第4話 第一部隊

 部屋に差し込む朝日に起こされる。時計の針は朝6時を指していた。飛警団に入ることが出来たリーサは、借りることになった寮の一室で朝を迎えた。


 今日から飛警団としての活動が始まるのだが……


 …………チラッ……


 机に山積みで置かれている書類を目にした途端、ベッドの奥深くに潜り込む。


(流石に多いよ~……この量を一日でやらないといけないの?)


 イレギュラーな方法で入ったことの弊害で、やるべき書類がとんでもない量になっているのだ。


 はぁ〜……とため息を吐き、長い金髪を結びながらもなんとか手を付け始める。


 コンコンコンコン


「は、はい!どうぞ!」


 急なドアの音に驚くも、来訪者を迎え入れる。


「失礼します」


 そこにいたのは、青髪メガネ白衣と、いかにも優等生といった可憐な女の子だった。


「始めまして。第一部隊隊員の〈ルイカ・リバー〉と申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 第一部隊隊員……つまり、私の部隊の隊員だ。初対面だし、これから長い付き合いになるだろうから、明るく元気に挨拶しないとね!


「始めまして!第一部隊隊長になった、リーサ・レインメアです!よろしくね!ルイカちゃん!」


「本日の本部隊の健康調査の結果です」


 そう言ってルイカは、部隊員の名前と◯がズラっと書かれている紙を渡した。


 そうだ、確か朝夜2回の健康調査があったんだっけ。


「では、失礼します」


 と言ってささっと出ていってしまった。


(早く信用してもらえるように頑張らないと……)


 紙に書かれた隊員の名前を眺めながら、点呼の時間まで仕事から逃げることにした。


◇◆◇◆◇◆


 点呼を終え、健康調査書をガレンガルに渡し、第一部隊会議室での第一部隊の朝礼が始まった。


「えーと、初めまして!私が第一部隊の隊長になったリーサ・レインメアです。これからよろしくお願いします」


 多少の欠員もいるが、目の前には第一部隊の隊員、104名が座っていた。最前列にはルイカもいるのが見えた。

 

 「まだここのことは全然わかってないから色々と協力してくれると嬉しいな!」


 ……

 

 まだあまり歓迎はされていないようだ……と思っていると


「おい」


 急に奥の方に座っている隊員が声を上げた。


 「お前誰だ?あのボンボンの野郎はどこいったんだよ?」


 そう言ったのは、机に足を乗せながら話を聞いていた、全身黒い服で黒髪の目つきの悪い青年だった。彼もこの部隊の隊員なのは間違いないであろう。


「昨日話したじゃないですか、カロさん。隊長が変わったんですよ」


 と、カロと呼ばれた青年の周りに座っていた取り巻きのような男が話した。


「あー……そうだったか?だが、知らん顔だな。順当にいけばここの隊長は第二部隊の朧じゃねえのか?」


「それが、こういうことがありまして…………自分もよくわかってないのですが……」


 と取り巻きの男は説明しだした。


「えっと……そろそろ話してもいいかな?」


 リーサが再び話し出そうとすると、カロと呼ばれた青年はそれを遮って


「おい、俺は認められねえな。ポっと出の女の下につくのは御免だ」


 そう言って席を立ちあがり、部屋から出ていこうとするカロ。それを引き留めようとすると

 

 「ちょっと待ちなさいよ。あんた、いつまでそうしてるつもりなの?」


 とルイカが立ち上がり言い放った。


「……なんだ、ルイカ。お前には関係ないだろ」


「同じ隊の隊員として、関係ありよ。そうやって無駄な反発ばかりしてなにがしたいの?それとも、まだ〈あの事〉を……」


 とルイカが言いかけると


「うるせえ!その話をするな!」


 そう怒鳴られた途端、ルイカは体をビクッとさせ、目線を逸らした。少し涙目になり、手が震えているルイカに、睨むカロ。今すぐにでも仲裁しないと、とリーサが入ろうとすると


「すみません~!トイレ行ってたら遅れちゃったんスよ~!……ってあれ?」


 と、勢いよくドアを開けたのは、以前街で会い、本部まで連れてきてくれたオレンジっぽい髪色の青年であった。


「カロ君どうしたんスか?それにルイカさんも。……って、え!?この前会った子じゃないっスか!?」


「チッ、相変わらず騒がしいな。あらた


「それホメてんスか?で、今どういう状況っスか?」


◇◆◇◆◇◆


「なるほど、そういうことっスか」


 ルイカが説明し、新と呼ばれた青年は納得した素振りを見せると、リーサの方を見て


「リーサさんと仕事できて嬉しいっスよ!よろしくっス!」


「うん、よろしくね。新君」


 誰も知り合いがいない中で、この人がいてくれるのは心強かった。


 「もういいだろ。俺はもう帰るぜ。」


 とカロは部屋を出て行ってしまった。それに乗じて取り巻きの連中や、多くの隊員が帰ってしまった。


「あっ、ちょっとみんな!待ってよ!」


 その声は届かず、結局その場に残っていたのは、ルイカと新だけであった。


 (私じゃダメ……なのかな。やっぱり……)


