第4話 魔物の群れを瞬殺



 私ことアレク・サンダーは、再就職のため、現在獣人国ネログーマへと向かっている最中だ。

 道中、ネログーマのことを軽く聞いた。


 獣人国ネログーマ。

 文字通り、獣人たちが暮らし、獣人たちの王が納める土地。


 私達の住んでいる大きな大陸(六大陸)の東にある。

 元いたゲータ・ニィガ王国からだと、馬車で3日くらいの距離にあるそうだ。


 水と緑に囲まれた、とても美しい土地なのだと、ミーア姫は語る。

 早く私に、この土地の緑を見て欲しいと興奮気味にそう言っていた。

 彼女は自分の故郷のことが好きなのだろう。国を、民を愛する姫に、私は好感を覚えた。


 さて。

 馬車は1日かけてゲータ・ニィガ国境を越えて、ネログーマへと入る。

 途端、護衛役の剣士たちが緊張してるのが伝わってきた。


「国境を越えましたね」


 私とミーア姫は馬車に乗っている。

 正面に座るミーア姫もまた、外の剣士たち同様に、緊張しているのがわかった。


「……はい。ここから王都まで、あと【二週間】程かかります」

「二週間……? 馬車で3日の距離とうかがったのですが?」


「はい。地図上で見れば、馬車で3日です。ですが……」


 なにか、進行の妨げとなるものがあるんだろうか。

 と、思ったそのときだ。


「ミーア姫。魔物が近づいてきます」

「! ほ、ほんとですか!?」


 ばっ、とミーア姫が窓から顔をのぞかせる。

 私も同様に外を見た。


 目の前には大森林の入り口があるばかりだ。

 魔物を目視することはできない。


「あの……魔物、いないですよ?」

「いえ、見えないだけです。森の向こうからこちらへ、そうですね、この気配は灰狼グレー・ハウンドでしょうか」


「!」

「数は……ああ、15ですね。そんなに多くありません」


「!?!?」


 ……ふむ?

 ミーア姫の闘気オーラが、激しく揺らいでる……?


 何をそんなに驚いてるのだろうか。

 まあ今はどうでもいい。


「剣士の皆さん。そんなに強くない魔物が、15体ほど来ます。馬車を止めて、陣形を取った方が良いと思われます」

「「「「!?」」」」


 あれ?

 剣士の皆さんの闘気オーラも揺らいでいる。

 そこまで驚くことだろうか……?


「て、停止! 馬車を停止させてください! 皆さん、アレクさんの言うとおりにしてください!」

「「「りょ、了解!」」」


 馬車が動きを停止する。

 私は動きやすいように馬車から降りる。


「敵が来るのか……?」「全然見えない……」「剣聖様はどうしてわかったんだろうか……?」


 剣士諸君が困惑してる。

 ふむ?


「敵の闘気オーラを感知しただけですよ」

「「「闘気オーラを……感知?」」」


「はい。生物は無意識に闘気オーラを放っております。それを感じ取ることで、周囲に何が居るのかがわかります」

「「「は、はぁ……」」」


「また、闘気オーラの揺らぎを見ることで、ある程度、相手の感情がわかります。……皆さんは、とても困惑してるようですが」

「「「は、はい……」」」


 ふむ。

 何に困惑してるのだろうか。これはあとでちゃんと聞いておかないとだ。


「それより、あと1分もしないうちに15体の魔物が来ます。まずは、皆さんのお手並みを拝見させてください。本当に危なくなったら助けますので」


 灰狼グレー・ハウンドなんて弱い魔物、私だったら【熟睡してても】瞬殺できる。

 だから、間違っても彼らを傷つけることはない。


 良い機会だったので、教える対象である、宮廷の剣士たちの実力を測っておきたかった。


「来ますよ」


 ……全員が、過剰に体をこわばらせる。

 ふむ?


