第24話
新日本
徳川は深い溜息をついた。
「組織は時間を何百年もかけて世界の隅々まで広がっていた。膨れ上がった組織を纏めていたウィリアムがいなくなったとなると統率はないに等しい…個々の思念や邪念で戦争を始めてしまうだろうなぁ…」この国はユミの存在で狙われるだろう。
彼の心配を気にする様子もなく、ユミは優雅にお茶を啜りながら「ウィルの死は確認が取れているのかしら?」と有香に聞いた。
有香は2人に必死で訴えた。
「死んだとは、確認をしていないので分かりませんがアルフレッドが仲間から『助けられなかった』と聞いただけです」
徳川は胸から携帯をだすとメールを打ち誰かとやり取りをしているような素振りをみせた。
「…確かめた方がいいでしょうね、組織には魔法使いも多いし」
「アコが既に部隊と共に向かいました」
「有香。貴女は組織の生き残りが魔法を使える人に危害を加えず、武器を捨てて大人しく投降してくれると思っているでしょうが…」
「まぁ…無理じゃろうな。エルヴィラは国を捨てた、妾とこの子を守る為にな。ウィリアムに関しては何とも言えん、今も存在は感じるが
どうも、妙な感じがするのじゃ」
いきなり現れたコゼットたちにその場の人全員が驚いた。コゼットの腕には赤子が眠たそうに欠伸を繰り返し蠢いた。エルヴィラは彼女の後ろに立って大勢の中で萎縮してしまっていた。
「コゼットその人たちは誰?」
サクラは驚きもせず彼女たちの側へ近寄っていくとエルヴィラは地下に篭りすぎてサクラの存在を知らないので、あまりにもゼロ距離な彼女に驚きを隠せないようだった。
「あ!あのっ。彼女は??」
「彼女は私の家族でサクラ」
「家族?ユミのですか。彼女からはユミの存在がする」
「そうじゃユミの血が濃く入っておるでな魔法も使えるぞ」娘たちの会話に嬉しそうに彼女は笑う。
「エル、アンナの言った通り。貴女なんてモノ造ってくれたの戦争の起爆になる、いま組織は新たなウィルを求めている。有香はウィル、最後の血統者だけども、組織自体を変えたがっているウィルの思想を歪んで受け継いでいる血なまぐさい輩は、その子どもが欲しくて堪らないでしょうね。ちゃんとその子が存在した証拠は消してきたわよね?」
ユミがエルヴィラに迫るように凄むと彼女は怯えてサクラの後ろに逃げ込んだ。
「お婆ちゃん!エルが怖がってるよ」
「はぁ?普通に確認しているだけでしょう何が怖いのよ」ユミは苛ついた表情を浮かべた。
「うぅ。ユミは話し方が威圧的すぎて怖いんですぅ」まるで子どものように怯えるエルヴィラ。
「何百年も生きてる人が何言ってんの!」
「まぁ…そう責めなさんな、エルは昔から伝達が苦手であろう、ユミ。優しく聞いてやってくれ」
「あぁー面倒くさいなぁ」
「家族会議は後にしてもらって状況の整理をしたいのだが、宜しいでしょうか大魔女たち」と徳川にも焦りがみえた。
新日本が戦争に巻き込まれでもすれば魔法が弱体化している、こんな国はすぐに滅びてしまう。平和に慣れた数少ない魔法使いたちは戦争を知らない。
魔力が弱すぎてほぼ一般人に近い魔法使いが多い、すぐに殺されてしまうだろう。
そうならないように手を尽くさなければと彼は焦っていた。
「まずは、落ち着こうかのぅ。赤子が怯えておる、焦りこちらが攻撃してしまえば相手が好む口実を与えるだけじゃ、話そうか。徳川」
コゼットは赤子を抱きながら椅子に座り、その横にエルヴィラが座るとユミも落ちついた態度で様子をみた。
有香はサクラと共に並んで座り直し、徳川は自身も落ち着くためにと配下に茶のセットを全員分入れ直すように指示した。
「さぁーてウィルの血族よ。貴様は組織を束ねられるほどの器なのかぇ?」
「いいえ、難しいです。私は組織のことを何も知らない一緒に逃げてきたアルフレッドなら幹部だったこともあるので組織の中のことは分かるとは思います。…でも今まで貴女や大魔女たちのことで戦闘に巻き込まれ家族を奪われた人たちには、
平和な国と環境で育った私の言葉が今は届くとは思えません」
「妾を恨んでいる者は多い。だが妾を今消したところで人が魔法に関して思う恐怖は消えない。
大魔女が全て消えようとも人は強欲じゃからな、
また何かを理由に争い始めるし魔法は利用され続けるじゃろうな」
「国同士で停戦条約を結びましょうとなっても大魔女が消えた国からは拒否されるのが目に見えるわね」ユミは沈んだ表情を見せた。
「どの国も組織が深くまで入り込んでいるから
私でも長く付き合いがあるような各国のお偉いさんたちが組織の人間じゃないと言い切れない」
徳川も人の欲望の深さを嘆いた。
「ねぇ!ならウィル本人がもう戦わない!と平和を祈ったら?」サクラは思いつきのまま話した。
「たとえ生き残っていても彼奴は死んでも言わんぞ。歴代の中で血の隅までウィルの思想が染み付いておったからな」
その言葉に有香はグッと手に力を込めた。
「私も組織に戻って祖母を探しに行ってもいいでしょうか?」迷いはない決意の籠った眼差だった。
「それは、もし仮に彼女が生きているとして説得は可能なのかしら」
「分かりませんが、ここでいま組織の現状を話し合うよりは事は進むかと思います」
「私も一緒に行くからね!」サクラは譲らない。
