第4話

ハルカとユミは、和美の告別式を終え、ユミには政府関係者や新日本の有力者などが朝から彼女を訪ねてきて忙しそうだ。


 ハルカはユミの屋敷内であれば歩き回ってよいと言われたので、レヴィアタンと一緒に屋敷の探険中である。


 レヴィアタンは、見た目が仰々しいのでハルカの意向である動物の姿になっていた。


「本当に、思う通りになるんだね」とハルカが言う。


「そう、言ったはずだが」とレヴィアタンが答える。


 朝、レヴィアタンはハルカにどんな姿にでもなれるので、想い浮かべろと言った。

ハルカが目が閉じると窓の外から鳥の鳴き声が聞こえ、その時に幼い頃飼っていた文鳥を想い浮かべてしまった。


 目を開けると膝の上には可愛らしい桜文鳥がチョンととまっていた。


「レヴィアタン?」ハルカが訝しげに尋ねる。


「そうだ」とレヴィアタンが答える。


 もう一度やり直そうか?とハルカがレヴィアタンに問うと、問題ないと返ってきたのでそのままの姿で一緒に行動していた。


 しばらく広い屋敷内を暫く歩いていると、コゼットが広大な庭園にテラスをつくり優雅にお茶を飲んでいて、その傍らには狼ほど大きい犬であろうか、コゼットの足元でふせの状態で大人しくしている。


「ハルカ、一緒どうじゃ?」


 暇をもて余していたハルカは頷き、彼女の前に腰を下ろします。


「レヴィ。お前、酷いな。」


 犬が人の言葉を話すことから、この犬も普通ではないとハルカは思います。


「別に?平気ですよ、先輩。」


「悪魔なの?」


「妾と契約をしておる悪魔でヨゼフじゃ。」


軽くハルカが挨拶を済ませてる間レヴィアタンは仲間であるヨゼフを気にすることなく出されたクッキーを突っついて食べていたがヨゼフの視線がウザかったのであろうか深い溜息をついた


「何ですか?先輩。名前までつけてもらって、駄犬扱い、可哀想に。」


 ヨゼフは怒ってワンワン叫んでいる

姿が変わると性格まで変わるのだろうか?レヴィアタンの口調が軽い。でも、ヨゼフと話している時だけのようで、それほど近い間柄なんだろうか


その様子を見つめながら、サクラが和み始めると


屋敷から見た目が小さく可愛い女性がハルカに近づいてきたので軽く会釈をする。

そして、彼女の後ろには女性ひとりと男性が3人ピタリと後ろに控えてついてくる

その中には先日挨拶を済ませている総理大臣秘書の湯神アコもいた。

「貴女の護衛を私の部下がつくことになりましたので挨拶をと連れて参りました。」


「護衛なんて、私には要らない、っです!…って!!」


突然ハルカが驚きの表情を浮かべて護衛の男性の一人に近づいた。

それもそのはず、護衛を勤めるアコの部下に見知った顔があったから、彼は驚く彼女に胡散臭い笑顔を向けた。


「千田っ???」


「千田は仕事用の名前。本名はヨウスケです」


彼の表情は同期生の頃と変わらないものの、口調が違うだけだが別人のように感じた。


「彼は貴女に秘密裏で専属で付いていた護衛で引き続き貴女の担当することになります」


「護衛…」


 あの日々は演技だったのか?


