第2話 入団試験

(はぁ……もう私は終わりなんだ……)


 一人寂しく取り残されたリーサ。どうしようもなく待っていると、そこに先ほど話していたお爺さんともう一人、誰かが近づいてきた。


「お前さんが番号0463、〈リーサ・レインメア〉かね?」


 先ほどのお爺さん……〈ガレンガル・ジンジュラ〉が私に話しかけてきた。


「は、はい……そうです。」


(な、何されるんだろう……)


「そんなに怯えなくともよい。取って食べようとしてるわけじゃない。」


 そんなこと言われても……などと思っているのガレンガルの後ろにさっきの色黒の男がいるのが見えた。


「あー!!!あなたはさっきの!!!」


 そう言って指を指すと、その男は頭をかきながらわかりやすいごまかしの笑顔を見せる。


「いやー、すまんのう。イケると思ったんやけど、どうやらダメだったわ」


 ダメだったわじゃないですよ……こっちはそのせいで困ってるんだけど!?


「こいつはど〜してもお前さんを入れたいみたいじゃ。」


 そう言われると色黒の男はくすりと笑いながら


「おぅよ、この娘はタダモンじゃないで」


 タダモンじゃない……そう言われるのは少し嬉しい。


「まぁお前さんが言うなら間違いないだろうが……普通の試験はもう始まった頃じゃ。そんなにこの娘を入れたいのなら、何か別の方法が必要じゃな。それも、誰もが納得できる形」


「そらもう考えとるよ……ようはこの娘がこの組織に入ることができる器かどうかを示せばええんや」


 簡単に言うけど……どうやって?


「せやから、その器があるかどうかを測るために実力を見してもらう。ワシもじっくりと見れたわけやないしな。」


 実力……


「なるほどな。じゃが、どうやってじゃ?」


「ウチの〈第一部隊隊長〉と戦ってもらう。んで、嬢ちゃんが勝ったら晴れて第一部隊隊長としてこの組織に入ってもらう。どや?」


 第一部隊隊長……?てか勝手に戦うことになってる!?


「あの……まず、第一部隊隊長って……?」


「……そうじゃな。まずはこの組織の説明をしよう。」


 そういうとガレンガルは説明を始めた。


◇◆◇◆◇◆


「この組織は主に〈第一部隊〉から〈第十部隊〉までの計10の部隊から成っている。成果を上げた者はより数字が小さい部隊に所属することになる。そして〈第一部隊員〉から昇格すると〈第十部隊隊長〉。隊長も部隊と同じように数字が小さくなるほど序列は上がる。隊長はその部隊の統率を取る。そして、〈第一部隊隊長〉の上が〈幹部〉となっているわけじゃ。」


「つまり、キミと戦うてもらうつもりの第一部隊隊長は、この組織の中でもかなり上の存在ってわけや。」


 第一部隊隊長……話を聞く限りとんでもなく強いんだろう。てか、私が勝ったら第一部隊隊長になるって言ってた!?


「じゃが、今の第一部隊隊長はコネやら金やらを使って部下や住民を動かして成果を誤魔化しておる。そうすることで今の地位を確立したというわけじゃ。」


「せやけど、明確な証拠があるわけやないのが現状や。これにはワシらも頭悩ませとってのぉ。」


 なるほど……そんな人が警察組織の上位にいるなんて……


「そこでキミの出番。ワシはキミが急に隊長任されても信念曲げずに己を貫き通せる心と強さを持っとると踏んどる。これはただのワシの勘や。」


(勘って……でも、こんなチャンスは二度とない。)


「この娘が勝ったら第一部隊隊長になってもらう。で、あいつが勝ったら幹部昇格でもしてやる。これならあいつが戦わない理由はない。」


「確かにそれならあやつも食いつくじゃろうな。」


 色黒の男は笑いながら私の方を向いて問う。


「どや?キミは戦う気はあるか?」


「……なんとなくは分かりました。私、やります!」


 そういうとまた色黒の男はくすりと笑った。


「よっしゃ、交渉成立やな。ガレンはんもそれでええな?」


「うむ……あとは他の隊員が納得するかどうか、じゃな」


(それが一番不安なんだけど……)


 こうして私の入団を賭けた勝負が決まった。


◇◆◇◆◇◆


 翌日、朝。私は正式な入団試験を受けているわけではないので、飛警団が取っていた宿に泊まるわけにもいかず、本部の一室を借りて休んでいた。


コンコンコンコン


 ドアをノックする音が聞こえた。


「はーい」


 そう言ってドアを開けた。するとそこには例の色黒男が立っていた。


「どうや、昨日はよう寝れたか?」


「は、はい……バッチリです。」


 嘘だ。寝れるはずもなかった。急な展開で正直頭もついていけなかった。でも、ここに入るにはやるしかない。


「そうか、軽い飯は用意してあるから、食って備えとき。」


 そう言って彼はトーストとそしてスープを持ってきてくれた。

 

