第3話 第一部隊隊長
下剤入りのお茶を飲んだリーサは既に戦いの始まりを告げるゴングの音すら耳に入らなくなっていた。
「どうした?動かないなら先に攻撃させてもらうぞ!」
そう言いながらフィークは剣を構えてこちらへ近づいてくる。
(来る……早く……構えないと……)
剣を握る手は震えていた。足を広げ、体をフィークの方へ向けて剣を構える。
(この体制を保つので精一杯だ……)
そう思っているとついにフィークが剣を振り下ろす!
なんとか反応し防ぐも、体制を崩してしまう。
「どうした!?案外体幹が弱いようだな!」
そう言いながらフィークは剣に魔力を纏わせ、斬りかかる
(誰のせいで……!くっ……)
なんとか体を動かし避けたり防いだりするも、反撃は出来ない。
「くははははははは!!!防戦一方では勝てないぞ!!!」
笑いながら攻撃を続けるフィーク。
(くっ……でも、少しずつ動けるようになってきた……!)
リーサは振り下ろされた剣を防ぐとフィークの腹部に蹴りを入れる。
「うぐっ……!!」
フィークは数歩後退りするも、特に効いてる様子はない。
「その程度で推薦されるとはなぁ!!」
そう言うとフィークは左手に雷のエネルギーを溜め始める。
「ふん……もう終わらせてやる。最後に見せてやろう……これぞ我が雷の力よ!!!」
《怒雷》
フィークは溜めた雷のエネルギーを解き放つ。
そのエネルギーはとんでもないスピードでリーサに近づき、肥大化する!
「うっ……うわああああああああああ!!!」
避けることも防ぐこともできず、直撃してしまう。
リーサは力なく膝をついた……
「ふはははははははははは!!!所詮はこの程度よ!!!どんなコネで推薦を貰ったかは知らんが、真っ当な実力を持って出直すことだな!!!」
「なんだよー」
「オルゲドの推薦だって言うから期待したのによー」
「ロクに動けてすらねーじゃねーかよ」
「終わりだ終わりだ」
「つまんねー」
周りもついに愚痴をこぼし始めた。
「どうした……本当にもう終わりなのか?全く……くだらんお遊びだったな……」
そう言いフィークが剣にしまおうとした途端、リーサはなんとか立ち上がった
「なに……?まだ立てるか。まぁいい。これで本当に終わりだ」
フィークが無慈悲にも剣を振り下ろす。
カーン!
リーサは剣を切り上げ、フィークを剣ごと弾き返した
「な……!」
……
はぁ……はぁ……
苦しい……
でも……
それは……
「あなたに負ける理由にならない!」
リーサは力強く一歩踏み出し、フィークに剣を振りかざす。
「貴様……まだそんな力がぁ!!!」
フィークも必死に剣を防ぐが、大きく体制を崩す。
「はあああああああああ!!!」
《
突如魔法陣が出現し、リーサの剣が炎を帯び始める。
その炎は大きくなって剣と共にフィークへ襲いかかる。
「くぅぅぅ!!」
剣でなんとか防ぎながら雷を溜め始めるが……
既にフィークの腹部にはリーサの両手が押し付けられていた。
(なに……!?こいつ……戦いの最中に剣を手放した……!?丸腰になるんだぞ……!?そんな賭けを!?!?)
「私の……勝ちだ!!」
《
またもや魔法陣が出現し、両手から爆炎を放ち、フィークを吹き飛ばす!!!
「ぐわあああああああああああああああ!!!!」
◇◆◇◆◇◆
……
…………
………………
……はっ!?
目が覚めるとそこは見覚えのない部屋だった。
辺り一面白色で簡素なベッドが並んでいた。おそらく医務室だろう。会場に行く前に医務室があるのを見ていた。
「あっ!リーサさん起きたのね!オルゲドさーん!ガレンガルさーん!リーサ起きましたー!」
おそらく医務官だろうと思われる女性がクネクネ動きながら二人の名前を呼んだ。
「おー!起きたか!良かったわ〜」
そう言いながらオルゲド部屋へ駆け込んできた。少し遅れてガレンガルも入ってくる。
「え、えっと……私はどうなってたんですか……?」
「炎出してあいつふっ飛ばした後にキミ、気絶してしもたんや。」
◇◆◇◆◇◆
爆炎に巻き込まれ、吹き飛ばされたフィーク。そしてその直後にリーサは気絶して倒れてしまった。急いでガレンガルとオルゲドは近づいて二人を確認した。
「二人共気絶しとるのぉ。」
「ふむ……とりあえず医務室に運ぶぞ」
二人共倒れてしまったが、会場は大盛り上がりを見せた。
「なんだ最後の!?」
「あいつそれまで全然だったのに急に覚醒したみたいに動き始めたぞ!」
「すげぇ勝負だったな!」
◇◆◇◆◇◆
「ほんで、数時間は寝とったのぉ。てかむしろこんな早く起きるとは思っとらんかったで。」
「そ、そうですか……あ、結果は!?結果はどうなんですか!?」
「結果なんじゃがの、正直どっちが早く気絶したかはわからんのじゃ。」
じゃあ、勝敗はわからない……?