「あー、でも友達なのは変わらないですよ」


アコの冷めた言い方にハルカが傷ついた表情を見せると、すかさずヨウスケがフォローを入れた。

その優しさは、


「見た目と名前が変わったけど一緒だね」


「俺が護るんだ。安心しなさいよ♪」


「うん」


「仲がよろしいことで」


黙ってふたりのやり取りを見ていた四人の中で唯一の女性は、肩ほどまで伸びた黒髪をポニーテールにまとめ、左目の下には印象的なほくろがあり、唇もぷくりとしてとても可愛らしい。


「ごめんて。妬かないでねリーダー」


「はぁっ誰がっ!?妬くんだ!」


 軽口のヨウスケに向かい、顔を真っ赤にして彼に怒鳴り散らしている彼女は、見た目の可愛らしいイメージからは想像できないほど激しい感情をもっているようで、コロコロと表情が変わる彼女にハルカは親しみを感じました。


 アコが溜め息をつきながら仲裁に入ると、少し涙目の彼女が横で楽しそうに笑うヨウスケをチラチラと睨み付けながら、ハルカに一礼しました。


「この部隊のリーダーをやらしてもらってます。アカリです。」


「私が総理から離れられないので、彼女に普段、指揮を任せています。」


「格好いいですねっ」


 興奮ぎみのハルカが口にした言葉にアカリが下を向いてモゴモゴ何かを言っているのを聞きながら、ハルカは彼女の傍へ行き、とても小さな声で「ありがとうございます」と伝えた

