第25話
朝がきた。
それぞれの想いは晴れて、この日を迎えた。
「…はぁ。俺らは蚊帳の外か?まったく、巻き込まれて死ぬんかクソな人生だったな」ハジメは悪態をつきつつ、慈郎を護るように自身に気合いを入れた。
「ありがとう、ハジメ。僕は君と家族で幸せだった」慈郎はハジメの想いが伝わり感謝した双子であったからこそ、絶望せずに生きてこられたことに。
「はぁ??きしょぃんですけど、何だ、死ぬの決定なのか?」突然、慈郎から抱きしめられて戸惑うハジメ。
「生きて会えたら、また力いっぱい抱きしめて愛を伝えるよ」慈郎は抱きしめる力を込めた(絶対に護ると)
「気持ち悪い呪詛かけんな!っつ。」大人しくされるがままのハジメだったが、慈郎の温かさに涙が込み上げてきた。
慈郎はハジメを落ち着かせようと彼の背を撫でた。
「人ってさ、約束ひとつで死ぬの諦めきれなくなるというし、僕はハジメを守ってあげる魔法はかけられないけど、言葉で君を縛ることはできる。忘れないで…僕を思いっきり抱きしめるって約束を」
「お前ってっ!マジできちぃな」
「ふふっ、誰譲りかな…」
双子は大声で笑い合う。その幸せに満ちた空気に惹きつけられた各々は、その場に集まりだした。
「おはようございます!!」
ハルカの元気な声が庭中に響き渡ると、眠い目を擦りながらユミに手を引かれてコゼットはエルヴィラと彼女に抱えられた赤子と共に現れた。
長い一日が始まった。
「…では、コゼット、エルヴィラらと屋敷に向かうのはハルカ様らに藤堂兄弟」
「我々は国を繋ぐように尽力を尽くします」
アカリとアコは新日本に残ることにした。新日本にはユミがいるので、WINの残党と、いつ戦闘になってもおかしくない状況であった。
「妾たちが、あちらへ飛んだ瞬間に此処が襲われる覚悟を持っておれよ、全員は面倒見切れぬぞ」
彼女の言葉が周囲に緊張感を与えた。
「みんな!!!」
サクラの声に全員が集中する。
「帰ってきたら、ご飯食べよう!」
その言葉は全員の心に響いた。彼女の希望に満ちた眼差しや行動は、この場全員の救いになっていた。
コゼットは微笑んだ様子で魔法陣をだし、エルヴィラは全員を魔法の層で囲んだ。藤堂兄弟はハルカの前後を死守し、アルフレッドは有香の後ろにピッタリとついた。全員が次の瞬間には屋敷内に到着していた。
カチリっ…
銃の音を耳にする方向に藤堂兄弟、アルフレッドが身構えるも攻撃は無かった。周りは未だに火が燻って視界は煙など酷いものだったが、『…いる』と誰もが感じる。それは殺意は強いものだが魂の揺らぎはか細く消えかかっていた。
「…お主は」
彼女の存在に気づいたアルフレッドは哀しげな表情を浮かべながら近づいていく。「…真理亜」
アルフレッドに真理亜と呼ばれる女は返事はしない。無表情に銃口をコゼットに向けているが目には正気が感じられず、フラフラと揺れ続けている。
「…生きているの?」サクラは戸惑っていた。
「生きては…おるが」コゼットは彼女を哀れんだ。
彼女はふらつきながらもコゼットを銃を撃ってきたが、銃は魔法で弾かれ音だけが虚しく響き渡った。真理亜はコゼットだけを狙い続けた。
有香は涙を流しながら真理亜に近づき、後ろをアルフレッドが続いた。二人は真理亜を囲んで抱きしめる。
「…生きてたっ。もう、帰りましょう、私達と…」
その言葉に涙を流して真理亜は座り込み、目に生気が戻り始める。彼女はコゼットを怒りが含んだ眼差しで見つめた。
「私は許さない…ずっとだ」
「ウィルは何処じゃ…存在は消えとらん。生きてはいるようじゃが」
「…見つからないんだ。あれから、ずっと探し続けている」
「他の生存者はどうした?」
「…いたが、身を隠している様で、魔力の尽きた私ではみんなの所へは辿り着けないんだ」
その言葉にコゼットは、全員に「進む」とだけ伝えた。彼女の後をハルカや有香などがついていく。
「おい…立てんの?」座り動けない様子の真理亜の腕をとり、ハジメがゆっくりと立たせようとするが彼女は激しく抵抗した。
「…離せっ。一人で歩ける」
「なぁ…いつまでやんのソレ」
「何がだっつ!」
「今はさ、家族探したいんだろ。何もしねぇよ。俺だって人殺しは嫌だ。やりたくねぇ。でも、家族が狙われるなら、やるしか無かったんだろ?探そうぜ、手伝ってやる」
「…すまない」ハジメの忖度のない優しさに真理亜は素直に従った。
ハジメが真理亜を立ち上がらせようとする瞬間に、コゼットは彼女に魔法をかけた。すると彼女の傷などは一瞬で治り、彼女は自力で立ち上がれるほど回復した。
「…中までは時間が足りぬゆえ完全には治してやれん。足手纏いも要らぬでな…」
「…わかっている」彼女は礼は伝えなかったが、コゼットの魔法は温かさで満ちていてつらかった。
**
屋敷奥に進む間に、生き残った人々を新日本へ転送しつつ、遂に目的の部屋に辿り着いた。
「…ここからウィルの気配を感じるな」
「開けるぞ」「皆さんは下がって」
藤堂兄弟が揃って扉を押すと、中には潰れた車椅子と…黒焦げになった人だったものがあった。
「お婆さま…っ」有香には魔力など無いが、何故だが瞬時にそれが祖母のウィリアムだと分かった。
