第14話 第一部隊前々隊長

「たしか、前隊長の頃からよくはぐれたって報告があったはずだ。最近はそれも少なくなっていたらしいけどね……単独行動は違反行動だって知らないわけじゃないはずだよ」


「そ、それは……」


「なんの話だ?」


 後ろを振り向くと、そこには傷1つなく平然と立っているカロの姿があった。


「うわぁ!?いつからそこに!?なんでここがわかったの!?」


「こいつに案内してもらった」


「あ、あ……い、痛いから髪引っ張らないで……」


 カロは男の髪を引っ張って引きずっていた。


「だ、誰この人は……」


「ここのやつだ。ついさっき襲ってきたから半殺しにして案内させた」


 ポイっと投げ捨てた。


「……あんたがカロ・アックストルフかい?」


「あぁ。だったらなんだ?」


 カロはヤザトを睨む。


「最近は少なくなってきてたってのに、また単独行動かい。《問題児》君」


「あんたには関係ないだろ」


 不機嫌そうに言い放つ。


「前々隊長の頃は真面目で熱心な性格だったらしいが……」


 そう言われた途端、カロの眉がピクリと動き、しわを寄せる。


「おい……その話は……」


「彼がしてからは……


「黙れ!その話をするな!」


 ヤザトの話を遮り、大声をだした。


「……尊敬してたんだって?でも、で……


「てめぇ!!!」


 カロはヤザトの胸ぐらを掴み、怒鳴る。


「や、やめて!」


「カロ、落ち着いてっス!」


 リーサと新は仲裁に入る。


「……チッ」


 カロは走って行ってしまった。


「あっ!待ってっス、カロ!」


 新もカロを追いかけて行ってしまった。


「ちょっと二人とも!?」


 リーサが追いかけようとした時には、もう2人の背中は見えなかった。


「……まさかあそこまでとは。悪いことしたね、あんたにも彼にも」


 ヤザトは詫びるように言った。


「あの……昔、なにが?前々隊長が殉職したって……」


「……あんたは知っておいた方がいいだろうね。カロ・アックストルフがなぜああなったのか、そして第一部隊前々隊長アルトルテ・ヴァン・フーレンのことを」


(前々隊長…………)


「あたしも話を聞いただけだからあまり詳しいことは知らないけど……カロが第一部隊所属になったときの隊長がアルトルテだったんだ。彼、アルトルテのことをかなり尊敬してたらしくてね……その頃は真面目というか、違反行動を平気でするようなやつじゃなかったらしい。ただ……あの時は今回以上の大規模な作戦でね……彼は目の前でアルトルテを殺された」


(……!)


 その言葉に戦慄する。


「こんな仕事だ、仲間を失うってのはそう珍しいことでもない。それでも、カロはその日以降、昔の面影はなくなってしまったらしい。彼にとってアルトルテという存在がどれだけ大きかったのやら」


「そ、そんなことが……」


「気の毒には思うけどねぇ、あんたもあんまり甘やかしすぎるんじゃないよ。重い話しちゃったね。あたしはそろそろこいつら引かせて出ることにするよ」


「ありがとうございました。私、カロ君のこと……いや、他のみんなのことも全然知らない……」


 リーサは頭を下げた。


「そんなの、少しずつ知っていけばいいさ」


 ヤザトは優しく微笑んだ後、自身の部隊の隊員とともに洞窟の外に出て行った。


(もっと知りたい……仲間のことを)


 リーサは強い決心をし、その場を去った。


◇◆◇◆◇◆


 外に出て山を下り、麓に着いた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。団員たちが後片付けをしていたり、記録や資料をまとめていたりしていた。


(あ、あそこにいるのは……)


 リーサの視線の先に居たのは、短めの銀髪を風になびかせ、飛び回っているコウモリと夕日を見ているサシアだった。長い槍を持っていなければ警団の幹部というよりはどこかの貴族という方が納得できるほどの美しい横顔を見つめていると、サシアがこちらの視線に気づき、近づいてきた。


