第13話 戦いの終わり

(な、何も見えなかった……!いつだ!?どうやって!?何をした!?こいつの魔法か、それとも能力か!?刀を使ったのか!?何もわからねぇ……だが、少なくともこれだけは確かだ……)


 

 レベルが違いすぎる……!!!

 


「……」


 水蘭はただ、その場に佇んでいた。


「ふ、ふざけるな!この俺が……!この俺がぁ!」


「ま、待て!早まるな!」


 ハンマーの大男は穴の開いたハンマーを振り回す。


「はぁ……めんどくさ」


 水蘭は刀を抜いた。ただ刀を抜いただけだった。しかし、その勢いでハンマーは一刀両断されてしまった。


(か……刀を抜いただけで俺のハンマーをぶった斬ったのか……?)


 大男は戦意喪失し、膝をついた。


「あと2人かー……そっちがやる気ならやるよー、めんどくさいけど……」


 水蘭は2人の方へ徐々に歩いていく。


「く、くるぞ……!ランジ、どうする!?」


「奴の能力は《水を操る》能力……奴の足元の水たまりが奴と共にこちらに近づいてきているのがわかるか」


 その通り、水蘭の足元にある小さな水たまりが水蘭と共に近づいてきていた。


「あぁ……それがどうした!?」


「水を操られた時点で私たちに勝ち目はない……」


「なっ……!で、では、どうすれば!?」


「方法があるとすれば……私が奴に幻術をかけ、私たちの存在を視認できなくする。その隙に心臓を突き刺せ!ティーザ!」


 ナイフを逆手に持ったティーザは走って接近する。


《幻術》


 ランジは水蘭に目掛けて幻術を放つ。


(これでやつの視界に我々の姿はなくなった!一撃で決めれば……な、なぜ……なぜやつは、走りこんでいるティーザを見ている!?)


 水蘭は幻術にかかっている様子もなく走ってくるティーザを見ていた。


(幻術はあまりに魔力量に差があると効かないと聞く……まさか、私と奴にそこまでの差が……?)


「ま、待て!そいつは幻術にかかっていない!」


 ティーザはナイフを振り下ろす。次の瞬間――


「めんどくさー……足掻かないでよー」


《童子切》


 水蘭の足元の水たまりは刃のような形に姿を変え、ティーザの体を一刀両断した。


「あ……ぁぁ……」


 上下真っ二つになった体は地面に落ちた。


「ティーザ!くっ……」


(ダメだ……初めから勝ち目なんてなかったのか……)


「こ、降参だ!もう抵抗しない!」


 ランジは杖を投げ捨て、両手をあげ、膝をついた。


「最初からそうすればいいのにー……てかそもそも、悪いことなんてしなければいいのに……」


 刀を鞘に納め、眠そうに歩き出した。


「水蘭さん!」


 水蘭が振り返ると、5人が駆け寄ってくるのが見えた。リーサは水蘭の周辺に到底戦える状況じゃない若頭3人の姿を確認した。


(……戦意喪失、降参……あれは……体が真っ二つに……!?3人相手で無傷……あの人、まさかここまで強いとは……)


「おい、あんたがこの組織のボスだな」


 朧は木の影に隠れていた男の影から出てきて、捕まえる。


「く、くくく……」


「何がおかしい?」


「ここに援軍が向かってきている。そいつらは選りすぐりの部隊だ!そいつらにかかればお前たちなんて瞬殺だ!くははは!」


 ボスは大笑いをする。


「へぇー、ほんとに援軍来るんだー……でも、多分そいつら来ないよ」


 水蘭はまるで援軍が来ることを知っていたかのような口ぶりをし、足を止めた。


「あ、あぁ?何言ってやがる!今すぐにでも連絡してやる!」


 ボスは通信機を取り出し、話し始める。


「おい!貴様ら、まだ来ないのか!すぐに来い!このハエどもを皆殺しにしろ!」


 通信機からはなんの返事も帰ってこない。


「お、おい……おい!返事をしろ!ふざけてる暇はない!」


「――、――――」


 何かの音が聞こえる。


「お、おぉ!よく返事をした!今どこだ!今すぐに来るんだ!早く!」

 

「――援軍は来ない」


「な、何を言ってる!誰だ、貴様は!」


「私の名が聞きたいのか?変わっているな、お前」


 通信機の向こうにいる女性はくすりと笑った。


「だ、誰だその声は!?貴様、アクラスナインの者ではないのか!?」


「あぁ、私は飛警団だ。名はサシア・ロイド」


「飛警団だと……!?なぜ飛警団がその通信機を持っている!?」


「気づかないのか?お前の選りすぐりの部隊とやらは全滅したんだよ」


「なっ……!?ふざけるな!!!貴様のような女1人に俺の最強の部隊が全滅したなどと抜かすつもりか!?」


「なんだ、分かってるじゃないか」


 ボスは通信機を落とし、膝をついた。


「……じゃあ、俺の仕事は終わったから後はよろしくー……」


 と言って水蘭はさっさとどこかへ行ってしまった。


「これで全部終わりだな。伊賀、甲賀、ワッパかけに行くぞ。イラは護送の手配を頼む」


 朧と伊賀、甲賀はボスやその他の若頭たちに手錠をかけに行った。


(これで、終わったのか……)


