第13話

「俺でいいんですか?」


伯爵夫妻にそう聞いたのは、去年の夏だった。


「?何が?」

「婚約の件ですよ」


俺がそう言って、2人は「そういえば、そんなものもあったな」みたいな顔をした。

割りと大事なことのはずなんだが。


「いいのよ~。プラニュモス君は既に私たちの息子みたいなものだし」

「信頼しているんだよ、君を。ジオも懐いてるし、チアを泣かせることもない」


評価が高いのは嬉しい。


「プラニュモス君なら、僕らの可愛い娘を任せられるってね」


夫人がしきりに頷く。


何故、こんなに信用できるのか。




「俺が、他の女と遊ぶ男でも?」




2人が黙る。

俺と、2人との間に風が吹く。


夫人が口を開いた。




「別にいいわよ?不貞行為にならなければ」




「…は?」



当たり前な顔をして言われた。


いやいやいや。良くはねーだろ。え?大事な可愛い娘なんだろ?なら、浮気性の男に預けようとするなよ。


「ま、君も男だしなあ。そーゆーこともあるだろう」

「いやいやいや。え?」

「絶対にチアと結婚して欲しい!ってわけでもないからね~」


まさかの反応で、驚きを通り越して呆れ始めてしまっている。


「うそだろ…」

「まあぶっちゃけ言っちゃうとさ。自由に恋愛して、その上で結婚して欲しいんだよ」

「家とか契約で縛られても楽しくないわよ ね~?人なんてすーぐ死んじゃうんだから」


「「自由に生きてたいよね~~」」


「あ、ははっ…」


顔が引きつりそうだ。貴族らしからぬ言葉。

自由すぎる。

けど、" らしい " と思った。


「……じゃあ、もうちょっと自由でいたいんで。まだ婚約は保留で」

「「おっけ~~~」」



こうして、俺とスターチアは今も、婚約者未満の関係で留まっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る