第12話 二対一

「僕の相手はキミたちですか、雑魚の相手は嫌になりますねぇ」


 眼鏡をかけた男が二人に言う。


「おい甲賀、こいつムカつくぜ、コラ」


「おい伊賀、ぶっ殺してやりたいぜ、コラ」


「やれやれ、言葉使いが下品だな。こんなチンピラの相手をしないといけないのか」


「あぁん?喧嘩売ってんのか?コラ」


「あぁん?やってやるぜ、コラ」


「まぁ、いいでしょう。何分楽しませてくれますかね。一応名乗って差し上げます。アクラスナイン若頭、《イレッド・オック・ウェイル 》、あなた方を始末する者です」


 ニヤリと笑って頭を下げる。


「飛警団第二部隊隊員、風魔伊賀だ、コラ」


「同じく飛警団第二部隊隊員、風魔甲賀だ、コラ」


 イレッドはクスリと笑う。

 

「一般隊員風情がよくこの僕に戦いを挑もうとしますね。実力をわきまえて死になさい!」


《水槍一突》


 イレッドの周囲から水の槍が飛ばされる。


《地返しの壁》


 伊賀は両手を地面につけ、土をひっくり返して壁を作って防ぐ。


《風手裏剣》


 甲賀は土の壁を飛び越え、手裏剣に強い風を纏わせてイレッドに投げつける。


 (早い……!)


 イレッドは何とか避ける。


「おせぇぞ、コラ!」


《地挟み》


 伊賀は両手を地面に突っ込む。その瞬間、イレッドを挟むように両側の土が盛り上がり、手のような形になってイレッドを押し潰さんと襲い掛かる!


「この……!」


《川流し》


 イレッドの背後から大量の水が出現し、イレッドを流して土の手から逃げる。


「甘いぞ、コラ!」


《吹風》


 甲賀は深く息を吸い、突風を吹き出してイレッドを宙へ飛ばした。


「ぐっ……!き、貴様らぁ!」


《アクア・バレット》


 宙に浮いたイレッドの周囲から水の弾丸が無数に放たれる!


「この量の弾丸を防げるはずがない!この僕を怒らせたことを後悔するがいい!」


 イレッドは勝ち誇ったように高笑いをする。


「うるせぇ野郎だぜ、コラ」


「口だけ野郎だぜ、コラ」


「まだ強がりを言うか、雑魚どもが!」


「合わせろよ、甲賀」


「そっちこそな、伊賀」

 

《月光城》


 2人が両手を地面につけると、2人の周囲に突風が吹き荒れ、地面が隆起し、まるで城のような形となり宙へ浮かび始める。


「なっ……なんだこれは……!」


「《月光城》だぜ、コラ」


「禁断の忍術だぜ、コラ」


《第壱ノ門【弩門】・開》


 城の巨大な門が開くとともに無数の弩がイレッドに岩の矢を放つ!


(こ、この僕がたかが隊員どもに……!)


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


◇◆◇◆◇◆


「ぐはぁ……!」


 切り傷だらけの剣を持った細身の男が膝をつく。


(つ、強い……!アノスと1人でやりあって圧勝したという報告は本当だったか……これが……)

 

「第二部隊隊長、月谷朧……!」


「悪いが、名を聞いてやることもできない。すでに戦闘が終わったやつらもいるだろう」


 朧は短刀を鞘に納めて歩き始めた。


「くっ……止めを刺さないのか……?」


「不必要な殺生は好みではない」


「そうかい……あんたそれでもニンジャか?」


「……」


 何も言わず、朧はその場を去った。

 


「「隊長!」」


 声がした方を見ると、伊賀と甲賀が走ってくるのが見えた。


「……伊賀、甲賀……お前たち《月光城》を使ったな」


「「す、すんません!」」


 2人は頭を下げる。


「あれは月谷一族に代々伝わる《》だ。風魔一族の者が使ってることがバレたら、さらに大事おおごとになると言ったはずだ」


「《》の者がこんな遠くまで来るとは考えにくいですが……」


「あいつらが《》を易々と逃がすはずがない。もしまた居場所がバレたら……」


「……また組織を抜けることになるってことですか」


「あぁ。そうなったらまた……」


 3人は目を伏せた。


(二度とあんなことは起こさせない……)


◇◆◇◆◇◆


「聞こえますか、隊長!新!」


(その声は……)


「ルイカちゃん!」


「すみません、もう外に出ていたんですね。相手は若頭のマンド・インガード、《危険度4》です。土属性魔法の扱いに長け、接近戦はもちろん、遠距離戦でも強力な土属性魔法で柔軟に対応してくる厄介な敵です。土魔法での守りは難攻不落です。うまく隙を突くしか……」


(土魔法の守り……)

 

「相手がなんだろうと攻めるだけっスよ!」


《雷爪》


 新の雷の爪が肥大化してマンドに攻撃する。


「ふん、効かんわぁ!」


《グランドウォール》


 地面を殴りつけ目の前に土の壁を作り出し、攻撃を防ぐ。


 (そうか……これなら……)


「くっそー!守り硬すぎっスよ!」


 防がれた新はバックステップして距離をとる


「新君!そのまま攻撃を続けて!私に考えがある!」


 リーサの声に反応し、新はリーサを見る。


「隊長……了解っス!」


《回雷尾》


 新は高く飛び上がり、体を回転させて尻尾で連続攻撃を仕掛ける!