 リーサはその場に腰を落とした。


「疲れたー……」


 そのまま倒れこんだ。


「隊長、お疲れ様でした」


「お疲れ様っス!」


「うん……お疲れ様ー」


 初めての大規模戦闘作戦は無事に終わりを告げた。だが、この経験は父の復讐に繋がるだろうか。作戦が終わったばかりだというのに、リーサは復讐のことばかり考えていた。


◇◆◇◆◇◆


 各小隊に作戦終了の連絡がされ、リーサ達もザーク山を下山していた。皆疲労しており、話しながら歩く余裕はなかった。5人で歩いていると、どこかから話し声が聞こえてきた。


「ちっ、大分遅れちまった!」


「クソ!しなきゃ命かけてこんなトコ来る意味ねぇのによ!」


「もうかもしれねぇ、急ぐぞ!」


(……?)


 そこには、洞窟の中へと走って行く3人組の男が見えた。


(おそらく飛警団の人だ……作戦も終わったのに何しに行くんだろ……?)


「ねぇ、あの人たち何しに行ってるの?」


「あぁ……か。そうだな……まぁ、後始末みたいなものだ、気にするようなことじゃない」


 リーサの目には、明らかに何かをはぐらかすように話す朧が映った。


(……嘘はついてないように見える。ただ、何かを隠しているようにも聞こえる……)


「……私も中に行きたい」


「ま、マジで言ってるんスか!?」


「お、おい。やめといた方がいいぜ、コラ」


「そ、そうだぜ。やめとくべきだぜ、コラ」


「……好きにしろ。後悔しても責任は取らんがな」


 朧はスタスタと行ってしまった。


「「た、隊長~待ってくれ~!」」


 伊賀と甲賀も朧を追いかけて行ってしまった。


「新君はどうする?」


「ぼ、僕は……」


 新はたじろいでいる様子だった。


「隊長。私もやめるべきだと思います」


「ルイカちゃん……」


「その場にいない私が言うのは違うかもしれませんが、あまり見ていて気分のいいものではありません」


(……中で何が起こってるんだ?)


 まさか……


「た、隊長!?」


 考えていても仕方がない……まさか、そんなことが起こっているはずが……


 無意識的に足は動いていた。新も追うように洞窟の中へと入っていった。


◇◆◇◆◇◆


「はぁはぁ……」


 大分奥まで戻ってきてしまった。だが、が起こっている場所には確実に近づいていた。


(……聞こえる……臭う……感じる……)

 


 思い出していく。あの時の光景を、臭いを、音を、絶望を



 死体はこれまでも見てきた。先ほども真っ二つになった死体を見たばかりだ。だが、それはとは違っていた。しかし、今目の前に広がる光景は、と同じように、無抵抗の人間が理由も分からずに殺されていた。


「ひ、ひぃ!許してくれぇ!」


「俺たちはもう投降した!」


「無意味な殺戮になんの意味がある!?」


 飛警団の隊員たちが、既に投降した無抵抗の構成員を蹂躙していたのだった。


「うるせぇぞ犯罪者どもが!」


「悪いことをしたらバチが当たるんだよ!こういう風にな!」


「お前らの殺しは犯罪だがな、俺たちの殺しは正当化されるんだよ!」


 気味の悪い笑い声と血しぶきが視覚と聴覚を狂わせるようであった。

 

「こ、これは……」


 リーサはその場にしゃがみ込んだ。

 


 これが、人を守るための組織の本当の姿なの?これじゃあまるで――



 ――ただの殺し屋集団だ――



「隊長、大丈夫っスか……?」


 追いついた新は心配そうに声をかけ、手を差し伸べる。


「うん……ありがとう。ごめんね、心配かけて」


 手を取り、立ち上がる。その場を去ろうとすると、後ろから声をかけられた。


「やあ、リーサじゃないか」


 そこには第六部隊隊長、ヤザトが小隊の2人を連れて立っていた。


「あ……ヤザトさん、お疲れ様です」


 リーサは頭を下げる。


「もう、敬語とか、そんなかしこまらなくてもいいのに。隊長同士、なんならあんたの方が立場は上じゃないか」


 ヤザトはキセルを吹かしながら言う。


「じゃ、じゃあ……ヤザト……?」


「うーん……どこかぎこちないっていうか……」


「隊長タメ口苦手っスもんね」


 新が笑いながら言う。


「も、もう新君!」


 リーサは顔を赤らめる。


(少しでも距離縮めるために無理してタメ口で話してるのバレてる……)


「まぁ、苦手なら無理にすることもないんじゃない」


 ヤザトは優しく微笑む。


「あんた、三菅新だっけか」


 ヤザトは新の方を向く。


「はいっス!」


 新は元気よく答える。


「……もう1人は?」


 その場に静寂が訪れる。


(そういえば……!カロ君はまだ合流してない……!)


「は、はぐれちゃって……」


「……《カロ・アックストルフ》だったかい」


「は、はい……」


「……かばってるのかい」


 キセルを吹かし、見透かしたかのようにヤザトは言った。

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