讐ノ眼
歌月 琉
第1話 大都市『ベール・ジーク』
大都市『ベール・ジーク』
『ライティア光国』南部の中枢を担う大きな都市である。首都である『ミセラハート』からの距離も近く、首都と南部の町村との物流を繋ぐ役割も担っている。
それゆえ人も多く、様々な種族が住んでいる。
しかし、それにより問題が多いのも事実であり、この都市の治安を守るのに警察組織も手を焼いているのだとか。
そんな場所に田舎から大志を抱き、上京してきた一人の女性の姿が。
『リーサ・レインメア』
18歳となった彼女は、この都市での生活を始めることになる。
もともと彼女の住んでいた田舎町からは列車で3時間ほどといったところで、帰ろうと思えばいつでも帰れるのだが……彼女はそのつもりもさらさらないようである。
(ここで私は……警察になる。そして……父さんを殺したやつを見つけ出す)
そう、彼女は父を殺した相手を見つけるために警察になろうとこの街に来たのだ。手っ取り早く犯罪者を見つけるなら間違いではないが、彼女の様々な想いもあり、警察を目指したのであろう。
警察と言ってもこの街にあるのは国営の警察ではなく、民営の警察である。大都市と言えど、国営の警察がいない都市も珍しくはない。この都市にも警察組織はいくつか存在するが、リーサが入ろうと決めたのはこの都市最大規模の民営警察組織『飛警団』である。
◇◆◇◆◇◆
(すごい人の数……流石に大都市は田舎とは違うな)
そんなことを思いながら街を歩いていると
「そこをどけー!」
「待て盗人が!」
後ろからバッグを抱えて逃げるように走ってくる男性の姿。その後ろには武器を持ち追いかけている人が数人。
(盗人だって?止めないと……!)
「止まりなさい!犯罪者!」
盗人の目の前に立ち、行く手を阻む。
「うるせぇ!邪魔するなら、痛い目見てもらうぜ!」
男はそう言うと剣を抜き斬りかかる。リーサも剣を抜きそれを防ぐ。
「チィッ!」
「そこまでだ!」
後ろから追ってきていた警官がついに追いつき男を取り押さえる。
「クソが!」
「無駄な抵抗はやめるんだな」
◇◆◇◆◇◆
なんとかなった……と一息ついているのその警官たちの1人が話しかけてきた。
「あなたのお陰で無事、確保することができました!ありがとうございますっス!」
オレンジっぽい髪で若そうに見えるのも相まって
(なんだ、やけに明るい人だな……)
と思いながらも悪い気はしない。
「いえいえ、当然のことをしただけです。警察になろうとしてるので」
と言うと目を輝かせて警官の彼は
「え、そうなんスか!?僕たち〈飛警団〉なんスよ!もしかして飛警団に入ったりとか!?いやでもいろいろ組織あるしなぁ……」
なんて言ったりしている。
「飛警団に入りたいなーなんて思ってるんですが……」
「うおー!そうなんスね!てことは入団試験を受けるんスよね?」
入団試験。警察となれば犯罪者との戦闘は避けられないため、新人を取るにもその人の強さの確認が必須である。その上、様々な知識も当然必要である。そのためほとんどの組織は入団試験が存在する。
「んじゃあ案内するっスよ!助けてくれたお礼っス!」
そう言われて、彼とともに本部まで歩くことになった。
この地に来て初めての人との関わり、それに夢にまで見た警察の仕事を前に、後ろから何者かに見られていることに気が付かなかった。
◇◆◇◆◇◆
「着いたっスよ〜。ここが僕たち飛警団の本部っス」
そびえ立つ巨大な建物は外壁に囲われて一切の侵入を許さないであろう。
辺りには入団試験を受けるであろう人がかなりの数いる。
(全員が試験のライバルであり、仕事をする仲間になるかもしれないのか……)
「んじゃ、僕はパトロールの続きするんで!受かったらいっしょに仕事したいっスね!」
そういうと彼は走って行ってしまった。
「あ、ありがとうございました!」
と頭を下げた。
さて……運がいい。こんな大きな都市だから本部がどこかわかんなかったんだよねーなんて思いながら受付へと足を運ぶ。
「はーい入団試験受付はこちらでーす」
と、絶妙にやる気のなさそうな子が呼び込みをしてる。
「んじゃーこれ書いてくださーい」
と言われ、紙を渡された。名前やら年齢やらを書き進めると、とある欄を見て筆が止まった。
(実績……?)
