猫たちの世界へようこそ
第5話 未知との遭遇、そして連行される
「ここが異世界?」
目が覚めると、山林だった。鬱蒼とした竹林だ。薄い霧も出ている。
異空間ではぐれてしまった萌を気にかけながらも、落ち葉に埋め尽くされるなかを歩く。
上空を鳶か、鷹か、何かしらの鳥が飛んでいた。生き物がいることに安堵する。
明るい方角へ進むと開けた場所へ出た。
人の気配を感じない山道だが、硬く踏みしめられた土の道はあきらかに人間の手によるものだ。あるいはゴーレムあたりが造り上げたのか。
遭難時のセオリーとして、こういう場合は道を下るのではではなく上へと登山するものらしいが、果たして。
迷っていると林の木々が揺れた。野生動物か。まさかイノシシか。ひょっとしたらクマだろうか。恐怖で身構える。
ダッ、と黒い影が飛び出した。
「わー、わー、」
声をあげた。
逃げようとしたが足が絡まり倒れる。普段の運動不足が祟った。
ヤバい、食われる。
と見上げると視界に入ったのは甲冑に身を包んだ小柄な人間……じゃない!
「ふぁんたじー⁉」
心なしか顔の筋肉が緩む。
俺を数人の、いや数匹の『もふもふ』が取り囲んでいたのだ。
毛むくじゃらの顔は『猫』だった。俺に剣を突きつけるのは黒白のぶち猫だ。
「あやしいやつ」
真っ赤な口のなかに鋭い牙がみえた。
だけど怖さは感じない。なぜならば『猫』だからだ。なにより日本語が通じる。少し安心した。
「俺は遠くから来た旅人です。剣をしまってください」
「どちらから参ったのか」
今度はトラジマが聞いてきた。会話は出来るが、コイツらの話し方は随分クラシカルな日本語だ。時代劇で聞くような堅苦しいしゃべり方……着ている服も戦国武将のような黒光りする鉄と皮の甲冑だった。
異世界と聞いてエルフやゴブリンが闊歩する中世ヨーロッパのイメージを抱いていたが、やってきてみれば中世の日本だった。闊歩しているのも『猫人間』だ。この世界にエルフやゴブリンはいるのだろうか。
「おぬし、ひょっとしてヒト族か?」
トラジマが引き続き質問した。
「ああ、そうです。俺はヒトです」
この世界で人間がどういう扱いなのかわからず少し戸惑ったが、ここは素直に本当のことを言っておこう。
「どうしますか」
剣を突きつけているぶち猫がトラジマに相談する。上下関係があるようだ。
やはり時代劇のサムライと同じような社会構成だと考えて良いのか。
少なくとも、突然爪で引っ掻いてくるような野蛮猫ではなさそうだ。
なによりも、俺以外にも人間がいることはわかった。
「母を探しています。俺は、その……ヒト族? の村から来た屋久月翔太という者です」
「屋久月どの、おぬしの母はどうしてヒト族の村から出たのか」
「好奇心旺盛な母は旅が好きなんですよ。だけど戻って来ないから俺が探しにきました」
「なるほど、そういうことでござったか」
猫サムライたちが刀を鞘に収めるのをみて安心したのもつかの間、俺は縄で縛られた。
「ちょ、ちょっと。わかってくれたんじゃないのか!」
「うむ、おぬしがヒト族だというのは理解した。ならば良いヒト族か、悪いヒト族か見極めねばならぬ」
そ、そんなぁ。
俺は時代劇でみる『下手人』のように猫サムライたちに町へと引っ張られていった。こいつらチビのくせに力は強く、あらがうことは出来なかった。何より刀を持っている。逆らったら斬り殺されるだろう。
町へ出ると多くの猫人間がいた。俺を物珍しそうに見つめる。
町の猫サムライは甲冑姿より袴姿が多かった。むしろ仰々しい甲冑を着ているのは、俺を連行しているヤツらだけのようだ。
家々は土壁に木材と紙。屋根は藁葺き。
まさに時代劇の世界だ。
あ、ちょっと待て。嫌な予感がした。
番屋へ連れていくと言ってた。俺が時代劇で見た番屋って犯罪者を拷問する場所じゃないか。水攻めや鞭打ち。
「さぁ、吐けぇッ!」
「ぎゃぁぁぁあッ、うにゃぬやぁぁぁぁッ!」
小屋のような建物からは、ドスの利いた声と叫び声が同時に聞こえていた。
「いま、ちょうど盗人を捕らえたところでござる。拷問中だが気にすることはない」
番屋の入り口でトラジマは嬉々とした表情で語った。
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