第2話 獣人の姫と出会いスカウトされる

 私ことアレク・サンダーは故郷の村を出ることにした。

 村を出る前に、寡黙な村長【ギルガメッシュ】氏に、簡単にこれまでの経緯を話した。


 するとギルガメッシュ村長はただ一言、「全て理解した」といって、私が村を出るのを許してくれた。


「あとのことは任せなさい」と言ってくれた。

 おそらく、私が出ていったあと、道場で何かトラブルがあったときに、助けてやるという意味だろう。


 ギルガメッシュ村長の心遣いに感謝しながら、私は木刀1本、着替え、少しの金を持ち村を出た。


「さて、これからどうしようか」


 何をするにしても金が必要だ。

 私は道場と新居を作ったことで、ほとんど金を持っていない。


 近くの街へいき冒険者となるのが手っ取り早いだろうか。

 しかし、私はこの世界に転生してから38年間、ずっと村で暮らしていた。


 村の外での生活なんて送ったことがない。

 どうやって冒険者になればいいのかも正直わからない。


 困った。

 と、そのときだった。


「きゃあーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 少女の悲鳴が森に響き渡る。

 悲鳴を聞いた瞬間、私は走り出していた。


「【闘気オーラ】、解放」


 私は大きく息を吸って、体の中に酸素、そして自然エネルギーを取り込む。

 闘気とは、自然界に存在するエネルギーを特殊な呼吸法で体内に取り込むことで得られる、爆発的運動エネルギーのことだ。


 闘気で体を強化すると、普段の何十倍も早く走ることができる。

 私は全速力で悲鳴の方へと向かって走る。


 この辺りの森には【そこそこ】厄介な魔物が出現する。


 この村の人たちは皆【そこそこ】に強いので、魔物に苦戦することは皆無だ。(鍛錬をサボっていたマオトッコや、この村の出身ではないハイターは別だが)


 村を訪れる商人たちは、うちの村特製の魔物避け匂い袋を持っているため、魔物に襲われることは皆無。

 となると、悲鳴の主はこの村の事情を知らない余所者、ということになるだろう。


 なぜ余所者を助けるのか?

 ……むしろ、なぜ助けないのか。


 剣術は人を守るためのもの、と師匠はいつも言っていた。

 私は師匠の技術を、思想とともに引き継いでいる。


 この剣は人を助けるためにある。

 だから、助ける。それだけである。


 やがて、私は開けた場所へと到着した。

 高そうな馬車のそばには、何人もの怪我人がいた。


 そして怪我人のそばには巨大な灰色の狼、大灰狼グレート・ハウンドの群れがいた。

 大灰狼は1匹だけならそんなに強くないが、群れると厄介な敵となる。


「だ、誰か! たすけてぇ……!」


 馬車の近くにはドレスを着た女の子がいた。

 女の子が青い顔をして震えている。


 助けなければ。

 私は木刀を手に持って、大きく呼吸をする。


「極光剣。【青の型】【激流】」


 私は取り込んだ闘気を木刀の刃に纏わせる。

 闘気は青い光となって輝く。


 私が剣を真横にふる。

 その瞬間……


 ドパァアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 刃からは、大量の水が発生し、津波のように敵に襲いかかる。


「ぐぎゃぁ!」「ぎゃいいん!」


 大量の水は大灰狼のみを洗い流していく。

 少女、そして怪我人たちには、水の一滴だってかかっていない。


「大丈夫ですか? お嬢さん」

「へ、あ? は、はい……。あ、あの! い、今のは、一体?」

「【極光剣】、【青の型】です」


「きょっこうけん……? あおの、かた?」

「私の師匠から教えてもらった剣術です」


「け、剣!? ですが、水がどこからか発生してました。あれは、魔法ではないのですか?」

「はい、まほうではありません。闘気を元素、水に変えて放っただけです」


「は、はあ? よ、よくわかりませんが、すごいです。魔法使いでもないのに、あれだけの水を陸地で発生させるなんて! すごいです!」


 少女の顔に血の気が戻る。

 少し緊張がほぐれてくれたようだ。


 だが、まだだ。


「お嬢さん、私の後ろに。まだ敵は生きております」


 水で押し流した大灰狼たちが戻ってくる。

 あれだけで殺せるとは最初から思っていない。


「極光剣、【緑の型】、【鎌鼬】!」


 取り込んだ闘気を風に変える。

 そして木刀を下段に構えて、そして振り上げる。


 スパパパパパパパパパ!


