


「ほんとはもっと森の奥のほうがいいんだけど、そうなると魔物が来て危ないしね」


 魔物がきたとき、街の入り口に立つ兵士が、駆けつけて来れる距離で山菜をとってるみたいだ。


「今日は私がついてますので。奥の方へいってみませんか?」

「いいのかい?」

「ええ。そこそこ、腕の立つ方ですので」

「ふぅん、そうなのかい。じゃ、頼むよ」


 私たちは森の奥へと進んでいく。

 やがて、草が生い茂る地帯へと到着した。


「魔物が来ないか見張っておりますので、作業してください」

「ありがとね。こんだけいっぱい山菜がありゃ一人で大丈夫だ。クルミ、あんたはどうする?」


 シマリさんがクルミちゃんに尋ねる。


「あ、あのわたし……あれくさまと、一緒にいる、ます」


 きゅっ、とクルミちゃんが私の左腕にしがみつく。

 ここへくる時もずっと、クルミちゃんは私にくっついていたのだ。


「クルミ。だめよ。もっと若い男にしておきな」

 

 どういうことだ?

 かあ、とクルミちゃんは顔を赤て、首を強く振る。


「そ、そんなんじゃないもんっ」


 あはは、と笑ってシマリさんが山菜をとりだす。

 しゃがみ込んで、目の前の山菜を手に取ろうとしたので……


「待った。シマリさん、それはドクコゴミです。食用じゃないですよ」

「あん? 何言ってるんだい。コゴミだろ?」


 地球にもある山菜、コゴミ。

 先端がくるっと丸まっている山菜だ。


 私はシマリさんのそばにいき、彼女の手からドクコゴミを手にとる。


「よく似てますが、みてください」


 私は茎を手でおる。

 じゅわ……と汁が垂れる。


「うわ! すごい匂い……」

「ドクコゴミは見た目コゴミと全く同じです。が、汁は刺激臭がします」


 しかも厄介なことに、ドクコゴミは熱を通すと刺激臭が消えるのだ。

 けれど、毒性は消えないという、厄介な性質がある。(しかも時間経過で刺激臭は消える)


「お客さん、よくわかったね」

「? 闘気を見れば一発ですよ?」

「は? なんだいそりゃ」


 私は近くに生えてるコゴミを2本とる。

 

「目を凝らしてください。右手に持ってるこっちが、ドクコゴミ。左手のがコゴミです。ほら、纏う闘気がまるで違うでしょう?」

「???????」


 毒や呪いを持つ物には、相手への殺意・害意が闘気に込められている。


「人間だけじゃなく、生物、植物にも、大なり小なり闘気が込められてます。そして、害意の闘気はこうして、黒い色をしてるのです」

「な、何言ってるのかさっぱりだけど……ようは、あんたには毒の植物と、そうじゃないものが、はっきりわかるってことかい?」


「はい」

「ま、まじか……すごいね」

「手伝いますよ」


 私は腰の木刀を手に取って、軽く横になぐ。

 スパァアアアアアアアアアアアアアン!


「!? ぼ、木刀で草が、き、キレてる!? おかしいでしょ! 木刀は刃物じゃないのに!」


 確かに木刀は刃物じゃないので、ただ切るだけでは、草を切ることができない。


「闘気を薄く纏い、やいばのように鋭くすることで、金属のような切れ味を持たせられるのです」

「そ、そう……。でも、すごいね。木刀で草全部きっちまうなんて」


「全部? いいえ、食べられる山菜だけを選んで切りましたよ」

「なんだって!?」


 ばっ、とシマリさんが周囲を見渡す。

 雑草や毒草はそのまま、薬草だけを選別して、切ってみせたのだ。


「ど、どうやったんだい?」

「? 雑草と毒草を闘気で見分けて、それ以外を斬るように斬っただけですよ?」


「だ、だから、そんな、切るものと切らないものを、選別するだなんて、どうやったんだ言って聞いてるのんだよ!」

「? そうなるふうに斬ったからとしか……」


 可食の山菜は、生命力で溢れている。

 それは白い色の闘気につつまれているのだ。


 あとはその白い闘気だけを狙って、切る。それだけだ。


「な、なんか……もしかして、あんた……すごい人?」

「すごいです、あれくさまっ。かっこーです! すてきですっ」


 ううん、おかしい。まさかとは思うが、一般人は闘気の色はおろか、もしや闘気自身見えないのだろうか。


 そんな。

 私の村の爺、婆は皆闘気を見ていたし。

 私が教えた弟子たちも、全員闘気をマスターしていたのだが。


「お客さんのおかげで、食える山菜たんまり取れたよ! ありがとね! うまい山菜料理食べさせてやっから!」

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