第11話 若頭たち

「て、てめぇら!なんでここに!ぐわぁ!」


 幻術を解き、進んだ先にはこれまでの比にならないほどの数の敵がいた。


「こんな大人数、相手にできないよ!」


「全員相手する時間はねぇ、とっとと行くぞ!」


 朧は先陣を切って先へと進んでいく。他の4人もそれについていく。


「他の小隊も続々と入ってるようだぜ、コラ!」


「増援の数も減ってるようだぜ、コラ!」


「それでも敵多すぎっスよ!」


 5人は少しずつ先へと進んでいった。


◇◆◇◆◇◆


「はっ……はっ……!」


「こちらです!」


「後ろの奴らもやられたらしい!」


「クソ!だが、もう出口だ!それに、援軍も来ているはず。奴らはこれで一網打尽ですよ、ボス!」


「クソが……飛警団め!国家の犬にすらもなりきれないやつらめ!」


「見えました!出口です!」


「ようやくか……失ったものは多いがまだやり直せる。アクラスナインは不滅だ!」


「うちの資金力があれば、兵隊なんぞいくらでも増やせるからな」


「へっ、ここまで来ればやつらも……」


「ぼ、ボス!あそこに誰かいます!」


「だ、誰だ……!」


 そうして若頭の男が指さした先には木にもたれかかって眠っている、いかにもやる気のなさそうな男の姿があった。


◇◆◇◆◇◆


 続々と幻術を解いた小隊が侵入するため、敵の数はかなり分散したようだ。


「だいぶ敵の数も減ってきたね……」


「だが、ここまで来ると……イラ、ルイカ、聞こえるか?」


「ノ――がひど――こえ――す」


「――しま――ら、こんな――だ」


「……やはりか」


「ど、どうしちゃったの、二人とも!」


「この通信機は魔波という特殊な魔力を通して遠方との連絡を可能にしている。だが、その魔波にも通信距離の限界がある。それに、ただでさえこんな洞窟の中に魔波は届きづらい。もう情報支援に期待はできないだろうな」


「そんな、情報支援がないと進むのは危険じゃないの?」


「だな。まあ、旧型は洞窟や地下じゃ使えなかった。使えるようになっただけマシだったんだ」


「ここからはさらに気を引き締めないとっスね」


「だが、敵のボスの居場所くらいはわかるかもしれない。俺でも簡単な索敵くらいならできる」


「うお!あれですね隊長!」


「うお!あの能力が活躍するんですね隊長!」


「また何か能力が使えるの?」


「さっき戦闘で使ったのが《影潜術》。影に潜り、出でる術だ。そして今から使うのは《影感術》。周囲の影の動きを感じ取る術だ」


 といって朧は目を瞑った。


「走りながら目を瞑るのは危険じゃ……」


「野暮なこと言ってんじゃねぇぞ、コラ」


「いちいち口挟むんじゃねぇぞ、コラ」


「うっ……ごめんなさい」


「「あ、いや、別に傷つけるつもりじゃ……


「何回そのくだりやるんスか……」


 そうこうしているうちに、朧は目を開けた。


「見えた。出口の方向に向かう影が6、7ほどかたまってるな……ここから近い、行くぞ」


◇◆◇◆◇◆


「おい」


「は、はいぃ……!」


 胸ぐらを掴まれた男は怯えたような声をあげる。


「地獄への手土産として俺の名前を憶えて死ね――」


「い、命だけは……!」


「《カロ・アックストルフ》、てめぇらみてぇなやつは全員俺が殺してやる」


 カロは大剣で掴んだ男を突き刺した。


「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!」


 (やはりおかしいな……雑魚しかいねぇぞ……)


 男を死体の山に投げ捨て、奥へと歩いていった。


◇◆◇◆◇◆


「誰だ貴様は!ボス、お下がりください!賊やもしれませぬ!」


 大きなハンマーを持った大男は、ボスを後ろへと誘導し、戦闘態勢をとる。周りにいる者たちも、それぞれ戦闘態勢を取り始めた。


「貴様、飛警団の者か?」


 剣を抜いた細見の男が、眠っているやる気のなさそうな男へと問う。


「……!ま、待てお前ら!こいつまさか……!」


 杖をもつ男が周りの連中を止めた。


「なんだ、《ランジ》。この者を知ってるのか?」


 ハンマーの男が聞く。ランジと呼ばれた男は震えた声で言った。


「その長い刀、少し長めの藍色の髪にスーツ、猫背……間違いない……《水蘭》だ……」


 そう言った途端、周りの者たちは驚いた表情をした。


「水蘭だと……!?一部の者からは、あのオルゲド以上の戦闘力を持つとすら言われる、飛警団最大の戦力じゃないか……!?」


 ボスとともに逃げてきた、アクラスナインの若頭6人とボスがざわざわとし始めたその時、水蘭はゆっくりと目を開けた。


「ん……おはよう……」


 全員が武器を構える。


「あれ、本当に来たんだ……ふあー……めんどくさいなぁ……」


 首を抑えながら水蘭はあくびをする。

 

