第2石 ロッククリスタル

第9話 ゆったりとした朝

 翌日に目が覚めて窓を開けて外をみると、前方にある木々の上に太陽が顔を覗かせていた。鳥のさえずり声が聞こえて、心地よい風が部屋の中へ入ってくる。いつもよりも起きる時間が遅いから、ぐっすり眠れたみたい。


「気分はどうですか」

 いつの間にかプレシャスが近くに寄ってきていた。


「久しぶりに気持ちよい朝をむかえられた。ほんとうは朝食の時間だけれど、しばらくはこの景色を堪能しても大丈夫?」

 森の中にあるありふれた風景だけれど、なぜかずっと見ていたいほど心に刺さっていた。ほんとうかは分からないけれど、この世界が私を歓迎してくれたみたい。


「時間はたっぷりありますので、アイ様の好きな時間だけ眺めて平気です」

「ありがとう。この幸せな時間を存分に味わうね」

 元の世界にいたときは慌ただしくて、ハイキングなど自然を満喫する機会はほとんどなかった。つねに時間に追われていて身も心もゆとりがなかったけれど、いまは違う。私を歓迎してくれる森の朝を満喫した。


 寝室をあとにして、キッチンで遅い朝食の準備を始めた。

「どのような料理を作るのでしょうか」

「実は主食をどうするのかで悩んでいる。昨日は森で小麦をみつけたけれど、粉にするには時間がかかるのよね。氷の魔道具に入っている食材は主食に不向きだった」


「こちらの扉にも食材が入っています」

 プレシャスが歩いて、後ろ側にある扉を教えてくれた。扉を開けると中は薄暗くなっていたので、輝きオパールの魔法で明るくさせた。いくつも麻袋があったので、扉の中から取りだして中身を確認する。


「この麻袋は粉状態の小麦粉ね。これでパンが食べられるけれど、ウドンも作れるから主食がそろっていく。ほかの麻袋も開けてみるね」

 ほかの麻袋には、平たい豆や塩や胡椒などの調味料が入っていた。プレシャスに聞くと、平たい豆はレンズ豆と呼ばれているみたい。


「家の中にある食材は氷の魔道具と、この扉の中だけです。10日以上は食事ができる量はありますが、森や街で食材を確保する必要があります」

 ある程度の備えはあるみたいだけれど、さすがに無限ではなかった。


「いつかは庭に畑を作って食材を作りたいけれど、すぐには無理よね。今日の主食はパンを作り置きにするけれど、日中は森の中で食材を確保したい」

「食材探しや森での移動はお任せ下さい」

 プレシャスが答えてくれた。


「プレシャスの活躍を期待しているね。パン作りは少し時間がかかるから、朝食と昼食が一緒になるけれどかまわない?」

「大丈夫です。どのような料理になるのか楽しみにしています」


 さっそくパン作りから開始した。イースト菌がないので、ふっくらとしたパンは難しいけれど、いまはできる範囲で料理を作っていく。いつかは元の世界以上に、色とりどりな料理を作りたい。


 最初に小麦の粉と水をまぜて、こねながらかたまりにしたあとに少し寝かす。その間に昨日と同じキノコのスープに、野菜とレンズ豆を加えて温め始める。

 ミソやショウユがないのは残念だけれど、調味料と野菜からのだし汁で味を濃厚にしていった。火の魔道具による温度調整も楽で、順調に料理を作り出していく。


 パンは平べったいクッキーみたいな形にしてから焼き始めて、ほかの料理を作り終わるころにパンも焼けた。


「料理が完成したからリビングへ運ぶね。パン作りで時間がかかって昼食と一緒になりそうだから、量は多めにしてあるよ」

「焼きたてのパンが楽しみです」

 料理をテーブルの上にならべて、昨日と同じ位置取りで椅子に座る。


「パンは硬いと思うから気をつけてね」

 プレシャスと一緒に遅い朝食を食べ始めた。

「このくらいの硬さなら、わたしはそのままで充分です」


「私にはこのパンは硬いから、スープにつけるとちょうどよいみたい」

 元の世界にある料理に比べると見劣りして薄味だけれど、今の私には満足のいく料理だった。問題はそのうち食材がなくなるので、それまでに食材を確保する手段を確立させたい。


 プレシャスとこの世界や宝石についてお喋りをしながら、楽しい食事の時間を過ごした。いまは食事の後片付けも終わって、リビングでくつろいでいる。


「まだ日は高いから、これから家を中心に森の中を探索したいけれど、プレシャスも一緒に来てくれる?」

「もちろんお供します。アイ様の護衛はお任せください」


「ありがとう。プレシャスが一緒なら、安心して家の外を歩き回れる。私もせっかくだから、移動時に有効な魔法でも考えようかな」

「どのような宝石を使った魔法でしょうか」


 プレシャスが興味深そうに聞いてきたので、私は頭の中で想像をふくらませた。

 移動時にあると便利な項目はいくつかあるけれど、この世界は魔物などの危険が多く潜んでいるから、早めに危険を把握できる手段がよいかもしれない。


 イメージは潜水艦や漁船のソナーで、音や何かが反響する時間の変化で、周囲に移動しているものが存在するかを認識できる。

 ここまで考えると宝石の種類もおのずと決まってきた。


「宝石の種類と魔法の内容が決まったよ。宝石はロッククリスタルで、無色透明な水晶と同じ意味合いよ。魔法は遠くに移動しているものは把握できる探知魔法よ」

 オパールに続いて、宝石魔法で作る次の宝石が決まった。宝石魔法は自由度が高いから、便利な魔法が作れそうで期待に胸をふくらませた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る