【短編】学園カーストトップの可愛い彼女に毎週爪切り貸してたら、なぜか地味で陰キャな僕がマジ告されました

空豆 空(そらまめくう)

第1話 学園カーストトップの彼女と、保健委員の僕

 地味で陰キャな僕。けれどこんな僕にも彼女がいて、しかも彼女はとんでもなく可愛い。それは僕の欲目なんかじゃなくて、学園カーストトップに君臨するほど彼女は誰が見ても明らかに可愛い。


 そんな彼女と僕がなぜ付き合うようになったかというと、たぶん僕がクラスの保健委員だから。


 少なくとも、僕はそう思っている。これはそんな僕と彼女の話。




 毎週月曜日、僕の通う学校では保健委員がクラスメイトのアピアランス身だしなみチェックをする風習がある。そしてそのために僕は爪切りを持参して登校していた。


 別に爪切りなんて保健室に行けばあるのだけど、毎週月曜日は保健室に借りに行く生徒が多すぎて、順番待ちになる。

 それを嫌がるクラスメイトに僕がアピアランスチェックをしなきゃいけない事が嫌で、僕は爪切りを持参して、クラスの子に貸すようになっていた。


 だからクラスメイトに僕が爪切りを貸す事は多かったのだけど……彼女は忘れっぽいタイプなのかもしれない。よく借りに来るなぁと思っていたら、いつの間にか月曜日になると登校してに彼女が僕に爪切りを借りに来るのが当たり前になっていた。


「保坂おはよー! ごめーん、今日もあれ貸して? 爪切り」


「ん? ああ、いいよー」


「へへ、保坂優しい。いつもありがとっ!」


 でも、カースト上位の彼女と陰キャな僕の接点はそれくらい。そんな事で仲良くなるはずがない。そんな事は分かってる。だから僕は別に彼女に好意を抱くこともなかった。だって僕は現実主義だから。



 そんな僕は保健委員で爪切りを持ち歩いているから、いつしかクラスメイト達はちょっとした怪我をした時に『絆創膏持ってる?』と声を掛けてくるようになった。


 けど、僕はただ保健委員なだけで薬箱ではない。だから『持ってない』と答えるのだけど、大抵『なんだ持ってないのかよ』と嫌な顔をされるのが嫌で、僕は絆創膏も持ち歩くようになった。


 すると彼女もちょっとした擦り傷をした時に、僕に絆創膏をもらいに来たんだ。


「ねぇ、保坂ー。絆創膏持ってる?」


「ああ、あるよ」


「さっすが保坂―。ねぇ、自分で貼れない。保坂貼って?」


 その時の彼女の甘えるような上目遣いに正直ドキッとした。けれどこれは男のサガでしかなくて。


「よし、貼れた。お大事に」


「わー。保坂貼るのうまいー。ありがとっ」


 ただ絆創膏を貼っただけの僕に、ありがとうと笑った彼女が可愛いと思ってしまったけど、それもただの男のサガでしかなくて。カースト上位に君臨する彼女は誰が見ても可愛いくて、誰に対しても愛想がいい。ただそれだけの事だと思っていた。


 