「あの、ここって何を書けば……」
「ん、あー実績ってヤツですねー。まぁどんな事件を止めたーとか、あとは警察学校出たーとか。まぁそのへんの戦闘教えてる学校卒業したーとかでもいいらしいけどー」
(そんな学校は卒業してない……田舎の普通の学校だったし……さっきのは事件と言えるのかな……止めたと言えば止めたけど……)
「あの、盗みを止めたとかでもいいんですかね」
「えー、知りませんよそんなのー。他の人はだいたいそんなこと書いてないんでわかんないなぁ。でも結構実績って試験で重要なポイントらしいですよー」
(うーん……どうしよう……)
と困っていると、後ろから変な男二人に絡まれた。
◇◆◇◆◇◆
「へい嬢ちゃん、可愛いねぇ。俺等もここ入んだよ。」
「なんか困ってんのかよ?」
ガラ悪いな……なんて思いつつも
「実績ってトコ書くの困ってて……」
と言うと
「おいおい嬢ちゃん、ここ入んのに大した実績もナシで来たのかよ」
「ありえねぇよそりゃあ。どこの田舎出身だぁ?」
「「ぎゃはははは!」」
などと言って、中へと行ってしまった。
(くっ……この人たち……でも、その通りだ……大した実績もないのにこんな大きな組織に入ろうとしてたのが間違いだった……)
その場を去ろうとすると、また別の男に声をかけられた。
◇◆◇◆◇◆
「んお、さっきの嬢ちゃんやないか。見とったでアレ。」
「え、えっと……誰……ですか、?」
そう聞くと長い髪とたなびかせながらその色黒の男は
「んーまーあれや、この組織の関係者や。んで、なんか絡まれとったやん。キミ、めっちゃべっぴんさんやし、ナンパでもされとったんか?」
なんか気さくな人だなぁ
「いや、そうじゃないですが……てか、アレってなんですか?」
「ん、アレはアレや。さっきあんの男が盗んだの止めとったやろ?」
「あぁ……アレですか……」
「そ、アレや。アレ見とったが……キミなかなかやり手や思てな」
な、なんなんだこの人は急に……
「あ、ありがとうございます……?」
「あの一瞬で相手の剣に合わせて勢い殺すんは難しいで。それに足腰の使い方、視線も悪ない。キミ、ワシ的に戦闘センス◎や。」
(細かく見てる。それにあの一瞬を見ただけでそこまで分析出来るなんて…)
「まあ、いらん話やったな。で、ここに入団したいんやな?」
「はい。ですが私、なにも実績もなくて……」
「実績か?んなもんさっきので十分やで、それで足りんならワシが推薦したるわ。」
(推薦……?)
「そこの受付のねぇちゃん。なんや、キミもべっぴんさんやな。まぁええわ。この嬢ちゃん、ワシの推薦。入れたってや」
「す、推薦ですか?しかし、推薦は前日までに推薦状を渡された者しか……」
「んな細かいこと言うて。別にええやろ。」
「ですが、ルールはルールでは……」
「んなルールはどぉでもえぇねん。ほな、嬢ちゃん。入ってええで。」
明らかにダメそうな雰囲気だけど……
「えぇ、でも今……」
と言いかけると
「えぇねんえぇねん。もうそろそろ締め切りやで。ほら、これ番号札や。」
と流されてしまった。
「ほなねー」
「あ、ありがとうございました!」
(なんなんだあの人……受付の人の話聞く限りダメなんじゃ……)
などと思っていると
「受付がお済みの方はご入場ください」
とアナウンスがかかったので急いで敷地内に入った。
◇◆◇◆◇◆
(なんか、入っちゃったけどいいのかな……)
中にはすでに多くの人がいた。雰囲気はかなりピリついており、なにか騒ぎでも起きそうだった。それに、さっき絡んできた嫌な二人組の姿も見えた。
(見つからないようにしよう……てか、さっきの人推薦とか言ってたよね……推薦出来るほどの立場ってことなのかな……)
『……ー、あー、テスト。あー』
マイクの声が聞こえる。
『えー、ただいまより入団試験の説明を行います。受付で貰った番号札の順に並んでください』
(私の番号は……0463)
かなり後ろの方の番号である。番号通りの場所に並ぶ。すると、皆の視線の先にある台の上に立つ老人が話し始めた。
『えー、説明の前に、軽く自己紹介していただきます。この組織の〈幹部〉の一人であり、実質的な統率を行っております、〈ガレンガル・ジンジュラ〉と申します。みなさんがこの組織に入ったら、嫌でもこの顔を見ることになるでしょう。まー短い間でしょうが。なんせこんなジジイですのですぐにポックリでございます。』
シーーーーン……
張り詰めた空気感を壊そうとしていたのであろう。しかし、緊張感が走っていたため、この爺さんの渾身の自虐のギャグは大スベリに終わった。
その理由は、雰囲気だけではないだろう。そのお爺さんのタッパや肩幅が笑えないような空気にさせていた。その年に見合わない体格は遠くから見ているリーサにも強い印象を与えた。
(な、なんだこのお爺さんは……てか肩幅広っ)
『……ぇ、えー……まあ、そ、そんなわけでね、試験の方、えー、始めさせていただきます……』
明らかにさっきより言葉に詰まっている。慣れてなさそうだし、そこまで気にするなら初めからやらなければいいんじゃ……と思ってはいけない。
『では、早速ですが、この試験は筆記、実技より構成されています。最後の番号は0512とのことなので、前半の0001から0256までの方は筆記試験、後半の0257から0512までの方は実技試験を先に行います。では、移動をお願いしま……』
と言いかけたところで止まる。いったいどうしたんだろうか。何やら、後ろの人と話しているのが見える。
『えーと、0463の方はここで待機していてください。それ以外の方は移動をお願いします。』
(0463の人、何したんだろう。1人だけここで待機って相当なことしない限りないんじゃ……)
思考が止まる。
(わ、私だ……)
終わった……なんか受付の人がダメそうな雰囲気出してたし!変な長髪の色黒男に完全に騙されたんだ!あーもう私は終わりだ……
などと思って1人寂しく残されたのであった。
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