 ふるったやいばから無数の真空の刃が発生。

 その刃1本1本は、敵の首を正確に切り飛ばした。


「す、すごい! 剣の一振りで、魔物の首だけを正確に切り飛ばしてしまうだなんて!」


 少女がぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 お尻のあたりに獣の尻尾が生えていた。


 そういえば、遥か遠くの国に、獣人たちが暮らす国があると聞いたことがある。

 獣人。ネット小説ではよく見かける。


 この世界で見たのは初めてだ。

 田舎に長く引きこもった弊害か、私は外のことをあまり知らないのである。


 おっと。益体のないことを考えてしまった。


「怪我人を治療します」


 馬車の周りには怪我人が多数。

 中には瀕死の人もいた。


「治癒魔法を?」

「いえ」


 すぅ、と静かに呼吸をする。


「極光剣。【黄の型】」


 瞬間、私の目には、普通の人には見えないものが見え出す。


 それは、小さな鬼だ。

 死者の世界に暮らすという、亡者たち。


 亡者は生者から魂を引き抜いて、そしてあの世に送ってしまう。

 そうなると人間は死んでしまう。だが。


「【黄の型】【黄泉】」


 私は亡者どもを切り飛ばす。

 瞬間。


「う、ううう」「あ、あれ? 生きてる?」「ちぎれた腕が治ってる!?」


 ふぅ。 

 怪我人はみな治療できたようだ。


「あ、あの! い、今のは!?」

「極光剣、黄の型、黄泉です。【死を招く存在】をきることで、怪我人や死人を、蘇らせる剣術です」


「す、すごい、すごいです! 剣術で治癒をしてしまうなんて!」


 キラキラした目を、獣人の女の子が私に向けてくる。


「見つけました。あなたが、【辺境の剣聖】様ですね!」

「へんきょうの、けんせい?」


 なんだ、それは。

 聞いたことがない。


「いえ、違います。人違いですよ」

「いいえ! あなた様は、四大勇者様のおっしゃっていた、辺境の剣聖アレク・サンダー様です! 間違いありません!」


 よ、四大勇者……。

 それも聞いたことがないな。

 しかし、アレク・サンダーは私のことだ。


 ううむ。


「辺境の剣聖様」


 獣人の女の子はいたく真剣な顔で私にいう。


「助けてくださり、ありがとうございました。」

「いえ私は当然のことをしたまでです」


 すると少女は目をキラキラさせながらいう。


「さすが剣聖様、強さだけでなく、清き心まで身につけておられるのですねっ!」


 清き心なんて身につけているだろうか。


「助けたお礼がしたいです。ぜひ、わたしの国にきてはいただけないでしょうかっ」

「わ、わたしの国とは?」


「ネログーマ国です!」


 確か、遠く離れた獣人の国だったような。

 それにしても、わたしのとは、どういうことだ?


「あ、申し遅れました! わたしはミーア。ネログーマ国第一王女ミーア・ネログーマと申します!」


 ……まさか、助けた相手は獣人の国の王女さまだったようだ。

 この出会いがきっかけとなり、私の人生は180度、違ったものになるとは、このときの私は思ってもいなかった。


    ⭐︎


 こんな噂を知ってるだろうか。

 世界にいる英雄と呼ばれる人たちは、みな、【同じ師匠】のもとで修行していたと。


 世界各国に散らばる弟子たちは、師匠のことをこう呼ぶ。

 辺境の剣聖と。


 これは、異世界転生して以来、村から一度も出たことがないため、自己を過小評価しまくっているおっさんが、やがて世界に【己の名前】を知る物語。

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