「ダメっ!」有香が焦って彼女を止めた。
「なんでよ!」
「インドで貴女は大魔女の血族だとバレているだろうし、いつ組織から襲われて殺されても分からない状況なの今は!そんな所に連れてはいけないっ」
「そんなの有香も同じだよ!有香だって悪い考えの人たちから狙われるんだったら、お互いに助け合おうよ」サクラは絶対に譲らないと声を張った。
「妾もいく、囮にでも何でもなろうぞ。あの襲撃でなあの屋敷でウィルの身体を貫いたが、すぐに組織の奴等があらわれた。あの姿を変える魔女に手こずっておったら、気づいた頃には姿かたちもウィルは無くなっておった。
魂の存在も微弱ですぐにでも逝くだろうと思い確認を怠ったのは妾じゃ、すまぬなぁ…」
「コゼット、貴女が行くなら私は徳川と新日本で、世界に向けての根回しを始めるわ。このまま世界の人たちに魔法についての理解を求めても拒絶されるだけでしょうし体制を整えておくわ」
「了解した。エルと赤子は連れていく我々が揃っていれば必ず奴等は姿を現すじゃろう、我々で囮になろうぞ」エルヴィラは強く頷いた。
「すぐには行かぬ。妾も近々で力を使い過ぎた、屋敷に向かうのは明日でよい。各々まずは休め」
コゼットの言葉に場の緊張は解けて穏やかなお茶を数分楽しんだ後に皆それぞれのタイミングで部屋を出ていった。
「サクラ…話をしよう」有香がハルカを誘った。
有香とサクラは2人で縁側に腰掛け時間をかけて互いの近況を話した。出逢いも別れも苦悩も全て学校に通っていたころの穏やかな日々は互いに無くしてしまったけども、2人は変わらずに笑いもしながら互いのことを話し合った。
「…有香は決めたんだね」
「…うん。サクラも」
「うん。魔法が使えるだけで酷い目にあう人たちを守れるように此処で学んで護れるほど強くなりたいんだ」
「私は先ずは家族を守ろうと思う。アルも含めて皆んな血は繋がっていないけど、もう家族なんだ」
「うん、終わらせよう」2人は久々に笑い合った。
それを側で見守っていたアルフレッドはその場を音も立てずに離れ庭を歩きだした。
「貴方は織田に助けられたと報告は受けました。」
アカリが彼の背後から近づいてくるのにアルフレッドは驚く様子もなくゆっくりと振り返った。
「織田は僕を守って死んだ。彼とは何十年も一緒にいたんだ…僕には家族だった」
「…私もです。彼から戦うスキルも愛情だって貰った」「…僕もだ」
「彼は愛する人の為にだけ生きてた、最期は笑っていたと貴方から聞いた時に貴方に対する怒りが全部では無いけど哀しみは共有できました。」
「…同じような境遇だから?」
「織田は家族にしか笑顔は見せない…不器用で馬鹿な人です」懐かしむように彼女は笑った。
「ふふっ。此処でも織田は変わらずに生きてたんだ」アルフレッドは幸せそうに一緒に微笑んだ。
アカリは、彼の様子に納得したような表情を浮かべてその場を黙って離れて行った。
**
コゼットはヨゼフと館の屋根で月を眺めていた
「呆れたな、お前には魔女への枷すら通用しないとは、赤子で拾った時には此処までのものになるとは思ってもいなかった」
「妾が欲しているものは、」彼女はヨゼフを自身の体で抱きしめて呟いた。
「家族がだったかな」
「それは既におるじゃろう」
「人ならぬ私には、関係ない話だ」
「はぐらかすのか、この悪魔め」懐かしむように彼女はヨゼフを抱きしめる力を強めた。
「妾をいつでも見放してくれてもよいのだぞ?」
「私がお前という存在に飽きたらな」
「…それは無い」と笑う彼女に「…私を恨んでいるか?」とヨゼフは初めて聞いた。
「妾を魔女にした悪魔をか?」「…聞くまでもないか」体を震わせながら笑うヨゼフを撫でながら彼女は答えた。
「妾が生きていると自覚した、そのときに感じたことは、この温かさであった。そのことだけはな何百、何千年と生きようが忘れたことはない」
「稀に煩わしい存在じゃがな」彼女が笑うと
「…そうか」ヨーゼフは満足そうに笑った。
コゼットは黙って立派な毛並みを優しく何度も撫で続けた。
**
その姿を下から眺めていたユミは腕の中にいる彼のような存在を見つめ涙を流した。赤子は嬉しそうに笑い温かさで彼女に『生きている』と伝えた。
「父様は私たちを愛しては無かった?」
ユミはエルヴィラに確認をしたかった。
「この子は…」ウィリアム=父親では無い。
「うん、父様の存在は感じるけど全然別のものだね」ユミには腕の中の尊い存在は死んだ父親とは違う魂の揺らぎを感じた。
「私は家族を取り戻したかっただけなんです」
「…うん」とユミはエルヴィラを責めることなく優しい表情で答えたら涙が止まらなかった。
『失わないでよかった』と。
「エル、私たちは家族で私は貴女を愛している」
「…っつ!ごめんなさい。私は欲しがるばかりで
我慢もしなかったっ。この子は私が最期まで家族として育てます」
「いいえ!私たちで育てるの一緒に」「はいっ!」
赤子共にエルヴィラを抱き寄せ泣きながら姉妹は誓った。
『家族を護り愛し続けていくこと』を。
それぞれの夜は明けていった。
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