第7話

王立学園には寮がある。俺のように、王都から遠い領地の貴族は、寮に入って生活をする。実家に帰るには、長期休暇中か学園に申請するかしかない。


「おー。お帰りぃ、プラニュモス」

「…只今戻りました。殿下」


思わず苦笑してしまう。王太子殿下ともあろう御方が、他人の部屋に無断で入っているのだから。


「どうやって入られたんですか?」

「フフン♪ヘアピンでな、ちょちょちょっと」


盗賊かよ。


殿下は今頃、王宮に戻って書類を片付けているはずだ。彼女と共に。

今ここにいるということは、片付けてきたか、逃げてきたか。


「いやあ、マリーが鬼になっちまってさぁ。ちょっくら身を隠させてもらってるぜ☆」


あああああああああああ!!


「俺を!巻き込むな!!馬鹿野郎!!!」


殿下の婚約者、マリーソワ・オドガルスト公爵令嬢。俺と殿下と彼女は同い年で、学園内でもよく行動を共にする。

家格的には当然、殿下が一番上だ。普通は。


彼女は、怒ると怖い。

兵が太刀打ち出来ないくらいに。


元々短気ではあるが、貴族の付き合いとして、彼女はその感情を表に出さないようにしている。殿下はそうして溜まった鬱憤の矛先を自分に向けさせて、ストレス発散させている。

マリーソワを想ってのことか、たまたまか。婚約関係が良好であるに越したことはない。

" 喧嘩するほど仲が良い "とも言う。

………ただそれに俺を毎度毎度、巻き込むのはどうかと思う。


「いっっつも俺を巻き込みやがって!」

「いいじゃん。俺とお前は運命共同体ってことで☆」

「なんでテメーと運命を共同しなきゃなん ねーんだよ」


バーーーン!!!


「邪魔するわプラニュモス!!」

「あ、やっべ」

「マリー!俺、何も知らないからっ!」



鬼が、迫ってきた。



その後、殿下はこってりと絞られ、襟首を掴まれ、ズルズルと引きずられていった。

俺はというと、長めの爪をたくわえた指でデコピンを喰らわされた。理不尽。

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