「じゃが、どうも会場の雰囲気はお前さんの勝ちじゃった。それに最後の一撃は儂も惹かれた。」
「下剤盛ったこともバレとるしな。」
つまり……
「おめでとさん、今日からキミは飛警団第一部隊隊長や。」
オルゲドはそう言ってニッコリと笑う。ずっと笑ってるなこの人。
「あのアホとあいつの金で動いてた部下も全員第十部隊に降格じゃ。」
そ、そうなんだ……なんか悪い事しちゃったなぁ
でも、何はともあれ……
これで私は飛警団の一員だ!!!
「じゃが、まだお前さんは動けんじゃろ。とりあえず動けるようになったらもっと詳しく話そう。」
ほなねーといった感じで二人は出て行ってしまった。
◇◆◇◆◇◆
また数時間経った。
もうすっかり歩けるようになった私は職務室に来い、と言われて職務室を探していた。
(確かこの辺にあったような気が……でもこっちだったような……?)
あぁぁ……迷子だ……
小さい頃もよく迷子になってたなぁ……
あの頃はお母さんに名前叫ばれて恥ずかしかったなぁ……
などと思いながらフラフラと歩いていると曲がり角で人とのぶつかりそうになった。
「うわっと……ご、ごめんなさい!」
そう言って前を見ると、男性にしては少し長めの藍色の髪をしたスーツ姿の男性が立っていた。腰には1mを超えるであろう長い刀を携えていた。
「あー……こっちこそごめんねー……」
なんて気怠げな声で言って猫背のまま歩いて行ってしまった。
(あの人もここの人なんだろうな……どんな人だろう……あ!あの人に職務室の場所聞けば良かった……)
そう思いながらまた職務室を探してフラフラと歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆
(やっと着いた……!)
なんとか職務室と書かれた札を見つけることができた。しかしまさか、医務室の真正面にあったなんて。普通もっと遠くにあると思うよね。うん。
「失礼しまーす!」
最初はやっぱり元気が大事!そう思って元気に扉を開けると、そこには眉間にシワを寄せた短髪の男性がただ一人、新聞を読みながら座っていた。
……
目が合う
……
……
沈黙の時間が続く。
「へ、部屋を間違えましたー!」
「待て、合ってる」
へ、へへ……
見た感じ……怖い人だ……
◇◆◇◆◇◆
……
……
沈黙の時間part2
(な、なんであの二人はいないんだ〜(泣)どっちかはいると思ってた……いなくても優しくしてくれる人がいると思ってた……!なのに……)
チラッ……
ギロッ!
(って見られそう〜!!!てかあの人……ヤ◯ザ……?目つきが完全にそうだよ〜!なんでここにヤク◯が……いや、普通◯クザはこんなところには……)
「……い、おい。聞いてんのか?」
「は、はひぃ!!!な、なんでしょうか!!!」
ヤ◯ザに話しかけられた〜;;ど、どうしよう……
「あのなぁ……」
お、怒らせてしまった……?
