第8話 モフモフとの生活

 食後の用事を済ませて、今は寝室のベッドに座って、横にはプレシャスがいる。可能性が無限大の宝石魔法も思うように作れて、明かり魔法が幻想的に部屋の中を照らしていた。無事にこの世界での初日が終わろうとしている。


「アイ様、今日1日は如何でしたか」

 プレシャスが私を覗き込むようにして聞いてくる。


「イロハお姉様に導かれた世界で目まぐるしい1日だったけれど、こうしてプレシャスと一緒に初日を迎えられてよかった」

「わたしもアイ様と一緒に過ごせて楽しかったです」


「きっとひとりだったら、何をしてよいか迷っていたかもしれない。まだ魔物には会っていないけれど、魔法と使い魔は新鮮だった。これからも話し相手やいろいろと教えてね」

 話ながら、無意識のうちにプレシャスの体をなでていた。視線をプレシャスに向けると、目を細めて気持ちよさそうな表情をしている。


「何でも聞いて下さい。人間たちの細かな決まり事や生活状態などは把握していませんが、この世界の全般的な中身や常識は説明できます」

「とくにこの世界の常識にはうといから教えてね、ところで、すでになでているけれど、なでても平気? プレシャスの体をなでると気持ちよいのよ」

 気持ちよさそうだから大丈夫だと思うけれど、聞いておきたかった。


「問題ありません。わたくしも、なででもらえるとうれしいです」

 プレシャスの了解が得られたので、思う存分にプレシャスの体をなでた。なでると毛並みの色合いが変化して、しばらくの間はモフモフとフワフワを堪能した。


「そういえば、この家は森の中にあるけれど、魔物には襲われないの?」

 森の中へ探索に出かける場合は注意しながら移動できるけれど、家の中では逃げることはできない。プレシャスは強いと聞いたけれど、多数の魔物がくれば私を守るのはむずかしいと思う。


「この家にはイロハ様の加護がありますので、この森にいる魔物は近寄れません。敷地の外周にある結界に魔物が触ると浄化されます」

「それなら安心して暮らせるね。イロハお姉様には感謝の言葉しかない」

 イロハ様の溺愛ぶりが、この家周辺にも反映されているのね。


「ただし森の中や街までの道中では、魔物に遭遇する可能性があります。強くない魔物ですが、アイ様に討伐できる力があれば行動範囲も広がります」


「近いうちに攻撃魔法をおぼえて、街へ行って街の雰囲気も知りたい。宝石魔法は自由度が高いから、いろいろな宝石で魔法をおぼえてみたい」

 毎回プレシャスに護衛させるのは悪い気がしたので、最低限の力は身につけたかった。攻撃魔法以外に回復魔法や防御魔法もおぼえたほうがよさそうね。


「ほかの宝石にも興味がありますが、わたしはオパールを知りたいです」

 プレシャスが立ち上がって私に顔を近づけてきた。

「昼間は説明が中途半端だったから、オパールのめずらしい特徴を説明するね」


「ほかの宝石とは何かが異なるのでしょうか」

 興味津々の顔で私を見つめる。

「オパールはほかの宝石にはない、宝石内部に水分を含んでいるのよ。取り扱いに注意は必要だけれど、その分愛着がわいてくる、すてきな宝石のひとつね」


「魔法のように水があふれているのですか」

「見た目では分からないくらいわずかよ。オパールの種類によっては、水につけると水分を吸収する種類もある」


 とある産地のオパールは、ハイドロフェン効果と呼ばれる、吸水性の特徴をもっている。内部の色合いなども変化してしまうため、取り扱いがむずかしいオパールのひとつでもあった。


「他には何かありますか」

「オパールの遊色効果は、ひとつとして同じ表情がないとも言われている。写真で見たように斑の出方がルースごとに異なる個性的な宝石で、私が大好きな宝石のひとつでもあるのよ。ルースをたくさん集めていたけれど終わりがなかった」


 ブラックオパールやボルダーオパールは、オパールの中でも表情や色の変化がはげしい。お気に入りのルースが見つかれば、次の機会に出会えないと思って、予算オーバーでもがんばって買っていた。


「色の変化は見ていてあきませんし、水分を含んでいるとは驚きです」

 プレシャスが感心していたので、宝石魔図鑑を取り出してオパールの頁から立体写真を表示させた。


 プレシャスと一緒にオパールを眺めなら、今日作成したオパールの宝石魔法を思いだいしていた。失敗とかもあったけれど、ちょっとした疑問がわいた。


「プレシャス、水が出る魔法があったよね。水が出すぎたので、クリアと唱えても床は水浸しのままだったよね」

「床に残った水をおぼえています」


「輝きオパールのハートシェイプのルースはクリアで消せて、明かりも消えた。この違いは何なのかな?」

 同じクリアと唱えても、魔法で出現したものが残る場合と消える場合があった。


「アイ様の魔法は特殊ですが、出現したものに違いがあるのかも知れません」

「すなおに考えれば自然界に存在する水は残って、創造物のルースは消える。そう考えれば理屈にあうかもしれない」


「その可能性は大きいと思います。明かりはルースが消えたことで、存在させる場所がなくなったと考えれば矛盾はありません」

 ほかの宝石魔法でも確認が必要だけれど、おおきな間違いはないように感じた。


「せっかくだから少し試してみたい。今の考えがあっていれば、火を出現させる多面体カットのルースを消せば火も一緒に消える。でも木などに火を移せば、多面体カットのルースを消しても火はそのままのはず」

「この場所で行うのですか」

 不安そうな声でプレシャスが聞く。


「小さい火で安全に行うから、忘れないうちに実験してみたい。もちろんベッドの上ではなくてテーブルの上よ」

 立ち上がってテーブルの近くへ移動する。プレシャスに小枝を取ってきてもらっている間に、容器を見つけて雫オパールの魔法で水をためた。実験の前に基本ルースで面白い設定がみつかったので、プレシャスが戻ると説明した。


「プレシャスが来るまでに水を出そうとしたけれど、基本ルースの位置がよくなかったので、動かしたいと思ったら位置が移動してくれたのよ。基本ルースが邪魔な位置にあっても、デリート以外に移動でも平気みたい」


「移動ができれば、何かのときに便利かもしれません。燃えやすそうな小枝をみつけましたが、準備はできたのでしょうか」

「いつでも実験できるよ。さっそく唱えるね、揺らめきオパール」


 基本ルースが出現したあとに、多面体カットのルースがでて小さな火を灯した。火を小枝に移したあとに、多面体カットのルースをクリアで消す。ルースとルースから出現している火は消えたけれど、小枝の火は残ったままだった。


 目的の実験が終わったので、さいごに小枝を水の中へ入れて火を消した。

「予想どおりの実験結果で、たぶん自然界にあるものは残るみたい」

「火や水以外にも土などを残せれば、防御にも使えて応用が広がります」

「また異なる宝石魔法を作ってみるね」


 実験が終わって、片付けや寝る準備をしてからベッドへと入る。横にはプレシャスが丸くなっていた。

「アイ様、この世界は如何ですか。楽しめましたか」


「最初は驚いたけれど、イロハお姉様がやさしくしてくれた。魔法が使えたのは楽しくて、プレシャスと一緒に宝石を語り合えたのもうれしかった」

「気に入ってよかったです。イロハ様も喜んでいるでしょう」


「イロハお姉様には感謝している。まぶたが重くなってきたから、もう眠るね」

 望んだ世界ではなかったけれど好きになれそう。宝石を堪能しながら、魔法も使える世界に興味がつきない。プレシャスの気配を感じながら温かな眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る