第10話 幻の裏

「状況は聞いている。一人とはぐれたらしいな」


 一応はぐれたということで報告してくれたらしい。


「ここから先は俺たちも同行しよう」


「ありがとう!心強いよ!」


 リーサと朧は握手を交わし、五人で先へと進んだ。


◇◆◇◆◇◆


「俺こそが朧隊長の右腕|風魔伊賀《ふうまいが》だ!」


「いーや俺こそが朧隊長の右腕|風魔甲賀《ふうまこうが》だ!」


「何ぃ!俺が右腕だと言っているだろうが!コラ」


「何ぃ!俺こそが右腕だと言っているだろうが!コラ」


 朧の小隊である伊賀と甲賀は喧嘩しているようだ。右肩に《伊》と書かれた肩当てをしているのが伊賀、左肩に《甲》と書かれた肩当てをしているのが甲賀である。どちらも朧と同じくニンジャの装束を着ている。


「ま、まあ落ち着いてよ」


「あーん?俺たちはぽっと出の女が朧隊長の上に来たこと、許してねぇんだぞ、コラ」


「そうだぜ。あんたのことは認めちゃいねぇぞ、コラ」


 と二人に睨まれる。

 

「う……ご、ごめんなさい……」


 俯いて謝ることしかできなかった。


「ちょ、ちょっと謝らないでくれ」


「怒ってるわけでも嫌ってるわけでもないんだ」


 二人は焦って謝りだした。


「ふふ、ありがとう。いい人たちだね」


 焦っている二人を見てぷっと笑みをこぼす。


「な、なんだと、コラ」


「そんなんじゃねぇぞ、コラ」

 

「やめろお前ら。すまんリーサ、こいつら噛みつき癖があってな」


「ううん。認められてないのはわかってるし、これから認めてもらうつもりだから」


 そう言う覚悟に満ちたリーサを見て朧は少し笑ったような気がした。


「そうか」


 伊賀と甲賀は新の方へ行き、また睨みつける。


「おうおう、新。久しぶりだな、コラ」


「お前が第二から上がった時以来だな。元気にしてやがったか、コラ」


「お久しぶりっス!伊賀さん、甲賀さん!めっちゃ元気っスよ!」


「おうおう。ルイカとも通信させろ、コラ」


「お前も元気だったか、コラ」


 (ぜ、全員にからんでる……)


「お久しぶりです。しかし、盗聴の恐れがあるので名前ではなく……」


「そんなことやってるのお前だけだぞ、コラ」


「他のやつは誰もやってないぞ、コラ」


「そ、そうなんですか!?」


 明らかに今までに聞いたことのない声で動揺する。


「技術開発部の最新魔機だぞ。盗聴なんてされないぞ、コラ」


「技術開発部も兼任してるお前が開発したんだからもうちょっと信用したらどうなんだ、コラ」


「あ、あぅ……恥ずかしい……」


(そ、そうなんだ……可愛い一面を見られたな……)


「で、カロの野郎はまーたはぐれたのか、コラ」


「あいつ昔からはぐれすぎだぞ、コラ」


 3人は第二部隊だったころから2人と面識があったようだ。


(昔から単独行動癖があったんだ……)


「お前ら。昔話もいいが、そろそろ敵が出てきてもおかしくない。警戒は怠るな」


「「へい隊長!合点承知!」」


◇◆◇◆◇◆


 五人で洞窟の中を進んでいく。何度か戦闘になったが、一向に役職持ちに出会うことはなかった。


「ここに入ってどれだけ時間が経ったんだ、コラ」


「そろそろこの景色も見飽きたぞ、コラ」


「いくらなんでも入り組みすぎじゃないっスか?」


 三人はくたびれたような顔をしている。


「……」


 朧は何かを考えているようだった。


「みなさん、聞こえますか」


 通信機からルイカの声がした。朧たちとも通信を共有しているため、ルイカの情報支援も、朧の小隊の情報支援も聞こえるようになっている。


「朧さんの小隊の情報支援である《イラ》さんと共に、様々な小隊に連絡をしてみたのですが、不審な点があるんです」


「不審な点?」


「あ、あ、聞こえるか?こちらイラ。聞いたところによると、どうやら若頭補佐以上の役職持ちは現在、2人しか確認されていないらしい」


(2人……?ということはまさか……)


