第5話 会議
(この人たちが……飛警団の幹部と隊長……!)
目の前にいる個性豊かなメンバーたちは、おそらく全員、飛警団の幹部、隊長であろう。そのなかには当然、ガレンガルやオルゲド、ディクトーに朧と、今までに会った人たちもいた。
てか、もしかして私、遅れてきちゃった……?
「え、えっと、遅れてすみません!」
頭を下げると、ガレンガルは笑いながら
「いや、遅れとらんよ。それに、まだ来てないやつもおる」
そう言われて少しホッとする。最初の会議から遅れたらどう思われるか……でも、次からはもっと早く来るようにしよう。
と思いながら、自分の席へと着く。朧の隣で少し安心する。
「よう、リーサ。隊員と会ったんだろ?どうだった?」
「それが……あまり良く思われてないみたい」
「だろうな。まあ、そんなのはこれから良くしてけばいい」
彼らしい慰め方だ。その言葉1つが今は染みるようだった。
「うん、ありがと。」
朧への感謝を感じていると、突然対角の位置に座っていた白衣の男が話しかけてきた。
「ちょ~~~っとキミ~~~!」
と奇声のような声を上げながら近づいてくる。
「ひぇ!は、はい!なんでしょうか!」
なんだこの人!?少し怖い……
「キミがリーサ・レインメア、ダネ?」
にっこりと笑っているその男性は顔をじっくりと舐めまわすように見てくる。
「あ、あの……なんでしょうか……?」
「あの戦いを見ていたヨ。素晴らしい戦いだったネ」
「あ、ありがとうございます……」
さらに顔を近づけてくる。
「キミは世にも珍しい《魔陣術》の使い手カネ?もしかして《結界師》カネ?それとも《賢者》カネ?」
「あの……言ってる意味が……」
「白を切るカネ。あの魔法陣は相当複雑な構造だったネ。どんな修行を積んだのダネ?誰か師はいるのカネ?」
詰め寄られて狼狽えていると、ディクトーが止めてくれた。
「おい、その辺にしとけよ。ヘロイック」
そう呼ばれた男性はディクトーの方をじっくりと見た後、自身の席へと戻っていった。
「やれやれ、別にとって食べようとしてるわけじゃナイのニ」
「他のやつは慣れてるが、初対面のやつに普段通りの接し方はやめろって何回も言ってんだろ」
「全く、相変わらずうるさいネ。ソレで、いつになったらキミの体を解剖させてくれるのダネ?キミは世にも珍しい《常時形態変化型》の《賢族》だったネ。その体に興味があるんダガ」
「黙れ」
「冷たいネ~……」
しょぼーんとした顔でヘロイックは席に座った。本当に彼も幹部か隊長なのだろうか?
「それにしても……いつになったら《アイツ》は来るんだ?」
とディクトーはガレンガルに聞く。
「そんなこと儂は知らぬ。相変わらずあやつは時間にルーズすぎる」
どうやら、あと一人が来ていないらしい。空いている席はまだ数席あるが……
「まあ、これ以上待っても仕方ない。現在遠征に行っている者とあと一名を除いて、これより会議を始める」
と、あと一人を待たずに会議は始まってしまった。
◇◆◇◆◇◆
各隊の報告等があり、会議は進んでいく。そして、最後の議題になった。
「これが今日最後の議題じゃが……これは大仕事になる。心して聞くことじゃ」
一体何なんだ……と身構えていると、ガチャリ、と扉の開く音がした。
「全く……遅すぎるぞ、
部屋に入ってきたのは、以前見かけた、大きな刀を持った猫背の男性だった。
「悪かったねー……猫が迷い込んでてさー……」
「3回連続その言い訳は流石に通じないぞ」
水蘭と呼ばれた男は席に座るなり、机に伏して寝てしまった。
「おい、起きろ阿保」
ディクトーに頭を叩かれ、なんとか彼は起きた。
なんだあの人……やる気ないって感じするなぁ。
「では、本題に戻るぞ。実はこれは、《軍》からの戦闘要請じゃ」
そう言われた途端、数名がざわつき始める。
「あの、軍と戦闘要請って?」
隣に座っている朧に小さい声で聞く。
「軍ってのは要するに国営警察のことだ。そこから、どっかの組織と戦闘するように要請されたってことだな」
「相手は《アクラスナイン》、アジトが割れてる組織じゃここらでは最大規模のギャングじゃ。」
名前だけは聞いたことがある。殺しや違法薬物の扱いなどをしている、本物の犯罪組織だ。