「あ……ごめんなさい!ジロジロ見ちゃって」


「別に構わないさ。初めての大仕事なんだって?お疲れ様」


 サシアはふっと笑って美しい笑顔を見せる。


「お疲れ様です。あの、聞きたいことがあるんですが……」


「ん、なんだ?」


「援軍を一人で全滅させたというのは本当なんですか?」


「あぁ、それがどうかしたか?」


「あの……どうして援軍が来ているってわかったんですか?来る前に場所も、時間も特定したんですか?」


「知っていただけさ。ディクトーが」


「ディクトーさんが?」


「偵察、諜報においてあいつの右に出る者はいないだろう。唯一の制限があまりにも大きいとはいえ、あいつの能力は凄まじいな」


「なに話してんだ」


 話しているといつの間にか背後にいたディクトーの声が聞こえた。


「い、いえ!なんでもございません!」


(相変わらず顔怖……)


「なんだその喋り方」


「今回も完璧だったじゃないか、ディクトー」


「当たり前だろ。援軍がいつどこから来るかも、やつらの緊急時の逃げ道も全部知ってたんだからな」


「逃げ道……あ、そういえばボス達が逃げた先には水蘭さんが……」


「あぁ。あいつの位置もサシアの位置も俺が指示した」


「2人にしか伝えなかったんですか?」


「全員に伝えて勘づかれたら情報の優位がなくなる。わざわざこっちの知ってること教えてやることねぇだろ」


 と言うとディクトーは背を向けて歩き出した。


「俺はもう戻るぞ。お前らも早めにあがれよ。もうすぐ軍やらなんやらが来て面倒になるからな」


「やれやれ。じゃあ私も行くとしよう」


 サシアもディクトーを追うかのように去ってしまった。


(……そろそろ私も行こうかな)


 橙色に輝き続ける夕日に見惚れ、足が止まる。さっきまで飛んでいたコウモリもすっかりいなくなってしまった。


(綺麗……)


「隊長?まだいたんですか?お疲れ様です」


 後ろを振り向くと、ルイカが不思議そうにこちらを見つめていた。


「あ、ルイカちゃん。お疲れ様」


「行くところでしたか?私もちょうど行こうとしてたところです。一緒に本部まで行きませんか?」


「うん!行こう行こう!」


◇◆◇◆◇◆


「隊長の戦闘データをまとめていたんです。見たことない魔力構造ばかりで驚かされましたよ」


 ザーク山から都市ベール・ジークまでの道を2人で歩きながら話していた。完全に日が落ちてしまい、月明かりだけが足元を照らしている。


「そうなんだ。あんまり実感ないんだよね」


「通信機を通してじゃなくて実際に見てみたいです。まぁ、この小隊が続くようなら叶わないかもしれませんが」


「情報支援はルイカちゃんが担当してるの?」


「小隊の4人の誰かがするものですが……新もカロも精密な魔力操作は苦手で自然とこういう役になっちゃいました。見た目以上に繊細で膨大な魔力が必要なんですよ、あれ」


「そうなんだね。なんとなくあの2人はそういうの苦手そう……」


「本当ですよ。前2人がやった時は……」


◇◆◇◆◇◆


「わ~~~~~!!!右からっス!いや左からっス!あ~~~えっと、えっと……」


◇◆◇◆◇◆


「あ!?わかんねーモンはわかんねーんだよ!現場のがわかるだろ!俺に聞くんじゃねー!」


◇◆◇◆◇◆


「さ、散々だったんだね……」


「二度とあの2人にはさせません」


「てか、3人は仲いいんだね」


「仲いいというか……まあ同じ学校出身ですからね。一緒に街まで出てきて、一緒に入団したんです」


「へぇ、そうなんだ。良かったら3人のこともっと聞かせてほしいな」


「うーん、話すことなんて……あ、そういえばカロ、また単独行動してた……」


「最近は少なくなってたって聞いたけど……」


「あれで少なくなってるんですか」


「あの……カロ君の昔のこと、聞いたんだ」


「昔の……?もしかしてアルトルテ隊長の頃の話ですか?」


「うん……あ、ルイカちゃんもカロ君と同じように……?」


「いえ、カロは私と新より早く第一部隊に上がりました。私たちが入ったころには隊長は変わっていましたから、詳しいことはわからないんです。ごめんなさい」


「そっか……」


 会話をしているうちに、街に着いた。

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