第3話

「ばっ、化け物!これ以上近寄るんじゃねぇ!」

「申し訳ありませんが、そのご指示は聞き入れられません」

 ご主人様にはどういう訳か命を狙う敵対者が沢山おられます。

 それなりに規模の大きな商人で、さすがに人畜無害な人間とまでは言えないものの、それでも全身が毒劇物な私よりは随分とお優しい人だとは思うのですが。


 申し遅れました。私、有毒人種チフス人のメアリーです。

 ご主人様の元でメイドなんかをやらせていただいております。

 先日、同じご主人様に仕える先輩の使用人から『主人の安全を確保するのも使用人の勤めである』との金言をいただいた私は、少々暇を戴きまして先日遭遇した不届きものの棲家へとやってきた次第であります。

 たかがメイドにならず者の相手が務まるのか?

 大丈夫、ご心配には至りません。私チフス人ですので。

 毒劇物となる自らの体液を利用した暗殺はもちろん、正面戦闘もお手のものです。

 気化。ご存知でしょうか?

 少量吸わせれば思考を麻痺させ抵抗出来ない様にする毒物の生成もチフス人には容易い事。騎士道からすれば許されざる行為かもしれませんが、知った事ではありません。

 私、メイドですので。


 さて、ならず者の始末も終わりましたし、少々寄り道してお屋敷に帰りましょう。

 捕まる心配はないのか、ですか?

 ご安心ください。私、自らの行動範囲に毒を残すようなヘマは致しません。

『チフス人は痕跡を残さない』覚えておいてくださいね?

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