「お前、俺のことヤクザかなんかだと勘違いしてねぇか?」
「違うんですか!?」
「ちげぇよ……てかそうならこんなとこいねぇだろ」
「それは私も思ってました!!!」
「はぁ……あのなぁ」
「は、はい……」
「少しは落ち着け……」
◇◆◇◆◇◆
「〈ディクトー・ハッドマン〉ここの幹部の一人だ、よろしく。」
「リーサ・レインメアです……よろしくお願いします……!」
どうやらこの人は悪い人ではないみたい。ちゃんと警察の方らしい。大変失礼しました。
「んでお前、医務室出て何してた?」
ギクッ……
真正面にあるこの部屋に気づかず迷子になってました。なんて言えない……
「えと、まっすぐこのへやまできまし
「真正面にあるこの部屋に気づかず迷子になってました。だろ?」
「真正面にあるこの部屋に気づかず迷子になってました。」
「どういうことだよ…」
ディクトーは、はぁと溜め息を吐いた。
は、はは……まさかここまで方向音痴だとは。自分でも怖いレベルだよ……
「まぁ、そんなこと今はどうでもいい。」
そう言うとディクトーは立ちあがり、話し始めた。
「まずは第一部隊隊長就任おめでとう……そして隊長なのにここのことをなんも知らんはマズい。さっきの見てると特にそう感じた。」
あはは……ごもっともです……
「だから少しここのことを教えてやろう。そのために呼んだ。」
◇◆◇◆◇◆
「とりあえず、ここの仕組みについては簡単には説明されたようだから、もっと詳しいことを教える。」
「まず、お前は第一部隊隊長になったわけだが……隊長ってのは第一部隊隊長から第三部隊隊長までが上位隊長と呼ばれる。上位隊長3人は共に行動することが多い。覚えておくといい。」
「上位隊長は幹部になることが視野に入るレベルだ。だから上を目指す者は死にものぐるいでその立場を奪おうとする。もちろん警察として成果を出してな。」
「だから、お前は今日、晴れて第一部隊隊長になったが、そのままズルズルと下がって隊員レベルまで落ちる可能性もあるわけだ。」
な、なるほど……
「あの戦いを見ていたが……どうやら下剤を盛られてたらしいな。とはいえあのレベルはハッキリ言って隊長の中でも最底辺レベルだ。」
「さ、最底辺……」
「オルゲドがお前の戦闘センスを認めた。それだけでお前の地位は守られてるってことをよく覚えておけ。」
「は、はい……すみませんでした……」
なんで謝ってるんだろう私……
◇◆◇◆◇◆
「隊長の仕事はなんだ?」
「隊員をまとめることです!」
「他は?」
「え、えと……」
バンッ!と山積みされた資料を目の前に置かれた。
「こういうのも〈仕事〉だぞ……お前出来るのか?」
「あはは……頑張ります……」
「本当かよ……」
じ、自信ないなぁ……
◇◆◇◆◇◆
「まぁ、あらかた説明は終わったが……理解してるか?」
「は、はい……多分……なんとか……」
「……やってるうちに慣れる」
「はい……」
頭に入ってません……なんて言えないよ……
「じゃあ次はこの施設についての説明だ。多分しても意味ないと思うが……」
バレてる……
「ははは……すみません……」
「これも少しずつ覚えればいい。んで、こっからの説明は俺じゃないやつにしてもらう」
!?
うっかり目をキラキラさせてしまった。バレてないだろうか……?
「……まぁ、そいつとは特に長い付き合いになるかもしれないし、今のうちに関係作っとけ。」
どんな人なんだろう……
「おい、来い。」
そう言うとディクトーの影から人が出てきた。
「えぇ!?ど、どういうこと……?」
「これはこいつの能力だ。じゃあ、あとは説明頼むぞ、朧。」
そう呼ばれた二刀の刀を腰に携えた、確かニンジャと呼ばれていたどこかの部族のような格好をした男は話し始めた。
「〈
そう言われ、握手を交わした。
悪い人ではなさそうだし、少なくともコミュニケーションは取れそう……良かった……
「よろしくお願いします、朧さん。」
「敬語もさんもいらん。おそらく長い付き合いになるからな。」
長い付き合い……?
「うん、よろしくね。朧。」
◇◆◇◆◇◆
数日後どれだけ覚えているかは定かではないが、朧の案内を受けて、一応なんとかこの施設について理解することができた。
「……これでこの施設の説明は終わりだ。」
「うん、多分わかったよ!ありがとね。」
「別に、言われたからやっただけだ。それに長い付き合いになるやつがどんなやつか見ておきたかったからな。」
「あの、さっきから言ってる長い付き合いってのは…?」
そう言われると彼は案内で下がってきたスカーフの位置を戻しながら
「……あぁ……俺は〈第二部隊隊長〉だからな。」
……!
この人が……第二部隊隊長……
そうか。確か第一、第二、第三部隊の隊長は上位隊長と呼ばれてて、行動を共にすることが多いんだっけ……
それに、第二部隊隊長ってことは……
……第一部隊隊長の席を狙える位置ってことだ。
「まぁ、あんたのことは正直まだ分かってない。どれくらい強いかもあの戦いだけじゃ測れなかった……」
一歩ずつ近づいてくる
「でも、俺達は〈仲間〉であり、〈好敵手〉ってことは確かだ。」
……!
そうだ。私達は共に戦う仲間であり、共に競い合うライバルでもあるんだ。
「正直、今はまだポッと俺の上に来たあんたを認めてる訳じゃない。でも……」
「手加減はしねぇぞ」
……!
「……うん!こっちこそ、負けないから」
そう言って再び握手を交わした。
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