最終話 僕の事が大好きな可愛い彼女のわがままな告白
『ありえない……って、どういう意味? 私じゃダメ……ってこと?』
そんな言葉を言って、彼女は悲しそうな顔をした。
ちょっと待ってくれ、どういうことだよ。
それじゃあまるで、彼女が僕のことを好きみたいじゃないか。
けれどそんな事あるはずなくて。勘違いした男の末路ほど虚しいものはない。
「いやいや、なんでそうなるんだよ。逆だよ。吉田が僕を好きになるなんてことがあるはずないだろう?」
「……なんで?」
だから。なんで彼女が僕の事を好きみたいな言い方になってるんだよ。
「なぁ、吉田。頭どこかにぶつけたから痛いのか? 冷やすもの探してこようか」
あるはずがない事が起こっていると、人は何か原因があるはずだと思うもので。僕は半ば本気でそんな心配をしはじめた。けれど。
「……私、失恋したってことなのかな。頭も痛いけど、心も痛い」
なぜかさっきから彼女との会話が噛み合っていない。
「……そんなに具合悪いのか? やっぱりもう一度先生探してこようか」
僕はどうしたらいいのか分からなくなっていた。
「ねぇ、保坂」
すると彼女に呼び止められて。
「え、何?」
「振るならちゃんと振って欲しい、私のこと。このままじゃ未練残っちゃう」
彼女は僕の腕を掴んで、涙が潤み始めた目で僕の目を見つめながらそう言い始めて。
なんか知らないうちに僕が彼女の事を振る話になってるように聞こえるけど、違うよな? あくまでこれは、彼女が好きな人に対しての話だよな??
僕は僕の頭の中がバグり始めたのを感じた。
「……吉田。それじゃあまるで吉田が僕の事を好きみたいじゃないか。違うって分かってるけどさ? 吉田は可愛いんだから、自信もってちゃんと好きな人に好きって伝えたらいいと思う」
なんで僕は、ちょっと好きになり始めてる子の恋を応援してるんだよと思いつつ、頭の中を整理するように言ってみれば。
「…………保坂、好き。私と付き合って。それがダメなら友達になって。それもダメとか言わないで。そんなこと言われたら……泣いちゃう」
もうすでに泣き始めてる彼女にそんな事を言われて。
「…………は?」
もうそんな声しか出なかった。
今……保坂好きって、言った? それって、僕のこと?? 僕のことが好きってこと?? なんで?? 僕のどこに好きになる要素あんの??
僕の頭の中の情報処理能力が仕事してくれなくて。まったく意味が理解できなくて。
「“……は?” ってなに。だから振るならちゃんと振ってよ。でも振られるのやだ。未練残るどころか好き過ぎてこれからもずっと好きだから、付き合ってくれるまで毎週爪切り借りに行っちゃうんだから!!」
そしたら今度は彼女は怒り始めて。……怒りながら言う言葉……それ? ってなって。
「なぁ……吉田の好きな人って……僕、なんてことは、ない……よな?」
恐る恐る聞いてみた。
「……ねぇ、さっきからずっとそう言ってるのに、なんで伝わらないの? 私、
カースト上位の可愛い彼女が、地味で陰キャな僕に涙流しながらそう言った。
……どうやら僕は、人生で初めて告白というものをされたらしい。内容は、なんかちょっとイメージしてた感じとは違ったけれど。
「え……? 僕でいいの?」
「保坂しかヤダ」
「なんで?」
「爪切り何回借りに行っても、嫌な顔しないから」
……理由がちょっと意味不明過ぎたのだけど。
「……そんな理由?」
「うん。顔が好きとか、声も好きとか、雰囲気も好きとか、たまに後ろ髪に寝ぐせついてるの可愛いとか、そういうのももちろんあるよ? でも、一番は、何回借りに行っても嫌な顔しないところ。普通は何回も来られたら嫌がるじゃん」
彼女は少し感性がズレているのかもしれない。だってこんな僕の顔も声も雰囲気も好きとか……。何より寝ぐせなんて、むしろ欠点じゃないのか。
「……なぁ、吉田。それだと吉田はめっちゃ僕のこと好きみたいに聞こえるんだけど?」
「めっちゃ好きだけど、ダメ?」
「……いや、だめじゃないけど……僕、女の子と付き合ったことないから、具体的に何をしたらいいのかとか、分からないよ?」
そのうち幻滅されるかもしれないから、先に言っておこうと言ってみれば。