「ふん、効かんと言ったはずだ!」


 マンドは地面を殴り続け、土の壁を強固にしていく。


(集中……魔力を一点に……)


 リーサは深呼吸をする。体内の魔力の流れを感じ取り、魔力を徐々に一点へ集める。


「新!無茶しないで!」


 ルイカの声が聞こえる。


「隊長が僕に攻撃を続けてって言ってるんス……死んでもやめてやらねぇ!」


 さらに体の回転の速度を上げていく。


「ふん、無駄なことを!……ん?なっ!馬鹿な!なぜ!?」


 マンドの作り出した土の壁が徐々に崩壊していく。


(こいつの攻撃で壊れてるのか!?いや、それならこんな不自然な壊れ方はしない……まさか!)


 マンドがリーサの方を見ると、リーサの足元には魔法陣が描かれていた。さらに、自身の足元にも魔法陣が描かれていることに気が付いた。


(そんな芸当ができるとでもいうのか……俺が作り出した土の操作を乗っ取ったのか!?)


《魔力制御》


 リーサは、マンドが操っていた土を乗っ取り、操ることに成功したのだ。土の壁はどんどん壊れていく。


(ば、化け物か……!こんな芸当は7属性のうち、《光属性》か《闇属性》にしかできない!2つの属性を実践レベルで操ることですら多くの人間はできない……ましてや《光》と《闇》を使える者はごく一部!なのに、《炎》と《光》だと……!?この女、何者だ……!?)


「よそ見してる場合じゃねぇっスよ……」


「なに……!」


 マンドが振り向いた時には、すでに壁は完全に崩壊しており、新の雷の尻尾に叩きつけられる!


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「うっ……目が回るっス……」


 着地した新はフラフラと倒れこむ。


「あ、新君!」


「新!大丈夫!?」


 リーサは新に駆け寄る。


「大丈夫っス……ずっと回ってたから目が回って……」


「そっか……ありがとう、新君。それにルイカちゃんも」


「私は何もしてませんよ。それより、他のみなさんの戦いは……」


 と言われ、リーサはハッとする。


「あ!そうだ、みんなは!?新君、立てる?肩貸すよ」


「あ、ありがとっス……」


 リーサが新に肩を貸し、歩き始めた時、前方にあの3人の姿が見えた。


「あ、3人とも!無事だったんだね!」


「当たり前だろ、コラ」


「俺たちはともかく朧隊長が負けるはずねぇだろ、コラ」


「そ、そうだよね」


「お前ら、水蘭さんのとこに行くぞ。あの人ならとっくに終わってるはずだ」


◇◆◇◆◇◆


「ふぁー……ねむ……」


 3人に囲まれて刀すら構えずに大きなあくびをしたのは水蘭。


「舐めやがって、貴様は俺が殺してやる。死ねぇ!」


 水蘭ほどの人間の体がすっぽり入るほどの大きなハンマーを持った大男は水蘭に目掛けてハンマーを振り下ろす。


(反応しない?できないだけか!)


 なんと、そのハンマーはそのまま振り下ろされてしまった。大きな音をたてて砂埃が舞う。


「……?なんだ、あっさりじゃねぇか!なにが飛警団最強だ!やる気のない雑魚じゃねぇか!はっはっはっはっは!」


 男は振り下ろされたハンマーから手を放し、大笑いをする。


「馬鹿!ぞ!」


 他の2人は大声をあげる。


「はっはっは!……あ?……あぁ?」


 上を見る。


(……なんだ?あのでけぇ金属の円柱は……まるで俺の自慢のハンマーの一部みてぇな……は、はぁ……?そんなわけが……)


 ふと自分のハンマーを見ると、ちょうど上から降ってきている円柱の金属の塊と同じ大きさの穴があいており、その中に何事もなかったかのように立っている水蘭と目が合った。


 (ば……化け物……!)


「な……なんだその目は……お、俺を哀れんでいるのか!?」


 大声をあげる。水蘭は喋ることすら面倒くさそうにただ一言――


「……?晩飯どうしようって思ってただけなんだけど」

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