「初めての者もいるから説明しておくが、この作戦では、殺し合いになる。我々の目的はアジトの制圧と若頭補佐以上の身柄の確保になる。詳しいことは後日説明する」
「本作戦には第一部隊、第二部隊、第六部隊、第八部隊と幹部三名に行ってもらいたい。異論は?」
第一部隊と言われ、ドキッとする。まだ部隊をまとめ上げられていないことや、初めての部隊での実戦が大きな作戦であることなど、不安だらけだ。だが、リーサは不思議なくらいやる気に満ちていた。
「……では、よろしく頼むぞ。参加する幹部についても追って連絡する。では、これにて本日の会議は終了じゃ。解散して構わん」
こうして初めての会議は終わった。
◇◆◇◆◇◆
「チョイチョイ、リーサ・レインメア」
会議を終え、部屋から出ていこうとした時、ヘロイックに呼び止められた。
(う、この人か……)
「は、はい……なんでしょうか?」
先の一件ですっかり苦手意識が付いてしまったため、少し引き攣った顔で反応してしまった。
「ヤレヤレ、その顔はボクに苦手意識を持っている、ということダネ?」
バレている。
「そういう訳では……」
「嘘は言わんでヨイ。キミにコレを渡すのを忘れておったのダヨ」
そう言ってヘロイックは、通信機と2つのバッジ、手帳を渡してきた。
「この通信機はキミの魔力を通すことで起動するようになってイル。緊急の連絡や移送、救急の依頼はコレでするとヨイ」
通信機に魔力を通してみると、起動した。画面には飛警団のマーク、大きな翼を背景に刀と拳が交わっているマークが表示された。
「これが飛警団所属を示すバッジ。こっちは第一部隊隊長のバッジネ。仕事中は着けておきなサイ」
こちらにも飛警団のマークが描かれている。
「これが警察手帳。これは常に持っておくコト。休みの日でも現場に近ければ仕事して貰うからネ」
これにも飛警団のマークは描かれている。どんな意味なんだろうか……
「アァ、そういえば自己紹介がまだだったネ。ボクは《ヘロイック・グレイジークレイシー》。この組織の技術開発部の部長やってるヨ」
「えっと、技術開発部?」
「こういう通信機みたいな、活動に使う《魔機》と呼ばれる代物を開発したりしてるヨ。」
そうか、そういう人もいるのか。確かに技術開発棟ってところもあったような気がする。
「アト、ボクが個人的に魔力の研究をしたりネ。だからキミにはすご~く興味があるんダ。」
「さっき言ってた《魔陣術》でしたっけ……」
そう言った途端目を輝かせて顔を近づけてくる。
「ソウ!そのことについて聞きたいことが山程あるんダヨ~!」
ヘロイックは自身の紫色の髪をなびかせてはしゃぐ。
「私でよければ全然いいですよ」
正直変な人だし、あまり気は進まないけど、ここで協力することで縁を作るのは大事だよね。
「ホントカネ!じゃあ早速ボクの研究室へ行くヨ!」
と腕を掴まれ、飛ぶように研究室へと向かった。
◇◆◇◆◇◆
「ここがボクの研究室サ!さあさあ入ってクレ」
「お邪魔しまーす……」
なかは薬品の臭いがしており、お世辞にも綺麗とは言えない部屋だった。だが、中には見たことのない道具や部品がたくさんあった。
椅子に座った二人は早速本題に入った。
「サテ、魔陣術のような技について聞きたい訳だけド」
「あの、魔陣術ってなんですか?魔法陣を出す魔法なんて、一般的では……」
実際、魔法陣を出す魔法なんてこの世にありふれていると言っても過言ではない。
「一般的な魔法陣とキミの魔法陣は大きく違うのダヨ。」
と言うと?
「一般的な魔法陣というのは魔法陣を詠唱し、それを媒介として協力な魔法をタイムラグや消費魔力量を抑えて放つというモノダ。それに対しキミの魔法陣は詠唱毎に現れては消えていたのダヨ。これは《魔陣術》と呼ばれる珍しい魔術の一種ダ。」
「そうなんですか。全く意識したことがなかったです」
「魔法は独学カネ?師が居たのカネ?」
村にいた時のことを思いだす。私には、確かに師と呼べる存在が居た。
「では、その師というのは誰カネ?」
その人の名は……
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