 それから数日後。


「ねーねー保坂」


 後ろから肩をトントンとされて、『ん?』と振り向いた。すると誰かの指が僕のほっぺをむにっと突いていて。


「えっへへー。引っかかったー」


 そこにはイタズラが成功して喜ぶ彼女の顔があった。


 その顔が可愛くて。思わずドキッとしてしまって。

 けれどこれもただの男のサガでしかなくて。


 そしてこれはきっと、彼女がイタズラ好きなだけで。

 相手は別に僕じゃなくてもよかったわけで。

 カースト上位の彼女の、ただの気まぐれに過ぎないのだろう。


 そう思ったから、僕は僕の心の中に沸いた気持ちをぐっと抑え込んだ。


 すると。


「保坂、保坂。これ、あげる」


 渡されたのは絆創膏。


「え、なんで。僕別に怪我してないけど」


 そう聞くと。


「違う。こないだもらったから。保坂みんなに配ってるから絆創膏どんどん減っちゃうでしょ? だから、補充」


 彼女はへへっと笑いながら答えた。


「ああ。そんな気を使ってくれなくてもいいのに」


 だからそう言って受け取ると、その絆創膏には厚みがあって、何枚かの絆創膏が重なっていた。

 別にあげたのは1枚だけなんだから、他の人の分まで補充してくれなくてもいいのに。そう思っていると。


「ねぇ、保坂」


「ん?」


「また怪我しちゃったの。絆創膏、貼って?」


 また甘えるような上目遣いの彼女にそんな事をねだられた。


「え? いいけど、絆創膏持ってたなら友達に頼めばよかったんじゃ?」


 シンプルに。男の僕に頼まなくても……と思って聞いたのだけど。


「だ、だって。保坂、絆創膏貼るのうまいからっ!!」


 苦し紛れな言い訳のように答えた彼女の頬が赤くなっていて。

 けれどその時の僕は、彼女が僕の事を好きだから構ってきているだなんて夢にも思ってなかったから。


「あれ? ほっぺ赤いよ? 熱でもある?」


 何の気なしに聞いてみれば。


「ほ、保坂のせいなんだからねっ!!」


 僕のせいにされて彼女は走って逃げてしまった。


 ……まだ……絆創膏貼ってなかったのに。




 それからまた数日後――


「ねぇ、保坂……頭痛薬とか……持ってない、よね?」


 珍しくうつろな目をした彼女に声を掛けられた。


「え? ごめん、持ってない。どした?」


「……今朝からずっと頭痛くて」


 そういう彼女は元気なくて。


「保健室、行く? 付き合うよ」


「……うん。お願い」


 答えた彼女はやっぱり元気がなくて。僕は彼女と一緒に保健室に向かった。



 けれど保健室には先生がいなくて。僕は彼女を椅子に座らせて職員室に探しに行った。けれどそこにも誰もいなくて。ホワイトボードを見てみれば、先生たちはみな会議に出ているようだった。



 彼女のそばに戻ってみれば、彼女は頭を押さえて痛そうにしていて、なんとか楽にしてあげられないかと思ったりして。


「吉田ー。先生いなかった。……よかったら肩揉んでやろうか」


「え、ほんと? 嬉しいー」


 彼女はふわっと笑った。


 頭痛いのに肩揉み? と不思議に思う人もいそうだけど、肩が凝ると頭が痛くなる人は意外と多い。女子は胸の重みのせいで男子よりもその傾向は強いらしいことを、僕は母親から肩揉みがてら聞かされて知っていた。


 彼女の後ろに回って、僕は彼女の肩を揉み始める。


「……めっちゃ凝ってるじゃん」


「うん、すごいでしょー?」


「威張ることじゃないから」


「へへ。保坂肩揉みうまいね。めっちゃ気持ちいい」


 それまで彼女と大した会話はしたことなかったけど、毎週の爪切りを貸すやり取りや絆創膏やらで、なんとなく話づらさみたいなものはなくて。そのまま彼女との会話が続いていった。


「……ねぇ、保坂ー?」

 

 ふと会話が途切れた時、彼女がぼそっと呟くように僕の名前を呼んだ。


「んー?」


「保坂ってさぁ、好きな子、いる?」


 それは唐突な質問で。


「え、何、突然。吉田はいるの? そういう人」


 その時の僕は、実はなんとなく彼女の事がいいなと思い始めていたけれど、彼女が僕と釣り合わないなんてことは百も承知だったので、いるともいないとも言いたくなくて。なんとなく質問を返してしまった。すると。


「うん。いる。好きな人。昨日その人のこと考えてたら寝れなかったの」


 彼女はそんな事を言い出したから。


「へぇ、その相手は幸運だな。吉田みたいな人に想われて」


 彼女の肩を揉みながら、思わずそんな言葉が漏れた。カースト上位の彼女に想われるなんて、きっとカースト上位に君臨する陽キャのイケメンなのだろう。僕には関係のない輝いた世界。そう思った。


 僕の初恋は、僕が初恋だと自覚する前に散った、そんな気分だった。なのに。


「……例えば保坂は、私に想われてたら嬉しいと思ってくれるってこと?」


 突然彼女は僕の方へ振り向いて、僕の目を見て聞いてきた。


「え? ……なんでそんな事聞くんだよ。ありえないだろ、そんなの」


 だってそうだろう。彼女はカースト上位の陽キャで可愛い人気者で、僕はただの陰キャで地味な保健委員でしかないのだから。


 なんとなくいたたまれない気持ちになって、僕は彼女の視線から逸らすようにそっぽを向いた。すると彼女は少ししゅんとするように俯いて……


「ありえない……って、どういう意味? 私じゃダメ……ってこと?」


 悲しそうな声でそう言った。



――――――――――――――――――――――

次話で完結!!

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