「じゃあ……頭痛いから撫でて」
彼女は僕に向かって頭を差し出した。
……こういう、ふとした瞬間。彼女はとても可愛いと思う。けど……僕なんかが彼女の頭に触れていいのだろうか。いや、散々肩には触れてたのだけど、頭はまた、別物というか。いや、生首って意味ではなくて。って、何言ってるんだ、僕。
「……ねぇ、まだ?」
戸惑っていると彼女に催促されて、おずおずと僕は彼女の頭に触れた。
艶やかな手入れの行き届いた彼女の髪の感触が、撫でる僕の手に伝わって、僕の方まで心地いい。
「……こ、こんなんでいいの?」
「……最高。ねぇ、保坂。放課後、一緒に帰ろ? そんでLINE交換しよ? そんで夜通話しよ? そんでいつデートに行くか決めよ?」
「え。あ、うん。分かった」
初めて出来た彼女の怒涛の言葉に
「へへ。やっぱり保坂は嫌な顔しないんだね。好き」
「……今の吉田の言葉に、嫌な顔するところあった?」
「……わかんない。でも、みんな“花梨は可愛いけど我儘だ” って嫌な顔して離れていく」
ああ、そう言えば。僕も人に嫌な顔をされるのは嫌だなと思う。だからこそ、爪切りも絆創膏も持参していたのだし。けど。
「……それはよくわからないな。可愛いしかないけど」
「ねぇ、保坂に可愛いって言われるの嬉しい。もっと言って」
「え? ……うん。吉田は可愛い、すごく」
「へへー。嬉しい。好き」
彼女が言う『我儘』は、僕にとっては可愛いところでしかなかった。
――こんな感じで彼女と付き合う事になって現在3か月。
今は彼女と一緒の帰り道、なぜか彼女は怒っていた。
「なぁ、花梨。なんか……怒ってる?」
「うん。怒ってる」
どうやら僕は、何かやらかしてしまったようだ。
「……身に覚えがないのだけど。僕、何した?」
「今日、緑谷さんに爪切り貸してって言われてたでしょ?」
「うん。言われて貸した。だめだった?」
緑谷さんは、花梨とはまた違ったグループのカースト上位の女子だ。
「……緑谷さんって、すっごくすっごく美人じゃん? 健人のこと好きなのかな。めっちゃ健人に笑顔で話し掛けてて……不安になっちゃった」
「……もしかして、花梨、それって怒ってるんじゃなくて、嫉妬?」
「違うもん。怒ってるの!!」
花梨は僕の手をぎゅううっと、けれど痛くはないくらいの力で握る。
「じゃあ、どうしたらいい?」
「“花梨可愛い、好き” って100回言って!!」
「100回かあ。それはまた多いな。じゃあ、言うよ? 花梨可愛い、好き。花梨可愛い、大好き。花梨すっごく可愛い、す……」
僕が言い始めると。
「ちょ、ちょっと待って。ホントに言われると……照れる」
彼女は真っ赤な顔で照れていた。
「花梨が言ってって言ったんじゃん?」
「うん、……ごめん。やっぱり私って、我儘かな」
不安げな顔をして上目遣いで僕を見つめてくる彼女のそんなところが可愛くて。
「全然。花梨のそんなところが可愛い。好き」
僕は彼女にそう言うと、僕と手を繋ぐ彼女の手を優しく引き寄せて――
「花梨、可愛い。大好き」
僕は真っ赤になった彼女の耳元で、そっと100回分の気持ちを込めて、“花梨可愛い好き” を囁いた。
――――――――――――――――――――――
最後まで読んでくださりありがとうございました
好きな人にはちょっかいを掛けたくなっちゃう上に甘え上手
なのに受け入れられると照れちゃう、実は初心な花梨ちゃんw
少しでも可愛いなと思っていただけたら、この画面下、または次のページの☆☆☆を★★★に塗り替えていただけると、とてもとても嬉しいです
そしてぜひ他の作品もよろしくです
(コレクションにおススメ順でまとめています)
空豆 空(そらまめ くう)
追記・6月17日、新作短編公開予定です!
クラスで人気の陽キャな俺の幼なじみギャルは、陰キャな俺の部屋で人生最大級にデレる。
【短編】学園カーストトップの可愛い彼女に毎週爪切り貸してたら、なぜか地味で陰キャな僕がマジ告されました 空豆 空(そらまめくう) @soramamekuu0711
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