第11話 ボッチ疫病の町へ行く

 3日めの朝食は簡単にサンダーライガー・デザースターのステーキと野菜サラダ、雉肉と家庭菜園で育てた白菜のコンソメスープ。今朝も大好評だった。


 「今日は朝からガッツリ幻のステーキを食えて最高のコンデイションだ。カズオ私の嫁に来ないか?」

リラさんが軽口を言う。

 「「リラさんダメー!!!」」「抜け駆けはズルいよー」

3人娘が非難ごうごうだ。俺はシカトする。


 体調が良好なのは当然だ。伝染病が蔓延している町に行くのだから予防の為にスープの水に【奇跡の湧水】の水を魔法水で希釈して使っている。これで我々は伝染病にはかからないはずだ。

道中無事で目的地の町に着いた。ムハマダと言って人口2万人の町だ。

町へは幹線道路から別れて横に逸れる道をしばらく進む。町の入り口には余所者が入らないように見張り番が3人居た。

泊まり込みで見張っているのだろう、テントが張って有って、あと3人が休憩中だと言う。

「病気の特効薬を運んできた商隊です。病気の予防薬は飲んで来たので、通してください」

ゲンズさんが交渉役だ。

「貴方がたも薬をどうぞ」

「おお、それはそれは、どうもありがとうございます」

「やあ!ゲンズさんが来て下さったのか!自分も病気になるかも知れないというのに奇特な人達だ。ありがとうありがとう」

ゲンズさんの顔見知りの人がいて町の現状を説明してくれた。


「成る程、最初に発病した人の家の周囲30軒の住人約200人が病気にかかっていて他の所にはまだ広がっていないということですな」

商隊に着いて来た医薬師のバリュウさんが頷いた。

「病気の発生源はその最初の家が怪しいですね」

そこは小さな集落で、野菜を育てて売っている農業区域らしい。

人家が30軒固まっていてその周囲が菜園になっている。

「この印は何ですか?」

簡単な地図の家々のほぼ中央に四角の中に円が描かれた印が有る俺はそれが気になって訊いた。

「井戸です。この集落の家は全戸、この井戸水を飲んでいます」

「それってひょっとしてその井戸水が原因とか?」

「はあ、でもとっても綺麗な水ですよ。澄んでいて、冷たくて美味い水ですよ」

「俺は【鑑定スキル】を持っています。バリュウさん一緒に付いて行ってもいいですか?」

「おお、それは有り難い。しかし貴方はとんでもなく優秀な方ですなあ」

【鑑定スキル】を持っている人間はこの国では5人しか知られていないらしい。その人たちは王宮と教会と冒険者ギルドの本部、商業ギルドの本部、それに医薬ギルドに各1人ずつしかいないのだという。


「そうと知ったらまずその井戸水を調べてみましょう。それから住人に薬を配って回りましょう。皆さんご協力ください」

「おお、何でも指示してくれ」

俺達は行動開始した。

見張り番3人に案内を頼んでリラさん達冒険者と商人さん達は家々に薬を配って行く。

俺とバリュウさんは問題の井戸に着いた。

鑑定すると【魔獣毒に侵された水。飲むと下痢発熱気力減退になる】と出た。

バリュウさんに伝えると、

「しかしなぜこの井戸が魔獣毒なんかに侵されたのでしょうかねえ」と、言った。


確かにこの地形だと魔獣が出没する場所には思えない。

「異物察知」

俺は井戸の中をサーチした。有った。井戸の奥底に小さな動物の死体らしきものを感知した。

「ストレージに収納」


収納したその死体を井戸から離れた場所で取り出してみる。

それはドブネズミほどの大きさの菊頭蝙蝠そっくりの顔をした魔獣だった。【南洋毒蝙蝠】と鑑定された。熱帯地方に生息する蝙蝠で気温が10度以下になると死ぬ。そんなものがなぜこの町のこの井戸に?


謎解きは後にしてまずはこの井戸を浄化消毒しなければいけない。

俺はバリュウさんに許可を得てクリーン魔法をかけて更に【奇跡の水】をポーション瓶1本分を流し、魔法で充分に攪拌した。

再鑑定すると【清浄な井戸水。年間水温10度以下の美味しい水】となった。

「井戸の方はもう大丈夫です。薬は配布し終わったか確認しましょう」

「そうですね」


 集落の人たちが広場に集まり出した。どうやら商人さん達が持っ来た薬が本当に効果があったようだ。

「その特効薬はバリュウさんが用意したものですか?

良くこの町の疫病に効果のある薬を選んだものだと感心しましたよ」

 「いやあ、それが私が選んだのではないんですよ、教会の聖女様が是非その薬を持って行くようにとの神様のお告げを受けたのだそうです」

「聖女様ですか?」

 「ええ、聖女様から教会の神官様に、神官様から医薬ギルドにそして私に指示があったのです。丁度こちらに向かう商隊に商業ギルドから私を乗せて薬を届けてくれるように要請されたそうなんです」

この世界の緊急時の対応システムは良く機能しているんだな。俺は感心して聞いていた。

 この町で発病が激しくなった頃、まだ発病していなかった男性が教会のあるアネモネイトの街に助けを求めに来て協会に着いた時に発病したらしい。その病状を見た聖女様が神様にお祈りして先程のご託宣を受けたのだそうだ。試しにその薬を飲ませたところたちどころに回復したらしい。元々は食中毒の下痢止め薬に聖女様の浄化魔法を掛けたものらしい。


 ほとんどの町民が起きて集まって来た。ろくに食事できていなかったから足元は覚束ない。そこで俺は【奇跡の水】を混ぜた魔法水でおかゆを作って振る舞うことにして集まって貰ったのだ。

茶碗は集落の集会場に備蓄していた物を使わせてもらう。箸の代りにスプーンを使用させる。大鍋2つに作った。余ったら収納しておけばよい。

奇跡の水の効果で元気になった住人達は食欲も復活しておかゆは余ることは無かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る