第4話
こんにちは、メアリーです。メイドなんかをやらせていただいております。
今日はお屋敷を離れて市場へ食材を買い付けに。
いつも通りですと食材の買い付けは調理場の人員が務めるのですが、今日は特別。
チフス人の集落に伝わる郷土料理に興味を持たれたご主人様の為に私が担当しています。
腕によりをかけて美味しい料理をご馳走しましょう!と意気込んでいたのですが……
「メアリーさん、そろそろ戻らないと夕食の時間に間に合いませんよ」
荷物持ちとして同行してくれた調理場のスタッフに呼び止められました。
ちなみに予定していた食材の調達状況はまるで進んでいません。市場に来るのは初めてでしたが目当ての食材を見つけるのがここまで難しいなんて……数刻前の自分を叱ってやりたい気持ちです。
「ごめんなさいケビン、目当ての食材を見つけるのがここまで難しいなんて思いもしませんでした」
ご主人様の期待に応えられないばかりか、調理場の同僚達にまで迷惑をかけてしまうなんてメイド失格です。
「気にしないでください。雲行きが怪しくなってきた時点でいつも通りの買い付けは並行してましたから。それにしても妙ですね。屋敷で使う食材は全てここで揃えているのに一つも見つからないなんて、一体何を探していたんですか?」
調理場で働くケビンはチフス人の郷土料理に興味があるのでしょう、直前まで秘密にしておくつもりでしたが仕方ありません。
「フグの内蔵、ツキヨタケにカキシメジ、スイセンとイヌサフランに……」
「ストップ」
今は無い集落で晴れの日に出された御馳走に思いを馳せつつ食材を挙げているとケビンから静止がかかりました。
「メアリーさん、それは一般的に食材じゃありません。毒です。どおりで見つからないはずです」
「え?でも集落近くの山でよく採れるのでキノコと草は日常的に食べてましたよ?」
まさかそんな毒だなんて、きっと食べ過ぎた人がお腹を壊したのと勘違いしたのでしょう。そうでなければ私がこうして生きているのがおかしいではありませんか。
「恐らくですけど、チフス人には毒に対して非常に強い耐性があるのでしょう。今しがたメアリーさんが挙げた食材を仮に僕らが口にした場合、間違いなく死にます」
「本当ですか?」
「本当です。申し訳ないですが郷土料理を振る舞うのは控えて頂きたく……」
深々と頭を下げて懇願するケビンさん。
集落の伝統が途絶えてしまうのは寂しいですが仕方ありません。私だって大量殺人をしたい訳ではありませんから。
「そうですか……分かりました。はぁ、子供の頃に食べた赤いキノコをもう一度食べたかったのですが……」
「念の為、そのキノコの名前を教えて頂いても?」
「カエンタケです!とっても美味しかったんですよ!」
「それ、絶対に他の人には食べさせないでくださいね?触らせるのもダメです」
「ひょっとしてこれも……?」
「……はい」
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