恥ずかしそうに、目線をハルカから反らして言ってくれた彼女の可愛らしさに、ハルカは思わず笑みがこぼれる。


「惚れるなよ」


ヨウスケが迫力のある笑顔をハルカに向けながら彼女を牽制する


 そう言えば、前に彼好みの女性のタイプをクラスの女子に聞いてくれと頼まれたことがあった。

彼は「年上で可愛い人」と言っていたのを思い出し、すぐにそれがアカリのことだと察したハルカは、ヨウスケに大丈夫とばかりに合図を送る

察しのいい彼は、勘づかれたことに少し困った表情をハルカに向けた。


 「なぁ、あんた悪魔と契約したって本当なのか?興味あるなぁ」


アカリとヨウスケの横で、ふたり同じ顔をした男性のひとりが興味津々にハルカに近づきます。


肩ほどの赤い髪を後ろに固めて流し、スーツの中のシャツはド派手な柄。昔のドラマで出てくるチンピラような見た目だが、幼さが残る顔で、さほど恐さは感じない。


 もう一人の男性は黒髪に地味な黒縁の眼鏡をかけており、静かに言葉も話さず後方で傍観していました。

双子は見分けがつかないほど顔がそっくりで、同い年くらいで幼さが残るイケメンであった。


 ド派手な彼はハルカを上から下まで眺めると、右手の烙印が目にとまったのか、ぐいっと力任せに彼女の手首を掴み、自分に引き寄せる

ヨウスケが慌てて引き離そうとしたが、彼は烙印に夢中で離す気は無いようだ。


「格好いいな。気に入った護ってやる」


 彼は満足げに手を離すと、機嫌よさげに笑った


アコが申し訳なさそうに謝りながら

「ごめんなさいね。彼等は双子で彼が藤堂ハジメ、後ろにいる眼鏡をかけている方が滋郎です」と説明してくれた。


ハルカはハジメの行動がいきなりだったので驚いたのか、悪い人ではなさそうだと思って安堵していたが先ほどから何故か固まって動かないままの滋郎が気になっていた。


「滋郎?挨拶しなさい」


アコが少し苛ついた様子で言うが、滋郎はハルカをガン見したまま動かず、黙ったままだ。


「滋郎っ!」


キレたアカリが滋郎の傍へ寄るとその瞬間、


「……excellent」


今度は全員が固まる

彼はフルフルと震えながら、英語で「可愛い、天使、最高だ」と小声で言っている滋郎を見て、女子全員がどん引きした。


ハジメとヨウスケは、見慣れた様子で少しずつ滋郎と距離を取って離れる。


「よっ宜しく、お願いします!」


この妙な空気に耐えられず、ハルカが彼に話しかけると、いきなり滋郎は空を仰ぎ、めいいっぱい空気を吸い込んだ


「俺は!命を彼女に捧げるっ」


 屋敷全体に届くかのような大声で叫ぶ

全員が唖然の中、満足そうに目を輝かせながらハルカを見つめる滋郎に、「いや、いいです」と無表情で答えるハルカだった。


「遠慮しないで、任せてください」


 ハハハハっと紳士的なスマイルな滋郎だが、その後すぐにアカリにぶん殴られ、頭を抑えてうずくまり、その場は収まった。


 「なぁなぁ、お前の悪魔はどこだ」


そんな滋郎を心配する様子もなく、ハジメが期待を含ませた眼差しで辺りを見渡した。


「ここにおるぞ」


 レヴィアタンが桜文鳥の姿で、ハジメの前に飛んで足元にとまる。


「何だよ。これ雀?」


「文鳥…です」


へぇーっと生返事すると、人差し指でレヴィアタンのフワフワなお腹をツンツンと触りながらハジメがクククっと笑いだす。


「悪魔の威厳0じゃんっ」


そう言うと、ゲラゲラと本格的に笑う。


「器のかたちなど無意味だ」


羽が逆立ち始めるとレヴィアタンの下からズズズズと何かが迫っている音がし始めた。


「お前は魔法使いだな?」


「だからなんよ」


「火の属性か。相性が悪かったな」


「はぁ?」


レヴィアタンの下からゆっくりと水が涌き出てる、地面が濡れて広がっていく。


「今なら、詫びのひとつで許しくやるがな」


「やらんでいいし、蒸発させてやるぜ♪」


ハジメの両手から火が突然現れ、やる気満々のハジメ。呆れたレヴィアタンが青く光輝いた途端、地中から水がゆっくりと涌き出て、静かに大きな竜の形を成していく、水は、あっという間に屋敷の高さを優に越えるほど、大きな竜の形になった。


あまりの大きさに後ずさるハジメ。


「リヴァイアサンっかよ!」


待ったとハジメが叫ぶと、同時に彼の体は竜に呑み込まれた。


「ちょっ。やめなさい」


ハルカが慌てて止めようとするが、アカリたちは一向に助ける気配はない。


「先読みのアカリが動かないところを見ると心配はいらん」


じゃれてるだけだとコゼットも興味がなさそうで

10秒もすると水が引き、ハジメが床に倒れこんだ。


「ゴホッ。うえーずりぃよ」


「威厳をみせただけだぞ」


「ハジメ、謝りなさい。これは姿はアレでも上級悪魔なのよ」


アコが背中を擦りながら、ハジメをおこす。


「すまん」


 先程の元気はなく、素直に謝るハジメ。

彼を気遣うアコの姿を見て、いい人たちに巡り合ったな、とハルカは堪らない気持ちになった。

家族が増えたようで、嬉しかった。


「皆さん、宜しくお願いしますっ」


 ハルカの声に全員が優しさに満ちていた。


ここに有香がいればもっといいのに、と彼女は、あの時を最後に別れた有香の安否を心配した。

アコに報告として、有香の父親が魔女を駆逐しようと暗躍するテログループを家に匿った。

政府は魔女と国民の安全を守るために行動をしたところ有香の家族とハルカが巻き込まれたと説明され、有香の両親が組織の幹部と繋がっているなんて信じられなかった。


そして有香は国に保護される前にアルフレッドと姿を消したようで、アコが引き続き、調査し助け出すと約束はしてくれた。

一緒に連れてくれば良かったと後悔した。

普通ではなくなり、一緒にいれば己の運命に巻き込まれてしまう、そう思ってしまったから、有香には平和な生活に戻ってほしかっただけなのだ。


 そう心のそこから彼女のことを想うのだった


**

 某時刻 上空にて


 有香が目が覚めると、知らない場所に寝かされていた。側にはアルフレッドが心配そうに見つめていて、彼女は力無くボーッとしていた。

頭で何があったのか思い出そうとした瞬間、一気に思い出した悲しい出来事に過呼吸となり、駆けつけた医師により、再び薬で意識が遠のいていく。


眠る瞬間に想ったハルカの安否を思いながら、彼女を乗せた飛行機は日本の上空から消えて行った。

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