 茂みから出てきたのは予想通り、灰狼グレー・ハウンドだった。

 灰色の毛皮をした【わんちゃん】である。


「いやー、可愛いですね」

「「「「!?」」」」

「特に灰狼グレー・ハウンドの赤ん坊は可愛いんですよ?」

「「「!?!?!?」」」


 ……ふむ。皆さん驚いてらっしゃる。

 なにに? なんだか、さっきから困惑したり、驚いたりしまくってる闘気オーラのゆらぎを感じるのだが。


「と、とりあえず戦うぞ!」

「ミーア姫を守るんだ!」

「うぉおおお! おれは生きて帰るぞぉおお!」


 剣士の皆さんが剣を抜いて、突進していく。

 

 きんっ! かきん! きんっ!


「……嘘、だろ……」


 ききん! かんかん!


「そんな……まさか……」


 キンキンキンキンキン!


「………………」


 30分かかって、剣士たちはようやく、15体の灰狼グレー・ハウンドを倒した。

 こちらの護衛は10。


 数で劣っているとはいえ……これは……なんとも……。

 いや、今は皆さんの労をねぎらうべきだ。


「お疲れ様でした」

「ど、どう、どうすか? おれたちの……剣……」


 一番、年若そうな獣人の少年剣士が聞いてくる。

 ……どうでした? 


 そんなの……。


「良いですね」


 予想以上に、良かった。


「おお! 意外と強いってことっすかっ!?」


「いえ、全然。弱いですね」

「えええええええええええええええええええ!」


 年若い剣士くんが驚く。


「皆さん、剣の基礎がまるでなってません。はっきり言って、今の君たちは、素人が棍棒を持って戦ったのと同じくらいの戦力でしかないです」

「そ、そんな……で、でもさっき剣聖様、良いねって……」


「はい。余計な癖が付いてない分、いいですねと、そういう意味で言ったのです」


 たまに、我流剣術が染みついてて、いくら教えても治らない人たちというのは結構いるのだ。

 剣士くんたちには変な癖がついてない。


 だから、教えやすい。


「じゃあ……おれら弱いってこと……っすよね」

「そうですね」

「がっくし……」


 落ち込む彼らに、私は言う。


「落ち込むことはありませんよ」

「え?」


 そのときだ。

 灰狼グレー・ハウンドの群れが、またこっちへ来ているのがわかった。

 今度は……50。


「わぁ! は、灰狼グレー・ハウンド! あんなに苦労して倒した敵が、またたくさんきやがったっす!」


 剣士たちは疲弊している。

 ここは私の出番だろう。


 それに、彼らにお手本を示す必要もあった。


「極光剣。【紫の型】、疾風迅雷」


 闘気オーラを電気に変え、脚力を超強化。

 ばち! ばちばちばち!


「剣聖様の体から雷が……!」

「シッ……!」


 私の体は迅雷のごとくスピードで走る。

 灰狼グレー・ハウンドたちの間を通り抜けざまに、切りつける。


 スパッ……!


「お、音が……遅れて聞こえてきたっす……」


 私が剣を鞘に収める。

 すると、狼たちの首が地面に、一斉に落ちた。


「す、すげえええ……! 早すぎて……何したのかさっぱりっしたけど……でも! でも! すごすぎるっすぅ!」


 少年剣士を含め、皆が歓声を上げる。


「君たちも、鍛えていけばこれくらいはできるようになるよ」

「ほんとすかぁ!?」

「ああ」


 おおおお! と剣士たちがうれしそうに声を張り上げる。

 彼らの剣はまだまだ未熟。


 けれど、彼らの目には強くなりたい、という純粋な思いの光がともっていた。

 先ほどの私の発言は、お世辞からくるものじゃない。

 本気で、彼らだって、【元弟子たち】と同じくらい強くなれる可能性は秘めている。


「剣聖様……!」


 剣士たちは私の前で整列し、バッ! と頭を下げる。


「「「ご指導、ご鞭撻の程、よろしくお願いします!」」」


 こうして、私はミーア姫の護衛剣士たちの、信頼を獲得したのだった。

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