「貴様、水蘭で間違いないな?」


 ハンマーの男が問う。


「……だったら何?」


「ふふふ……南部最大の都市の最大の自警団、そこの最強の警察……討ち取れば、我が組織の脅威は裏社会に知れ渡り、さらに稼げるかも知れませぬぞ、ボス」


「待て、早まるな。みなでかかるぞ」


 剣の男が言うと、若頭6人は水蘭を囲むように陣形を組む。ボスは少し離れる。


「にー……しー……ろー……めんどくさ……」


 武器すら構えずに水蘭は敵の数を数える。


「かかれ!」


 若頭たちが一斉に水蘭に攻撃をしかける。その時――


《炎陣:爆炎砲》


 後方の洞窟の出口から、若頭たちに対して爆炎が放たれる。


「くっ……!何者だ!」


 全員が攻撃を避け、包囲は解かれる。洞窟の方を見ると、そこにはリーサ、新、朧、伊賀、甲賀の5人の姿があった。


「水蘭さん、無事ですか?」


 リーサは剣を構える。他の4人も戦闘態勢をとる。


「戦闘力のない組織のボスを除けば、6対6だぜ、コラ!」


「同数なら負けねぇぞ、コラ!」


「でも、あれ全員若頭っスよ!少なくとも全員、《危険度2》以上っス!」


「ちっ、あいつらの情報は?ランジ」


「ニンジャと呼ばれている装束……おそらく、あの黒装束のやつは第二部隊隊長の月谷朧だ」


「幹部じゃないとはいえ、第二の隊長か。なかなか骨が折れそうだぜ。他は?」


「見覚えがないな、雑兵だろ」


「はん!舐めすぎだろ!雑魚ばっかいても意味なんてねぇんだよ!」


「朧ってやつは俺がやるぜ。雑魚どもには一応2人つけ。問題は水蘭だ、3人つけ。いいな!」


 剣の男が言うと、各自戦う相手についた。


◇◆◇◆◇◆


「女は戦場に出るもんじゃないんだぜ?オイ」


 メリケンサックを持つ男が言った。


「戦場では男女なんて関係ないです」


 リーサは強く言いきり、剣を構える。


「みんな、私はこいつと一人でやる。もう一人は任せていい?」


「いや、待ってくださいっス!僕も隊長と戦わせてほしいっス!」


「新くん、でも……二人は」


「伊賀さんと甲賀さんは大丈夫っス。ね、お二人とも」


「おうよ!任せとけ、コラ」


「こんなやつちょちょいのちょいだぜ、コラ」


「じゃあ、任せたよ!」


 と言って二人は残りの幹部1人と戦い始めた。


「ふん、俺の相手は女とチビか……」


「舐めてんじゃねぇっスよ」


 新は拳を握る。リーサも剣を構える。


「ふん、名乗ってやる。若頭の《マンド・インガード》だ。」


 マンドはメリケンサックを握る。


「全力でいくっス……」


《獣人化:雷獣》


 新は体に雷を纏い、獣のように構える。


(なんて魔力……新君、こんな力が……!)


「ほう、獣人化か……なかなか迫力があるな」


「速攻でケリつけるっスよ、隊長!」

 

 新は4足歩行で一気に接近し、爪状になった雷でマンドを切り裂こうと襲い掛かる!


「ふん、早いな!だが、甘い!」


 マンドは新の攻撃に拳を合わせる。


《炎陣:剣聖》


 リーサが炎を帯びた剣で斬りかかる。


「ふん、こちらは遅い!」


《グランドウォール》


 地面を殴りつけ、リーサの目の前に土の壁を作り出し、攻撃を防ぐ。


「くっ……」


 防がれたリーサはすぐにバックステップして体勢を立て直す。


「隊長!挟むっスよ!」


 逆の方向から襲い掛かる新と同じタイミングでリーサも再び斬りかかる。


「ふん、無駄だ!」


《ラウンドウォール》


 周囲に土の壁を作り出し、2人の攻撃を防ぐ。


「ふん、こちらの反撃だ!」


《ドリルソイル》


 壁に防がれた2人に対して、壁からドリル状の土が飛び出す!


《炎陣:炎舞》


《雷尾突》


 リーサは周囲に炎の渦を出現させて防ぎ、新は雷の尻尾を自在に動かし、ドリルを突いて破壊する。


「ふん、まずまずといったところか」


《土竜の滝登り》


 マンドは腕を組み、2人を見たのち、両手のメリケンサックで地面を殴りつける。すると、2人の足元から大量の土が隆起し、ぶっ飛ばす!


「あぁ……!」


「くっ……!」


(つ、強い……!2人でもここまでとは……でも……)


 リーサはニヤリと笑った。


「2人なら負ける気がしない……!」

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