第6話 師
あの事件から5年、十歳となったリーサ・レインメアは強くなるために今日も村のはずれにある森で魔法の練習をしていた。
「ふぅ……はぁぁ!」
周りには魔法を教えてくれるような大人はおらず、魔法の練習は、家にあった一冊の本を読んで一人でしていた。
だが、その本に書いてあることのほとんどは難しい字や専門的な用語で書かれて、リーサにはさっぱり分からなかった。
「はぁぁぁ!」
魔力が体中を駆け巡るのを感じる。しかし、魔法として放出することは叶わなかった。
「おや、リーサちゃん、今日の学校の授業は終わったのかい?」
と話しかけてきたのは、隣の家に住んでいるオムおじさんとレツおじさんだった。
「うん!今日も楽しかったよ!」
笑顔でそう答えた。リーサはこの二人を含めて、村の人々が大好きだった。
「今日も魔法の練習かのぉ。ワシは魔法はさっぱりじゃからのぉ。」
「わたしもですよ。リーサちゃんはすごいねぇ。はい、おにぎりあげるわ」
そう言っていつもみたいにおにぎりをくれた。リーサはこの二人から貰うおにぎりが大好きだった。
「わぁい!ありがとう!」
おにぎりを貰ったリーサは休憩しながら食べることにした。
◇◆◇◆◇◆
「美味しい~」
いつものようにおにぎりを食べ終え、魔法の練習を再開した。
「ふぅ……はぁぁ!」
炎が燃え盛るイメージをする。魔力を手に集め、炎として放出するイメージをする。
……
ダメだ。まるで魔法が出る気配がしない。
どうしよう……
と悩んでいると、森の奥の方から大きな熊がやってきた。
その熊は雄たけびをあげ、リーサへと襲い掛かった。
「う、うわあああああああああああああああああ!」
大声を出して逃げようとする。
「あっ……」
しかし、足を踏み外してしまい、崖の底へと落ちてゆく。
「ああああああああああああああああああああ!」
これで死ぬのかな?
復讐するって決めたのに
こんな終わり方……
………………
◇◆◇◆◇◆
……
…………
………………
………………はっ!?
ここは……
そこは見覚えのない場所だった。いつもの緑が生い茂った森ではなく、黄金色の葉に満ちた森だった。崖から落ちたにも関わらず、怪我の1つもなかった。
ここは……どこ……?
不安を感じる。幼い少女一人で知らない場所に来てしまったのだ。当然である。
母さん……父さん……
すると、目の前の木の裏に人の気配を感じた。
誰だろう……
恐る恐る近づいてみるも、そこには誰もいなかった。
怖い……
またもや人の気配を感じた。今度は後ろからだ。
だが、その気配はどこか懐かしいものだった。
この感じ……
もしかして……
父さん……?
そう思って振り返るも、またそこには誰もいなかった。
しばらくして、今度は本当に人の気配を感じた。それが父さんかどうかはわからなかった。
奥に誰かいる。
そう確信して黄金色の森を進んでいった。
◇◆◇◆◇◆
一歩一歩その気配に近づいていく。
もう、すぐそこにいる……
ゴクリ
そーっと覗き込む。
そこには、和服を着た中年のおじさんが座って酒を飲んでいた。そのすぐそばには、刃が白く輝いている大きな刀が置いてあった。
「おや……?こんなところに客人とは珍しい。」
その男はリーサに気づいたようで、酒を飲むのをやめ、リーサの方を見た。
普段のリーサなら、走って逃げているだろうが、なぜかリーサはその男性に恐怖を感じなかった。むしろ、安心感を感じているようであった。
「こんなおじさんになにか用かね?嬢ちゃん」
と言うと、体をリーサの方へ向け、笑顔で話しかけた。
「え、えっと……ここはどこ?あなたは誰?」
「ふむ……何も知らずにここに来たという訳か……」
と言うとそのおじさんはリーサの眼をじっくりと視る。
「なるほど……綺麗な眼だ。だが、奥底に眠る憎悪と怒り、そして決意。興味深い《讐ノ眼》をしているね」
そう言って酒をぐびっと飲む。
「そうか……魔法を使えるようになりたいのか」
「えっ、どうしてわかるの?」
「眼というのは、その者の全てを映し出すんだよ。眼を視れば、その人のことはだいたいわかる」
「すごい……おじさん、魔法教えてよ!あと、剣の使い方も!」
