第15話 休日

「うーん……もう朝か……」


 日差しが部屋に差し込む。長くて綺麗な金髪が日の光を反射している。


「今日は……お休みか」


 今日は初めての休みである。まだこのベール・ジークに来てから街を堪能する時間がなかったため、休みの日を使って出かけようと計画していたのだ。


「よし……出かけよっと」


 普段の白を基調とした服ではなく、水色のワンピースを着て街に繰り出した。腰にはいつもの剣を装備しているが、緊急時に対応できるように武装はしておく必要があるのだ。


(初めてじっくり見たけど、いろんな店があるなぁ)


 飛警団本部があるのはベール・ジークの中心部であり、街の中では最も栄えている。それゆえ、多くの店があり、興味をそそられる店もたくさんあった。


(てか、こんなとこ歩いてたら、誰かに会うかも……)


 と、考えながら歩いていると、人とぶつかってしまった。


「あ、ご、ごめんなさい」


「あ、悪い悪い!」


 と笑顔で謝ったのは、金髪で三つ編みのチャラそうな男だった。


「って、あれ?あんた、リーサ・レインメアじゃね?」


 金髪の男は目を見開いた。

 

「はい。そうですけど……どこかでお会いしたことありましたっけ?」


 リーサは、この男性のことを知らなかった。


「へぇ~、実物可愛いじゃん!俺と同じ金髪だね!共通点1個目!意外と背、ちっちゃいんだ。眼の模様変わってるね。じっくり見せてよ!」


 ベラベラと話しかけてくる男の圧に押される。男はリーサの眼をじっくりと見始める。


(な、なにこの人……怖い……)


「へぇ、見てもなんもわからん!てか、今日休み?昨日は疲れたっしょ?」


(昨日のことを知っている?)


「あ、あの……どちら様でしょうか?」


 と尋ねると、後ろから騒がしい聞き覚えのある声が聞こえる。


「あいつどこ行きやがった!コラ!」


「俺たちを置いていきやがって!コラ!」


「あれ、伊賀君と甲賀君?」


 振り返ると、そこには伊賀と甲賀がたくさんの袋を持って歩いてきていた。


「あ?お前はリーサじゃねぇか、コラ」


「こんなとこで何してんだ、コラ」


「あ、2人とも、やっと来た!」


 金髪の男は2人と肩を組んだ。


「離れろ、コラ!」


「邪魔だ、コラ!」


「あはは!メンゴメンゴ!」


 悪びれるような様子もなく、男は笑顔で離れる。


「って、さっきの質問に答えてなかったね、リーサっち」


(リーサっち?)


「《イラ・ハーリィレイ》、第二部隊だよ」


「あぁ!イラ君!」


「あ、覚えてくれてたんだ!」


 イラはウインクをする。


(めっちゃ明るいな、この人……)


「おい、俺たちは買うもん買ったから帰るぞ、コラ」


「えー、飯くらい付き合えよ~」


「リーサとでも行っとけ。じゃーな、コラ」


 2人は本部の方へ行ってしまった。


「ちぇー、まぁいっか。じゃあ、飯行く?リーサっち」


「い、いや……私もちょっと……」


「マジかよ。じゃあ俺、ぼっち飯かよー」


 イラはとぼとぼと歩いて行った。


(特に断る理由もないけど、断っちゃった……)


 リーサも再び街中を歩き始めた。


◇◆◇◆◇◆


 今度は北西区にやってきた。ここには大きな学校があり、学生が多くいる。といっても、様々な年齢の人が通っており、若者が多いとは一概には言えない区である。


(学校かぁ、少し前まで学生だったのに、もう懐かしい気分だな)


 学校の隣を通る。


(田舎だったし、こんなに大きなところじゃなかったけど、楽しかったな。みんな元気かな……)


 と考えていると、再び人とぶつかってしまった。


「あ、ご、ごめんなさい!」


 頭を下げて謝る。


(またぶつかっちゃった……やっぱり考えごとしながら歩いちゃダメだな……)


「あー、こっちこそごめ……ん……?あれ、君、どっかで会ったことあったような……」


 頭をあげると、そこに居たのは水蘭であった。


「あ……す、水蘭さん。どうも……」


「あれ、知り合いの人?」


 水蘭の横から、綺麗な女性がひょっこりと出てきた。


「確かー……仲間ではあったはずなんだけどなー……」


「仕事仲間ならちゃんと覚えなきゃダメでしょ」


(か、彼女さんかな……?水蘭さんの彼女さんか……?水蘭さんに彼女……?考えにくいな……)


「うーん……人覚えるの苦手なんだよねー……」


「第一部隊隊長、リーサ・レインメアです」


「あー……そう言われればそうだったかも……」


「すみません。兄がお世話になっております。妹の《風菜ふうな》と申します」


 薄緑色の髪の可愛らしい女性だった。風菜は手を差し出した。


「なんだ、妹さんでしたか。よろしくお願いします」


 リーサは手をとり、握手を交わす。


「そうだ、良かったらお茶でもしませんか?仕事での兄のこと聞きたいんです」


「えっと……私、水蘭さんと仕事したことほとんどないんですが……」


「それでも大丈夫です。なかなか自分のこと話してくれなくて」


「話すようなことじゃないからねー……」


「昔から自分のこと全然話してくれないよね、お兄ちゃん」


「別にいいでしょ……」


(仲良いんだな……水蘭さんにもこんな一面があるんだ)


「あー、でもごめんなさい。この後予定があって……またの機会にぜひ」


 リーサは申し訳なさそうにその場を去った。


◇◆◇◆◇◆


 コンコンコン


 職務室の戸を叩くリーサ。


「お、来たか」


 戸を開けたのはオルゲドだった。


「オルゲドさん。お疲れ様です。ごめんなさい、わがままを言ってしまって」


「ええよええよ。ほな、行こか」


 オルゲドは鍵を持っており、リーサはその後ろをついていく。


「ここが《資料管理室》や。うちで持った事件の資料は全部ここにある。終わったら鍵閉めといてな」


 オルゲドは地下の大きな鉄製の扉を開け、鍵を渡した。その中には大量の書類が入った棚が連なっていた。


「ありがとうございます」


 リーサは部屋の中へ入って資料を手に取り、1つずつ読み始めた。


(この中に手がかりがあれば……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

讐ノ眼 歌月 琉 @Ryu_Utatsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