「俺とリーサが出会った2人以外を確認した隊がないということか?」


 朧が聞く。


「そういうことになります。たまたまにしてはあまりにも出来すぎていると思いませんか?」


「いくら入り組んでいる洞窟内だからといって、作戦開始から既に4時間は経過している。つまり……なにかが起こっているに違いない、と俺とルイカは考えた」


「一体、この洞窟で何が……」


「……やはりか」


 朧は何か気づいたような表情を浮かべた。


「みんな、よく聞いてくれ」


 5人は近くに集まる。


「1つ、仮説が考えられる。それは……この山一帯に強力な幻術がかかっている、という説だ」


「強力な……幻術……?」


「あぁ。いくら大きな山中の洞窟だからといえど、全隊で若頭補佐以上に二人しか出会っていないということ。そして、今までの戦闘にも不信感がある。ほとんどの戦闘が周期的に、そしてあまり多くとは言えない人数だった。戦力の逐次投入だ。あまりにも愚策すぎる」


「でも、若頭補佐以上も出てはいるっスよね?」


「リーサが戦った若頭補佐は幻術がバレないための捨て駒として使われたんだろう。そして、さっきの若頭は、リーサが直前まで気配に気づかなかったほどの暗殺術の使い手。おそらく、幻術で本拠地までの道を見えないようにして、暗殺で戦力を削いでいくという策だったんだろう」


「それじゃあ……幻術を解けば進めるってこと?」


「その可能性もある、という話だ。とりあえず幻術を解く術を使ってみるべきだ」


「えっと、どうやって解くの……?」


「わ、わかんないっス……」


「俺もだ……コラ」


「俺もだ……コラ」


 四人は呆然とする。


「落ち着け。幻術を解くには専用の術が必要だ。悪いが俺は《賢族》が優性でな。そんな術は使えない」


「《賢族》?」


「一言に人間といっても人間には種類がある。魔力を魔法として使用する《魔族》、魔力を個人に備わった特有の能力として使うのが《賢族》だ。お前らは皆、魔族の血が強いはずだ」


「種類なんてあったんだ……」


「は、初耳っス……」


「なんでだよ!コラ!」


「朧隊長もカロも魔法じゃなくて能力使ってるだろ!コラ!」


「カロもそうなんですか?」


「あぁん?そうだよ!自分の隊員のことくらい知っとけ!コラ!」


「そんなことも知らないで認めてもらおうなんて思ってんじゃねぇ!コラ!」


「ご、ごめんなさい……」


 また俯いて言い返すことができなかった。


「お、おい!そんな、傷つけるつもりじゃなかったんだ!コラ!」


「そ、そうだぜ!言い方が悪かったぜ!コラ!」


 この二人を見てると、自然に笑みがこぼれてしまう。


「……ふふ、ありがとう」


「おい、お前ら。その辺にしとけ、今は幻術を解いてみないと話にならない」


「そ、そうっスよ!俺たち、誰も幻術を解く術使えないっスよ!」


(確かに……どうすれば……)


「方法はある……ルイカ」


「もう使用許可をとって準備も進めています。隊長、お渡ししていた《魔力支援ユニット》の準備をお願いします」


◇◆◇◆◇◆


「これは?」


 作戦前日。リーサはルイカに謎の機械を渡されていた。


「これは《魔力支援ユニット》という魔機の一種です。本作戦では、情報支援があるというのは今、説明しましたね。その際、遠く離れた情報支援からの魔力による支援を可能にするという優れた魔機なんです」


「そ、そんなことが可能なの!?」


「もちろんです。何せこれを作ったのは……ふふ……」


 ルイカは顔を赤らめ、笑みを浮かべる。


(は、初めて見る顔だ……)


 リーサにとって衝撃的だった。


「と、とにかく、これを使うことがあるかもしれません。使用方法の確認をお願いします」


◇◆◇◆◇◆


「準備できたけど……どうするの?」


 魔力支援ユニットを組み立て、設置した。


「私なら幻術を解く術を使えます。距離的にかなり時間と魔力がかかりますが、やってみせます」


 5人が魔力支援ユニットの周りに集まった。


「では、始めます――


 《”女教皇”――”死神”――”星”――》


 ――幻術解除」


 魔力支援ユニットが光りだす。その強い光に当たり一帯が包まれる。光が治まり、辺りを見ると、今までになかった大きな道があった。


「あれは……!」


「今まで見えてなかった道だな。あの先からが本番って訳か」


「すごい……ありがとう!ルイカちゃん!」


「お役に立てて何よりです。私とイラさんはこの情報をすぐに他の隊に共有してきます」


「……よし、先に進むぞ」


 5人は現れた道を進んでいった。

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