と言うと、おじさんは困った表情をする。
「う~ん、それは難しいなぁ」
「えー、どうして?」
おじさんはまた困った表情をして
「訳は話すと長くなる。だが……」
と言うとまたおじさんは眼をじっくりと視始めた。
「……ふふ、そうか……」
また酒をぐびっと飲む。
「……?なに?また私のことわかったの?」
「いや、そうじゃない。だが……」
そう言っておじさんは立ち上がった。
「ついてきなさい。少しだけ教えてあげよう」
そう言われたリーサは目を輝かせて
「ほんと!?」
とおじさんについていった。
◇◆◇◆◇◆
「あまり時間がない。剣は教えてあげられないし、魔法も少しだけしか教えてやれない」
「うん!わかったよ」
「では、魔法の撃ち方だが……一番嬢ちゃんに合ってるのは、これだろうな」
そう言うとおじさんの地面には大きな魔法陣が描かれた。
「す、すごい!ねぇ、どうやるの?どうやるの?」
「落ち着け。まずは目を閉じて。ゆっくりと全身に流れる魔力の流れを一定にしなさい」
一定に……一定に……
「そして、大きな円を思い浮かべてごらん」
大きな……円……
「その円に魔力の入った瓶で魔力を注ぐイメージをしなさい」
魔力の入った瓶……
「その円が、炎で燃えているのを想像して」
燃えている……
「……目を開けて」
目を開ける……
すると、足元に魔法陣が描かれており、辺り一面は炎で燃えていた。
「えっ……!これ、私が?」
「そう。嬢ちゃんが《魔法》を使ったんだよ」
魔法……
それはずっと求めていたものだった。魔法を使うことがこんなに簡単にできるようになるなんて信じられなかった。
「この感覚をしっかり覚えておくことだ。もっと練習すれば様々な魔法を使えるようになるはずだ」
そうおじさんが言うと、急に辺りに突風が吹き始めた。
「おや……もう時間か。」
「時間…………そんな、まだ教えてほしいことはたくさんあるのに!おじさんのことももっと知りたいよ!名前も知らない!教えてよ!」
「嬢ちゃん……いや、リーサ・レインメア
君はこれからの人生で多くの人と出会い
多くの喜びを分かち合い
多くの挫折や困難に悩むだろう
だが、君にはいつも仲間がいる
仲間を信じろ
自分を信じろ
自分の願いを叶えるために
そして、君ならば……
きっと……
……
…………
◇◆◇◆◇◆
……
…………
…………はっ!
ここは……
落ちた崖の底だった。ここでも、怪我の1つもなかった。
あの黄金色の森は一体……
そうだ、あそこで魔法を教えてもらったんだった!
確か……
……
教えてもらった通りに魔法を使ってみる。
目を開けると辺りには炎の柱が立っていた。
「できるようになってる……!」
◇◆◇◆◇◆
「……ということがあったんです」
ヘロイックは飽きもせずにリーサの話を聞いていた。
「黄金色の森に和服のおじさん……ネェ」
「信じてもらえるとは思ってません。でも、これは本当にあったことです」
「ふーむ……そして、結局名前も聞けなかった、ということダネ?」
「そうですね……誰だったんだろう」
「もしかしたらその男は《神》か《悪魔》だったかもしれないネ」
神?悪魔?本気で言ってるのかこの人は。
「あの、神や悪魔って……そんなのいるかもわからないのに
「いや、神も悪魔もいるヨ」
そうきっぱりと言い切られてしまった。研究者であるこの人なら冗談でも言いそうにもないことなのに。しかし、真剣な表情をしている彼を見ると、本気で言っていることが感じられた。
「いやはや、面白い話だったヨ」
真剣な表情をしていたかと思えば、すぐにヘロイックはにやりと笑った。
「ボクとしてもその黄金色の森というのは気になることダ。個人的に調べてみることにするヨ」
「そうですか……ありがとうございます」
「礼なんていらないヨ。これはボクの研究の一環だからネ」
そういってヘロイックは立ち上がり、ノートに何かを書き始めた。
「いい話が聞けたヨ。ありがとウ。キミさえ良ければまたここに遊びに来てヨ」
「はい。こちらこそありがとうございました」
そう言ってリーサは研究室を後にした。
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