第15話
魔法で城に戻ったハルカとナジャが目にしたのは銃撃戦で破壊されたで大量の弾痕に破片、血痕そして、死体などめを背けたくなるような光景だった。
焼け焦げた臭いが、鼻をつき、所々で火が燃えているのか焼けた臭いがするのだが胃がむせるほど嫌な臭いがする、戦闘を知らないふたりはそれが人が焼ける臭いだとは気づいてはいなかった。
ハルカも酷い死臭と血の臭いに我慢しながら辺りを見渡すが、生きている人がいる気配がない。
「コゼットたちはどこにいるのかな?」
「たぶん、逃げるとすれば城の東塔へ。あそこには王族者の居住スペースがあるので抜け穴や隠し部屋もあります。」
「向かうなら急いだほうがいいな。城を覆っていた魔法がだいぶ…弱まっている」
レヴィアタンの言葉にナジャが驚愕した表情を浮かべた「ランク上位が10人以上で、練り上げた魔法が崩されるなんて。」彼女の表情は青ざめ酷いものだ。
2人が周りに怯えながら進もうとすると、頭上が光輝き、魔法陣が浮かびヨウスケが出現した。
「ヨウスケっ!良かった。」
現れたヨウスケにふたりは飛び付くと安心した表情で寄り添った。
ヨウスケは血だらけの手を見せまいと隠し、2人を慰めながら辺りを見渡し、現状を把握する。まずは、ふたりを安全な場所へ連れて行かなければ、最前線のアカリの場所まで行くことはできないと考えた。武装も無い2人は邪魔だ。
「お2人ともお怪我も無さそうで何よりです。とりあえずは安全を確保しましょう。」
「アカリさんたちは携帯のGPSで場所を確認し把握できます。安全な場所はこの辺りには無いので、ナジャ様もそこまでは一緒に来て貰うことになりますけど。」
「構いません!足手まといですが、邪魔にならないように付いていきますっ。」
先ほどの弱い瞳に強い光が射した。覚悟を決めた表情だ。ここに残して行けば危ない。先ほどの魔法使いが彼女を欲していたのも思い出し、組織に利用されるのも防ぐために、連れて行かなければならない。
「ナジャ、守るから一緒に行こう。」
ハルカはナジャに手を差し出す。
「はいっ!!」
2人はしっかりと手を握り、歩きだすと、後ろからヨウスケが付いて歩いた。
「仲間にインカムで連絡してるんですが、誰にも繋がりません。とにかく進みますよ。」
3人はより強い防御魔法が施されている東塔へ向かった。
**
西塔の最上階で、有香、アルフレッド、織田の3人は制圧組に混ざりながら進んできた。西塔は人があまり居ない塔であり、数名の魔法使いを倒すとすぐに制圧が完了した。
「有香さま。ここは終わった。俺たちは東塔にいる王族者たちの安否を確認に行く」と織田が言った。
「はい」と有香が答える。
「俺が後方を行くので、アルと一緒に前を歩け」と織田が指示する。
「あー、銃の替えが足りなそうだな。補充したいけど」とアルフレッドが言うと
「お前は無駄撃ちが多すぎる」と織田が指摘する。
その言葉にアルフレッドは子供のように頬を膨らませる。
「攻撃を躊躇いすぎだ。一撃で仕留めないから、2度3度と撃つはめになるんだ」と織田が言う。
「酷いなぁ」とアルフレッドがため息をつく。
アルフレッドがわざとらしく泣き真似をすると、織田は無視しながら煙草に火をつけ、無言で彼を睨みつけた。
「優しいんだよね。アルは、あの魔法使いたちを他のメンバーより先に撃って殺されないようにしてたし」と有香が言う。
「そうじゃないです。そんな余裕ないし狙ってはいるんですが人の欲って凄いんです。絶対あり得ないって行動してくるから軌道が外れるんですよ」とアルフレッドが照れ隠しで答えた。
有香は彼の言葉に癒されるが、魔法使いばかりが優先されて殺されるのを目の当たりにして不安が募る。国を治めていた魔女がいなくなったら、この国を建て直す人間はいるのだろうか。魔法がこんなにも受け入れられている国は世界中探してもないだろう。残された人たちだけで、ならば王族が存在さえすれば魔法がなくても治める人間は残る。それは希望ではないだろうかと彼女は考えた。
「王族の人たちって、魔法が使えたりするんですか?」と有香が尋ねる。
「王には子供が6人いて末娘だけ魔法が使えないと報告がきてますーー」とアルが答える。
「良かったね。その子、国が無くなっても人として生きていける」とアルフレッドが悲しそうに言うと、有香は不思議そうに「何故?魔法が使えても生きてさえいれば」と聞いた。
「駄目です。王族で魔法が使えるとなると魔法の知識は計り知れない上に戦闘力も高いし、希少価値が高い。普通に魔法なんて学べる所なんてないですからね、魔法が使えても自分の相性のいい属性なんて分かるほうが少ない」とアルフレッドが説明する。