「あ、ありがとうございます」


「ええよ。ワシが用意したわけやない。それより、今日は楽しみにしとるで?」


 そう言いながら、彼はニヤリと笑って出ていこうとした。その時、


「ま、待ってください!」


 男は驚いた顔で足を止めた。


「あの、まだあなたの名前を聞いてなかったですよね。教えてくれませんか……?」


 そう言われると男はまたニヤリと笑いながら


「〈オルゲド・ダマー〉よろしゅう。」


 とだけ言い残し、去ってしまった。


 オルゲドさん、か……


(あの人にたまたま見られてたから、今のチャンスかあるんだ。)


 名前を知り、そう思うと感謝の気持ちもちゃんと湧いてくることを実感する。


(今日勝てば、入団出来る……)


 正直、どんな相手なのかもわからない。それに、勝ってとしても他の人が簡単に認めてくれるか……


 ……


 ……でも


 私は


 ……


〈復讐〉するために……


 そして……


 私のように理由もわからずに目の前で人が殺される体験をする人を、


 父のように理由もわからずに誰かに殺される人を


 二度と生まないように……


 

◇◆◇◆◇◆


『……ー、あー、あー』


『えー、みなさん、昨日は入団試験の方、お疲れ様でした。』


 ガレンガルは合格発表を待つ人々の前で話し始めた。


『待ち切れない方も居られるでしょうが、どうしても喋りたいという者がいるので、そいつに少し喋らせたいと思います。』


 そう言うとガレンガルの後ろに立っていたオルゲドが前に出てきて話し始めた。


『えーどうもどうも。一応この組織で〈幹部〉やらせてもらっとるオルゲドと言う者です。よろしゅう。』


 ザワザワ……


 急に合格発表を待つ者たちさがざわざわと騒ぎ始める。


「お、オルゲドだって?」


「まじかよ本物かよ!?」


 リーサはこの街に来たばかりだから知らなかったが、実は〈飛警団のオルゲド〉といえばこの街では知らない人はいないほどのビッグネームである。


『えーと、まぁとりあえず試験の方お疲れさん。そんでワシが話したいコトなんやけど……』


『どーしてもワシがこの組織の第一部隊隊長として〈推薦〉したい娘がおんねんなぁ。』


 ザワザワ…


 ニヤリと笑って


『せやから、この場を借りて現第一部隊隊長とその娘を戦わせてみたい。』


 またまたニヤリと笑いながら


『見たいやろ?〈強い〉やつの戦い』


◇◆◇◆◇◆


「すみませ〜ん、リーサさんですよね〜?」


 リーサが部屋を出て会場に行こうとすると、後ろから女性に声をかけられた。


「え、はい。そうですけど……?」


「よかったです〜。今から出番なんですよね〜?」


 そういうと女性はポットからお茶を注ぎ、リーサに渡した。


「これ、良かったらどうぞ〜」


「あ、ありがとうございます。ちょうど喉乾いてました。」


 そう言ってお茶を貰うと、女性は急いだように走って行ってしまった。


(いい人……心に染みる……)


 そう思い、リーサはなんの疑いもなくそのお茶を飲んでしまった……


◇◆◇◆◇◆


 オルゲドのスピーチはどうやら、皆の心を掴んだようだ。どちらが勝ってもほとんどの人が第一部隊隊長を認める雰囲気にまでなっていた。


〈飛警団〉第一部隊隊長とオルゲドが第一部隊隊長に推薦したいと言った二人の戦いが見られるということで会場のボルテージは上がっていたのだ。


『……とのことですので、早速登場していただきましょう。まずは現第一部隊隊長 〈フィーク・カマサ〉』


 そういわれると舞台のすぐ近くにいた金髪ロン毛で王子様風の男は髪をかきあげながら舞台上に上がった。

 

『そしてオルゲドの推薦として戦う、リーサ・レインメア』


 そう言われ、リーサは重い足を動かし、一歩ずつ踏みしめながら舞台上へ上がった。


 対面に立つフィークを虚ろな目で見るので精一杯だった。


 荒い呼吸をして立つのでやっとだった。


(苦しい……)


 多分……下剤を盛られた


 さっきのお茶だ。


 あの人の部下だったんだろう。


 完全に油断してた……


「リーサさん。あのオルゲドさんの推薦だか知りませんが、容赦はしませんよ。よろしくお願いします」


 そう言って礼をしてフィークは剣を抜いた。


『ではそろそろ始めましょう!』


(クッ……こんな状況でも……やるしかない……)


 カーン


 リーサの状況なんて知らないように、戦いの始まりを告げるゴングが鳴り響いた

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