第21話


 人の悲鳴が屋敷内を凌駕した。

炎、水、氷に大地が稀に大きく揺れて立っていることすら難しい状況で太古の魔女である彼女は優雅に笑みを浮かべながら、人をなぶり殺し優雅に歩き続けた。彼女は組織の魔法使いを一瞬で死ねるようにと一撃で殺し、魔力が無い人間は楽しむように痛みつけ苦しめて殺し続けた。

 

 屋敷内、皆苦しみ痛みに泣き叫ぶもの、半狂乱になるもの、自ら死を選ぶもので屋敷内は地獄と化していた。

 

 彼女は屋敷内の微細な気配を探り、ようやく辿り着いた。

 

「お前だけは簡単には殺さぬ、妾の子らに手をかけたこと、後悔させてやるわ」

 

 コゼットの前に真理亜が腕を硬化させた状態で刃を彼女に向けて貫いたと思った瞬間、真理亜の腕が枝のように簡単に折れた。痛みで疼くまる彼女をコゼットは妖艶に笑いながら、彼女に近づいていった。



**

 アルフレッドは織田と友香の元へ向かう

向かう先々で仲間の亡骸をみて悲しむ余裕もない。

 

 彼女の部屋に施している結界は強くコゼットの魔法が直ぐに届くことは無いだろうが安心はできない。

人を殺す枷を外した、史上最恐の魔女がいる。

 

「兄貴っ。落ち着いたら話は聞かせて!でも今は有香を守る為に協力して欲しいっ」

 

「分かっているっ。俺のことは後で好きにしろ」

 

織田は叫んだ。アルフレッドに伝えたかったから


「先ずは有香を確保しに行くぞ。お前が焦ってるのはアイツの為なんだろっ!」先ずは彼の冷静さを取り戻すこと。

 

 織田の言葉にハッとして、冷静を取り戻したアルフレッドは彼と共に有香の元へ走りだした。ぐちゃぐちゃな感情が彼の思考を鈍らせた。

 

 織田が裏切ったのか?、織田がいなくなる?

 有香が心配だ、家族が危ない。


 でも今、一番理解できて頼りになる存在は織田だ。アルフレッドは決断する、織田は殺さずに利用すると家族の悲鳴が所々でする今は、助けに行く余裕などない有香の部屋まではあと少しだ。

 

あと角を曲がれば!

 

「よぉ、織田ではないか。魔法陣を作ってやるから国へ飛べ。お主が死ぬことでもあればユミが悲しんでしまうでなぁ」

 

 仲間の首を幼い手で軽く捻るとコゼットは笑顔で2人に近づいてきた。アルフレッドは無駄だと分かっていても銃を彼女に向け撃った。


彼女は彼の行動を煩わしそうに魔法で全ての弾を彼に跳ね返した。アルフレッドは死を覚悟した瞬間に、織田が彼の前に飛び出して被弾した。

 彼の口からは血が大量に吐き出されて織田は呼吸も難しい状態だった。

 

「しまったな。まさか庇うとは深く潜り込みすぎて情でも湧いたのか?其奴らは、お前の大切なものを全て奪ったのになぁ。織田がお主が命をかけて守った命じゃ。ソレとサクラの友は見逃してやろうぞ。」彼女は悲しそうに嘆いた。

 

 コゼットは2人の前から瞬時に消えた。残ったアルフレッドは織田の胸から溢れてくる血を両手で押さえながら焦っていた。『織田が死ぬ』

 

「なぁ、なんで?俺なんか庇ったの?全部終わったら兄貴のこと殺そうと思ってたような最悪な奴だぞっ」

 

 嫌だ 嫌だ 嫌だ

 

「なぁ、まだ一緒に居てくれよ。居なくならないでっつ」子どものように泣きだす彼を消えそうな意識の中で織田は思いだしていた。初めてアルフレッドに会った日を彼は幼い普通の子どもで、銃も体術も全て怖がって泣いて何度も屋敷から逃げるアルフレッドを何度も織田は辛抱強く迎えに行った。

 

 彼は何度逃げ出そうとも、いつも同じ場所で織田を待っていた。泣きながら抱きしめて何も言わず連れかえる度に彼への情は膨れあがっていった。


「っつぐ、ゴフっ、おっ…あ」

 

『お前は、俺の家族だった』伝えたいのに。

 

 口の中の大量の血のせいで上手く話せない。もうすぐ自分の体は動かなくなる、アルフレッドは泣いていて泣き顔は昔のようにぐちゃぐちゃになっていた。


 その顔をみて瞬間、織田は幸せそうに笑った。

彼は変わっていない、誰よりも優しい彼のままだ。

安心したように織田は眠るように動かなくなった。

 

「っつ!何で笑ってんだよバカ!!ごめん。連れてはいけない、だからコレは貰っていく」

 

 そう亡骸に伝えて織田の首からチェーンを引き寄せちぎりとる。織田が常身につけていた。愛おしそうに眺めていた指輪だった。

 

 アルフレッドは泣いた顔を乱暴に服で拭うと急いで有香の元へ走りだした。

**

 部屋に着くと有香は部屋の隅で震えて座り込んでいた。彼女にとっては銃声と悲鳴は両親の死を思いだしてトラウマになっているようで動けず

 アルフレッドと織田の名を呼びながら彼女はひとりで震えて彼らを待っていた。

 

 アルフレッドの姿をみた有香は彼の胸に飛び込んで、ずっとありがとうと繰り返し泣き続けた。

 アルフレッドは有香が無事だったことに安堵して深く深く息を吸った。

 

「良かった。今度は間に合った…」

 

バン!!!!と乱暴に開くドア。


「無事なのか?有香様は!」

 

 真理亜が傷だらけで腕から血を流し目も左が潰れた状態で足を引きずりながら部屋に入ってきた。

 2人の姿をみて安堵した様子で直ぐに魔法陣をその場につくりだした。

 

「すまない。守れなかった…私もこれが最後の魔力だろう、アルフレッド有香様を頼む。

 有香様!最後に願って下さい。行きたい場所へ…最期までお守りできず申し訳ございません。お幸せに」そう言われて有香は強く願った。

 

 2人は光の中へ消え、残った真理亜は崩れ落ちた瓦礫の下に押し潰されていった。

 

**

「有香!」


 サクラは驚きで体が硬直した、今のこの状態はヤバいと固まってしまった。

 サクラの目の前にいきなり現れた親友と組織の彼に周りが気づき大勢で2人を囲み銃を向けているアルフレッドは持っていた銃を投げ降伏する様な動作をしながらも彼の戦意は失っていない。

 

「組織はコゼットによって潰されたっ。もう抵抗もしない…だからっ!この人だけは救ってっ」

 傷だらけの体で絞り出す様に彼は言い放って、その場に崩れて意識のない有香を護るように抱きしめた。

 

「2人を助けてっ!」 屋敷内にはサクラの悲痛な叫び声だけが響き渡った。 

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