「知識があったほうが、魔法も使いこなせるだろうし、暴走して周りが巻き込まれて死ぬってリスクも少ないからな希少価値は高いんだ…」と織田も続く
未だに訳がわからないという表情を浮かべる有香に、アルフレッドは苦笑した。
この娘は、魔法使いや魔女が人の欲だけで売り買いされている事実を知らない。
魔法使いにはランクが定められていて、その価値はランクで決まるのだ。欲に囚われた人間は、魔法を否定しながらも利用して己の願望を叶えようとする。
世界中で魔法が合法的に使われ、戦争が起き続けている。如何にランクの高い魔女、魔法使いをどれだけ手に入れるかで勝敗が決まるのだ。
だからこそ、この国は良質な魔女が多く育つのもあって、昔から他国に攻め続けられていた。欲に駆られた人間の侵入を拒むために、国を囲むように作られた高い壁。城の中に魔法が使える人間を集め、城を魔法の結界で覆った。それほどのことをするほど、多くの異能力者たちが犠牲になり、戦争によって命を奪われ続けている。
人間は守られ、異能力があれば人間として認められず家畜のように利用され、存在を恐れられ人間に駆逐されていく。この世界は歪んでいた。
『でも、どうして……そんなことが許されるの?魔法って、もっと素晴らしいものじゃないの?』
織田は有香の純粋な瞳を見つめ、深いため息をついた。『それが理想だ。しかし、現実は違う。魔法は力だ。力は常に欲望と共にある。そして欲望は、決して満たされることがない。』
有香は口を閉ざし、目を伏せた。彼女の胸には新たな決意が芽生えていた。『私は……』と小さく呟いた。
『私は、この世界を変えたい。魔法が人を傷つける道具じゃなくて、本当に素晴らしいものだって証明したい。』
アルフレッドの瞳に一瞬、驚きと共に希望が輝いた。『有香様、それは簡単な道ではない。多くの課題が待ち受けています。』
有香は力強く頷いた。『分かってる。でも、私はやる。』その決意に満ちた瞳を見て、アルフレッドも覚悟を決めて踏み込んで話を続けた。
「魔法が使えれば、高く売れるんです」
「売るって、人を?」
「そうだ」と織田が話を続けると有香は驚いた。
魔法が使えても人だ人権だって認められてるはず。
「そんなのっ、させない!」
「綺麗事だな。国が墜ちれば豊かさも無くなり貧困が襲う。家族を養うにも金が必要だ。奪うか作り出すしかない」
「魔女を売れば暫くは暮らしていけるような額が簡単に手に入る」
「有香様、人はね。簡単に欲の為に裏切れるんですよ」
「人が人を利用して殺す、何の意味があるの。大昔に魔女が人間にしたことと、今の人間がしてることって同じじゃない」
「どうして、理解しあえないの」
有香とハルカは親友だ。お互いに認めあい、守ってきた。彼女たちの絆は強く、それがこの世界での希望となっていた。
魔法使いだろうが、ハルカの存在は大きく、大切でいとおしい。そんな彼女を裏切り、自分だけ幸せになどと考えたくもないし、裏切る筈がない。
見た目が同じ人間を家畜のように扱い、欲のために殺すなんて行為が「私は、私は嫌だ。こんな世界は」そう考えだけで有香に抑えきれない怒りが込み上げてきた。
アルフレッドが怒りで震える有香に近づき、優しく抱き寄せる。少しでも落ち着かせてやりたいと…
「落ち着いて、約束したろ。貴女の願いが達成するまで僕らが絶対に守りますから…
僕らはWINのメンバーだけど、今は有香さまの配下です。貴女に最後まで着いていくと決めています」
「ありがとうっ!」彼の言葉は有香に響いた。
ハルカや同じ人である魔法使いたちが酷いめに合わないような世界を作るために、まずはWINという組織を見極めなければ。
現在、人間の自由を求めるために戦っている組織だが、本当に大罪の大魔女を殲滅して平和な世の中が来るのだろうか。
魔法は強すぎて、恐怖と嫉妬を産む。使えない者は理不尽に彼らを疎ましく思い、存在を消そうと考えてしまう。強い存在が抑止力になっていたのに、それが無くなれば、新たな存在が世界を脅かすだろう、終わらない連鎖は続いている。
「この戦いの終わりを見届けたい」
有香は決意を織田とアルフレッドに力強く伝えた
2人も有香の気持ちを汲み取るように頷いた。
「ありがとう。進みましょう」
「了解した」
「はいっ!」有香の精神的な強さにアルフレッドの彼女への加護愛は増していく一方であった。
有香はこの国の残酷な最後を覚悟して、生き残った魔法使いたちが理不尽な扱いを受けないように、少しでも彼らの力になれるよう行動しようと思った。一人でも多くの人が、生き残れるように。そう願って、2人と共に東塔へ進みだした。
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