 と机に伏していると、ルイカと新が話しかけに来てくれた。


「隊長、すみませんでした。私がしっかり止めていれば……」


「ううん、ルイカちゃんのせいじゃないよ。むしろ、助けてもらったのに引き留められなかった私の力不足。」


 こういうことで苦労するなんて思っていなかった。人を率いるということは難しいな……


「ドンマイっスよ!最初はこうでも、少しづつ信じてもらえるようになるっス!」


「……ふふ。ありがと、二人とも。こんなに助けてもらってばかりの隊長でごめんね。」


「大丈夫っスよ!困ったときはお互い様ってやつっス!」


 二人の言葉に助けられているのを感じる。これからもこの二人に助けられるんだろうな……という予感がする。まだ次の予定まで時間があったため、この二人とだけでも、簡単に自己紹介しあうことにした。


◇◆◇◆◇◆


「改めて、この隊の隊長にになった、リーサ・レインメアです。年は18で、出身はトラオリっていう小さい田舎町。幼い頃から警察になることが夢だったんだ。よろしくね!」


「ルイカ・リバーです。同じく18歳です。コーマ出身で、新やカロとは同じ学校出身なんです。」


三菅新みすがあらたっス!年は18歳で、好きな食べ物はハンバーガーと、ラーメンと、ピザと、カレーと、えっとそれから……」


「多すぎ。もっと喋ること絞りなさい。」


「えー、二人が少なすぎるだけっスよ。」


「ふふ、仲いいんだね。」


「そう捉えます?まあ、仲はいい方ですけど」


 笑いあいながらの談笑に、二人との仲が深まるのを感じる。


「そういえばルイカにも聞いたことなかったっスけど、二人はなんで警察になったんスか?」


 談笑の空間に静寂が訪れる。リーサだけでなく、ルイカも言いたくなさそうな表情を浮かべている。


 「……あれ、もしかして聞いちゃダメだったっスかね?」



 父さん……


 忘れることのないあの日のことを思いだす。鮮血の匂い、五月蠅い雨と雷の音、暗い家の中、不快な頭痛。そして、父の顔


 あんな思いはもう、二度と……


 したくない……


 誰にもさせない……


 そして、父さんを殺したやつに……


 復讐を……


「あのー、えっと、ごめんなさいっス!」


 頭を下げながら謝罪をする新の声に、はっと現実に引き戻された。


「あ、いや、謝らないで!ちょっと考えごとをしてただけだよ!ごめんね!」


 慌ててこちらも頭を下げる。しかし、ルイカはまだ引きずっている様子だった。


「あー、も、もうこんな時間!話してると時が経つのは早いね!じゃあ、二人とも頑張って!じゃあね!」


 と半ば強引にその場を解散させ、駆け足で部屋を出た。

 

◇◆◇◆◇◆


「申し訳ないことしちゃったな……いつもあのことを思いだすとこうなっちゃうな、直さないと」


 自室に着き、先ほどのことを悔いた。だが、過ぎたことはどうしようもないし、次の予定まで時間があるので、書類を進めることにした。


 ……


 ……


 ダメだ、集中できない。


 (後でちゃんと謝らないとな……)


 そういえば、ルイカも話したくなさそうな表情を浮かべていたことを思いだした。彼女も過去になにかあったのだろうか?

 

 などと思っているうちに次の予定の時間が迫っていた。


◇◆◇◆◇◆


 「ここが第一会議室か……」


 会議の時間になり、事前に知らされていた会議室の前へ足を運んだ。扉は締め切られており、扉の前にはガタイのいい男性が二人立っていた。


「あの、ここで会議があるって聞いたんですけど」


 と話しかけると、ギロッと睨まれ足先から頭までじっくりと観察されたのち、


「第一部隊隊長殿、どうぞお入りください。」


 と言われ、二人は扉を開けた。中には、見るからに多くの個性豊かな人々が椅子に腰掛けていた。


 (この人たちが……飛警団の幹部と隊長……!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る