第14話 とある男の独り言。ボッチ王都に入る


 カズオ達商隊がムハマドの集落を去った翌日に1人の男が呟いていた。

 「そろそろこの集落は1人残らず疫病に掛かって日中に外出出来る者などいないはずだがこれはどうしたことか?皆元気に働いているではないか!あの【南洋毒蝙蝠】の死骸を放り込んだあの井戸はどうなった?」


「な、な、なんだこの井戸の蓋はまさか蝙蝠の死骸が見つかって対応策を取ったのか?それにしてもバレるのが早い。早すぎる。前の国の町では3か月掛かってやっと薬を選定出来ていたし、原因は判らないままで治る、再度病気になるの繰り返しだったのに……良し次は王都の井戸を狙おう。今度は大騒動になるであろう。その隙に窃盗をし放題。大金持ちになるチャンスだ」


 男はにやりと笑って乗合馬車を探しに動き出した。

 どうやらこの男,この度の疫病事件の犯人の様だ。

その目的が病気になった家庭に忍び込んで金目の物を盗みだそうというせこい理由だった。

 いくら人殺しが目的ではないとはいえ、下手すれば人の命を奪いかねない極悪非道な犯行である。

 王都に向かったカズオ達と、この男との遭遇は有るのだろうか?


※※※


 その頃カズオ達は王都に到着していた。

 商人が良く利用しているという少し高級な宿を予約した後に冒険者ギルド本部に行ってサンダーライガー・デザースターの討伐報告をする。体長100mの死体を出す場所が無いので魔石を見せて承認して貰う。

 「これは国王様に見て頂かなければいけない案件です。明日みょうじつ王宮の裏庭で現物を出して頂きたい。宜しいですかな?」

 ギルマスのテアドロサが尊敬の念を込めて要請する。

(つい先日冒険者登録したばかりの男が1国の軍隊が多大なる犠牲の上でようよう倒せるかどうかの厄災モンスターをたった1人で討伐したと言う。信じられない事だが、彼が取り出した巨大な魔石はこの国1番の俺の鑑定スキルで見ても本物だった。

 聞けば本人所有のダンジョンでたった1人で自身を鍛え上げたとか。

 欲しい。彼ほどの強者がこの国で活躍して貰えたら、他国に侵略などの下手な考えをおこさないような抑止力になるであろう。だが彼は冒険者だ。自由を求める者、窮屈な軍隊になど納まる事など無いだろう。後は国王陛下がどう考えるかだが、俺にはどうこうする権利など無い。ただ見守るしかあるまい)

冒険者ギルド本部長(ギルマス)のテアドロサは王宮に報告し、カズオら一行を王宮御用達の高級ホテルに案内して宿を移る事を薦めた。宿泊費は全額王宮が持つことを約束した。そのことについては既に王宮側の約束を取り付けている。

王宮側の準備が出来次第迎えを寄こすと伝えて職場に戻った。


 テアドロサの仕事はまだ終わっていなかった。

 ムハマダの町で疫病が発生して、人口200人の集落が被害に遭った事、幸い死者は居なかったがその疫病の原因が、この地方に生息していないはずの【南洋毒蝙蝠】の死骸が集落の飲み水の井戸に入っていたとのこと。これは見逃せない事件の匂いがする。

誰が何の目的でそのようなことをしたのか?

 幸い特効薬がアネモネイトの町の聖女様によって作られていたことで患者の治療が出来たのだという。当然教会と治療にあたった医師によって王都に伝えられてはいるだろうが、冒険者ギルドとしても王宮と国内の支部に情報を拡散しておかなければならないだろう。またどこかの町や村で同様な事件が起きる恐れが大いにあるからだ。

テアドロサは王宮の情報収集部門に手紙を書いて、部下に届けさせた。

 「ふあー今日も忙しかったな。明日も小うるさい貴族共と顔を合わせなくてはいけない。酒飲んで早く寝よう」

 各支部に流す情報を書類にして、部下に伝達を行うように指示した。


 が、事件の実行犯が王都に向かって来ていることなどこの時はまだ知る由も無かった。

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