有香は溢れた涙を流しながら近づき、亡骸に寄り添った。アルフレッドと真理亜も膝をつき、有香の側で肩を揺らし静かに哀しみに泣いた。
「有香…」
ハルカは三人を少し離れた場所から見守るように藤堂兄弟と見つめていた。
コゼットは周りを見渡し、ウィルの魂の居場所を探る。消滅はしていない? 存在が残り続けている以上は留まっている…なぜ? 彼女の思念が強く残る場所に導かれるように歩きだす。その先には…
「…写真」
大量の写真が床に撒き散らされていて、水がかけられて何枚もの写真は水で画像がぼやけてしまっている。コゼットは写真に向かって魔法をかけた。
「現れよ」
写真が光るとともに現れたのは、実体のない始祖ウィリアム。彼はゆっくりと目を開け、周囲を見渡した。彼の目は痛みと悲しみを宿していた。
「ウィル…」
コゼットの呼びかけに応じ、彼は一瞬だけ微笑んだ。
「すべてが終わったんだな」
「まだ終わってはいない。お主の力が必要だ」
彼は頷き、周囲に視線を巡らせた。
「そうだ。私たちを助けてくれ」
「…もちろんです。だが、時間は限られている」
彼は亡骸になった自分の子孫に涙を流しながら有香に向かって歩み寄る。アルフレッドと真理亜は有香を守るように前に身を乗り出した。
「傷つけたりはしない、彼女は全てを知る権利がある。伝えたいだけなんです」
彼の声は優しさに満ちていて、有香がアルフレッドに視線で道を譲るように合図を送ると、立ち上がり始祖ウィルに近づいた。
「私の手をとって欲しい、大丈夫です」
有香は言われるがままに彼の手に自分の手を添えた。瞬間、有香の脳裏に浮かぶ歴代のウィル達の思想は、彼女の一筋の涙で溢れた。溢れた感情を抑えられずに有香はウィルの手を振り解く。
「…みんな、ただ家族を守りたかった。殺戮なんて望んだウィルは一人だっていない。貴方の欲望に満ちた呪いを私たちに望み続けたからコゼットを、ずっと欲して愛し続けた」
「そう、私はコゼットの強さと人では無い美しさに死ぬまでずっと…いや、今もだが惹かれていた
私にとっての神が、唯の人になりかけたので
身勝手に彼女に絶望して周りを巻き込んで呪った。私が死んでも、ずっと彼女が孤独になるまで愛を奪い続け、知り合った頃の私の愛し崇めた彼女に戻って欲しかったから…」
「…歪んでるっ」
優しく語り伝えてくるウィルに有香は顔を歪ませて続けた。
「コゼットだけじゃない。たくさんの人が不幸になって死んでしまった。貴方の愛は…」
「…うん、歪み過ぎてもう私自身ではどうしようもない…」
コゼットはウィルに近づき、彼の心臓に手を伸ばした。実体の無い彼には意味のない行為だが…
「コゼット?」
サクラは彼女の行動の意味がわからずにウィルに伸びる彼女の手を静止する。
「…サクラ、安心しろ妾は確認をしたいだけじゃ」
「この人は、もう…」
サクラの手を優しく離すと、コゼットは再びウィルの心臓に手を伸ばす。彼は抵抗もせずに穏やかに微笑みながら、されるがままで…
「私は幸せでした」彼は覚悟を決めていた。(自身の存在が消えぬ限り、枷と呪いは消えない)
「…ウィル、感謝する」
「…うん。」彼は満足そうに彼女に触れた。
コゼットがウィルに口づけをした後に、彼の魂に魔法を唱えた。彼はゆっくりと消えていった。
最後の消える瞬間『トクンっ』と彼女は存在しない彼の心臓の鼓動を感じたような気がして「愛」を知れたような気がした。
「…終わったね、皆で帰ろう」
サクラは有香や藤堂兄弟たちに駆け寄り、ことの終焉を喜び合った。
**
新日本に帰ってきたコゼットは早々にユミなどを集めて、この世界の今後を話し合った。魔法や人の手を借りて世界のほぼ全ての人間が注目する中で、最古の魔女は話す。
「妾は、この世界から消えることにした。娘たちも連れて別次元の世界に行く。妾たちが消えた後は魔法は時間をかけて消滅してゆく…妾たちの存在が人に及ぼした『魔法』という名の呪いは、いつか終わりを迎える。じゃが、今も存在する魔法が『呪い』という邪のモノではないことは皆が理解してほしい。彼奴等は望んで魔法を使える訳ではない」
彼女は存在が恐怖と恐れられていた頃の禍々しさは無く、ゆっくりと時間をかけて残していく同胞たちの安全を世界の人々へ訴えた。
この世界には『魔法が存在している』彼女らの影響が途絶えいつしか『魔法』は消えるとしても、人の理解できないモノへの恐怖は消えることはない。だが、人の脅威から『愛』を守ってくれる存在たちはこの世界に残すことができた。
「この世界が好きじゃった」
コゼットは空を仰いで満足そうに笑う。
「さらばじゃ!」
コゼット、ヨゼフを含めたユミ、エルヴィラ、幼子のウィル、4人は光の矢となり時空の穴へと消えて行った。
『魔女のコゼットは、この世界で愛を求めた』
彼女の心に温かな光を灯してくれたのは、彼や家族ら与えられた愛だった。その愛は、まるで冬の寒さを溶かす春の日差しのように、彼女の全てを包み込み、優しさと喜びをもたらしてくれたのだった。
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