第5話 壊れた橋を修復する



 私達をのせた馬車は南東にある王都【エヴァシマ】へと向かった。

 道中、何度も何度も、しつこいくらい魔物に襲われた。


 幾度も戦闘を繰り返すうち、ミーア姫の言っていた、馬車で王都まで半月かかるという言葉の意味を理解した。

 魔物のせいで思うように進めないのだ。


 ネログーマ国は国土のほとんどを森に囲まれている。

 森は魔物を生む。

 結果、ネログーマ国は、他国と比べてものにならないくらい、大量の魔物であふれかえる国となってしまってるそうだ。


 獣人は魔法が使えない。

 それなのに、国内には魔物がたくさんいる。

 だから、強い剣士を育成する必要が急務なのだそうだ。


 私は道中で、この国の球場を理解した。そして、頑張って彼らに剣を教えねば、と改めて決意を固めるのだった。


 さて。

 ゲータ・ニィガにある私の故郷を出発し、2日後。

 私たちは王都エヴァシマまで、あと少しのところまで来ていた。


「すごいすごいすごいです! アレクさんっ!」


 馬車の中、正面に座るミーア姫が、大興奮といった感じで言う。


「魔物の妨害のせいで、半月かかる道程を、わずか2日で踏破してしまいました! これも、アレクさんがいるおかげですっ!」


 道中の戦闘はすべて私が行った。

 戦闘……というより、露払いだ。よってくる雑魚を軽くいなしていただけだ。


「アレクさんはわが国の救世主ですわっ♡」

「恐縮です。ただ、私はただの年老いた剣士です。救世主なんて、務まりませんよ」

「そんなことありませんっ。アレクさんは神が、わが国をお救いになるために天より使わせた、武芸の天使様に違いありませんっ」


 ミーア姫はこんな私のことを過剰に褒めてくださる。


 それはひとえに姫が優しいからだろう。

 王族という、圧倒的に私よりも立場が上の存在であるのに、私を含め下々のものにもとても優しいのだ。


 彼女が優しいから過剰に褒めてくれるのであって、別に、私がとりわけ優れているからというわけではない。

 思い上がって尊大な態度を取るのはよろしくない。


 今後も褒められも、増長せず振る舞おう。


 と、そのときである。 

 がたん! と馬車が突如として停車したのだ。


「敵ですか!?」

「大丈夫です、姫。魔物の気配はしません」


 周囲の闘気オーラを調べてみたが魔物の反応はなかった。

 私たちは馬車から降りる。


 目の前には大きな河川があった。

 川の幅はかなり広いのがわかった。


 ゴウゴウと音を立てながら川の水が勢いよく流れている。

 川の水が濁っているところを見るに、雨による増水が起きてるのがわかった。


「何があったのですか?」


 姫が護衛の剣士に尋ねる。

 一番年若い剣士の彼が、事情を聞いてきて、私たちに情報を共有してくれた。


「どうやら、トルゥネ川がこないのだ大雨の影響で増水し、橋が壊れてしまったようっす」

「橋が壊れた! そんな……」


 目の前の大きな川がトルゥネ川なのだろう。

 王都エヴァシマにかかる橋だったらしい。


「トルゥネ川にかかるはしは一本しかありません。ここが落ちてしまうと、すごく遠回りをしないといけないうえ、山道を通らないといけなくなります……」


 なるほど。

 王都へ向かう、重要な橋が壊れてしまったということか。


 王都は文字通り国の中心地。

 他国から人も物も、多くくるのだろう。


 橋が落ちてしまい、今後王都を訪れる人は減ってしまう。

 そんな事態を、ミーア姫は危惧してるのだろう。


 姫。

 しかし、ふむ。これくらいなら。


「姫。私に任せてはいただけないでしょうか?」

「あ、アレクさんにですか?」


「はい。橋を直す、許可をいただければと」

「橋を、直す!? け、剣聖様が、ですか?」

「はい。何か変でしょうか?」


 ミーア姫が困惑してらっしゃる。

 年若い剣士くん含め、護衛たちも同様だ。


 ふむ。どうやら私はまたおかしな発言をしてしまったようだ。


 が。できるものはできるのだ。


「わかりました。アレクさんに、お任せします」

「ありがとうございます。それでは、しばしお待ちを」


 私は川に近づく。

 橋は真ん中の部分が完全に破壊されていた。

 軽くジャンプすれば向こうぎしに着くというのに、誰も試そうとしていない。


 ふむ。まあ、馬車などもあるからな。

 飛びたくても飛べないのだろう。


「お、おっさん何をする気だい?」


 橋のまえまでくると、一人の、若い女が私に話かけてきた。

 風体から察するに、商人であることが窺えた。


「橋を今から直します」

「いやいや! 無理だって、見な。雨の影響で川は増水、こんな中川に入ったらすぐに溺れ死んじゃうよ!」


 商人の娘が私を心配してくれる。

 なんと優しい人だろうか。


 見れば、この娘も獣人のようだった。

 獣人とは皆優しい人たちなのだろう。


「ご心配どうもありがとうございます。ですが、大丈夫です。川に入るつもりはございませんゆえ」

「え、じゃ、じゃあどうやって治すんだい?」


 私は膝をついて、壊れた木製の橋に、木刀を突き立てる。


「極光剣。【混合変化の型】」

「こ、こんごーへんか……?」


 私の右手に、青い水の闘気。

 左手に、橙色の、土の闘気。


 二つの色をまぜ、新たなる色の闘気を作り出す。


「【深緑の型】、創樹」


 私の体から深緑色の闘気が、木刀を介して、壊れた木製の橋に流れ込む。

 瞬間。


 ズォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


「えええええ!? 壊れた橋から、樹木が伸びている!?」


 木が壊れた箇所から伸びて、向こう岸まで伸びていく。

 木々は生き物のように動き、絡みつき、やがて頑丈な橋を形成。


 あっという間に、橋が元通りになった。


「ふぅ」

「ど、どどど、どうなってるの!?」

 

 獣人の商人が私に尋ねてきた。


「い、今のってまさか魔法!?」

「いえ。闘気です」

「と? へ、なにそれ!」

「自然エネルギーを応用した技術です。この橋に闘気(エネルギー)をながし、樹木を成長させ、橋を修復したのです」


 商人さんが仰天して、固まってしまった。

 一方で姫が近づいてきて私にだきつく。おっと。こけてしまうところだった。


「すごいです! アレクさん……! 凄まじい剣術だけでなく、魔法まで使えてしまうなんて!」


 やはり、側から見れば今私がやったことは、魔法に見えてしまうのだろう。


「いえ、闘気を使った剣術の応用です」

「! け、剣術……」

「はい。極光剣、混合変化の型という剣術です」


 二つの闘気を混ぜ、新しい変化を起こす技術だ。


「アレクさんは、やはり……天から使わせた神の使徒。いいえ、神そのものです!」


 なんとも、身に余るほどの褒め言葉だ。

 私は頭を下げて、礼を言う。だが調子に乗ることは決してしない。


 魔法ならもっとスマートに、素早く、橋をなせたに違いないのだ。

 私の村にいる【アベール爺】は、呪文はおろか、念じることもせず、魔法を使おうと思っただけで、壊れた橋を一発で直したことがある。


 彼と比べたら私なんて全然だ。

 それでも、村の人間じゃない人から見れば、私のやったことは【多少】すごいと見えてしまうのだろう。


「気を取り直して、ようこそアレクさん! 王都エヴァシマへ!」


 こうして色々あったが2日ほどで、獣人国の王都にたどり着いたのだった。


 

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