第7話 最強の戦神を相手に無双する



 私は兵士長となったかつての弟子、バーマンと試合をすることになった。

 ……バーマンが勝てば、私を旦那にするという。


「アタシは先生に勝ちたい……!」

「ふむ……」


 なるほど。

 つまりは……成長した自分の剣を見て欲しいということだろう。

 

 旦那になれというのは、冗談だろうな。

 若い女が、こんなおっさんと本気で結婚したいと思うはずもない。


 それは、ハイターの時でよくわかっただろう?

 さて。


 バーマンからの申し出、受けるか、否か。

 ことわる理由はない。

 私も、弟子がどこまで強くなったのか興味がある。


 それに、兵士たちにも良い刺激になるだろう。


「いいでしょう」

「やったぁ……! よぉおおし! ぜってー勝ちますよ! 絶対に、先生を手に入れるんだ!」


 バーマンから燃え上がるような、赤い色の闘気オーラが噴出する。

 巨大な両手剣を軽々と片手で持ち上げる。


 そして、ぶんっ! と剣を一振りする。

 その風圧で兵士たちが思わず後ずさりしてしまうほどだ。


 見事な闘気オーラだ。


「戦神バーマン。参る」

「お相手いたしましょう」


 バーマンの全身から発する赤色の闘気オーラは、彼女の体を極限まで強化する。

 私に勝ちたい、という強い意志が闘気オーラからは見て取れた。


 私は木刀を抜いて正眼の構えを取る。


「ぜやぁあああああああああああああああああ!」


 バーマンは跳躍すると、大上段からの振り下ろし放ってきた。

 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


「な、なんて衝撃だ!」

「地面が爆発したのかと思った!」


 大剣が私の真横に振り下ろされている。

 

「微動だにしない……か」

「ええ。殺気をまるで感じられませんでした。それに、明らかに私の真横を狙ってたのが、はっきり見えましたので」


 周りの獣人たちがどよめく。


「いや、完全に殺す気でいってるように見えたぞ……?」

「おれだったら腰抜かしちゃう……」

「つーか、あの超高速の一撃を目で捕らえるってどんだけだよ……」


 バーマンが獣が美味しそうな獲物を見つけたときのように、歯をむく。


「さすがだぜ、先生!」

「ありがとう。挨拶はこれくらいで、本気を見せてください」

「もっちろん!」


 ごぉおおお! と先ほどよりも激しく、闘気オーラが立ち上る。

 闘気オーラが刃にまとわりつくと、ぼっ……! と燃えだした。


「で、出た! 戦神バーマン様の奥義! 【烈火の太刀】!」


 私の教えた極光剣【赤の型】を、さらに自分用にアレンジした剣術のようだ。


「すげえ……! 本物の炎だ! まるで魔法みたいっす!」


 私と一緒に来た若い護衛剣士くんが、バーマンの剣を見て感嘆の声を上げる。


「魔法じゃねえ! 剣術さ! いくぜ先生……!」


 燃える大剣を構えながら、私に向かって突進してくる。

 バーマンの太刀筋にはまるで嘘がない。本当にまっすぐだ。


 まっすぐツッコんできて上段からの振り下ろし。

 そんなの見ればわかる。が、見てても初見なら避けられない。


 彼女の放つ気迫に気圧されてしまうからだ。

 だが、私は軽く横にとっ、と飛んで交わす。


 バゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 比喩表現ではなく、本当に、大爆発を起こす。

 爆風が周囲に広がる。

 が、彼女の一撃を回避したあと、私はバーマンの首の後ろに、一撃お見舞いする。


 バシッ……!


「がっ……!」


 どさりっ、とバーマンがその場に倒れ込む。

 爆煙が消えると、そこには……。


「戦神さまが倒れるぞ!?」「バーマン兵団長!?」「そんな! いつの間にやられてたんだ!?」「見えなかった!」


 私はただ相手の剣を見切って、一撃入れただけだが。

 皆は見えてないのか。これは……鍛えがえがありそうだ。



「は、はは……先生……やべえ……早い……早すぎるぜ……さすがだぜ!」


 ぐぐぐ、とバーマンが立ち上がる。

 

「驚きました。まさか、今ので気絶しないとは」


 私は彼女の首に一撃を入れた。

 通常なら脳への血流が一時途絶え、気を失うはずだ。


「あったりまえ! 先生が……ほしいからよおぉおお!」


 なんという価値への執念。

 感服した。いつの間にか立派になっていましたね、バーマン。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 刃から炎があふれ出し、それは竜となって彼女の背後に現れる。


「烈火の太刀……【炎竜】ぅうううううううううう!」


 闘気オーラを炎の竜に変えて、相手に放つ大技のようだ。

 見事な闘気オーラだ。


 これなら、どんな獣も灰燼に化すだろう。

 炎の竜が私に向かって飛翔する。


 私は心を無にして、敵の攻撃を見る。

 私の教えた剣がここまでのものになるなんて。


 バーマン、よく頑張りました。見事な剣です。

 だからこそ、私は手を抜きませんよ。


「極光剣、【緑の型】、鎌鼬」


 闘気オーラを風に変えて、私は斜めに刃を振る。

 スパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 風の刃は炎の竜を吹き飛ばし、そして彼女の剣を折った。

 刀身が地面にカラン……と落ちる。


「はぁ……! はぁ……! はぁ……! く、そぉお……」


 どさ、とバーマンはその場に倒れてしまう。

 体のすべての闘気オーラを、先ほどの一撃にのせたのだろう。


「ちくしょう……! 完敗です! お見事だぜ、先生!」


 おおお! と兵士たちが歓声を上げる。


「すげえ!」「戦神さまを倒してしまうなんて!」「すごいぞ、あの人……!」


 私はバーマンに近づいて、手を差し伸べる。


「あなたも、見事な剣でした」

 

 本当に、凄い剣だった。

 弟子は少し見ない間に立派になってて、私はうれしい限りだ。

 

 私は闘気オーラを彼女の体に流して、疲労を回復させる。

 彼女はぐいっ、と手を引っ張って、私に飛びつく。


 その勢いで……私の唇に、自分の唇を重ねてきた……。

 

「先生! やっぱりあんたのことが好きだ! もっともっと強くなったら、そのときは、アタシを嫁にしてくれ!」

「「「ええええええええええ!」」」


 これは……まあ。

 子供が、父親に言う将来、大きくなったら結婚してくれと同じだろう。


「ええ、良いですよ」

「っしゃあああ! 約束だぜ、先生っ! ぜったいだからな!」

「はい。強くなるのを、楽しみにしてますよ」


 まあ、何はともあれ、弟子の成長をこの目で確認することができたのだった。

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