第7話

若林恵は涙を拭いながら、重い口を開いた。

「確かに、私は父に対して強い恨みを持っていました。でも、彼を殺したのは私ではありません。誰かが私をはめたのです。」


香織と涼介は互いに顔を見合わせ、新たな展開を予感しながら、若林の言葉に耳を傾けた。


「誰かがあなたをはめた?詳しく聞かせてください。」

香織は静かに促した。


「実は…」

若林は深く息を吸い込み、話し始めた。

「ある日、匿名の手紙が私のもとに届きました。その手紙には、父が私たちを捨てて新しい家庭を築いたことへの怒りと恨みを利用して、彼を脅迫する計画が書かれていたんです。」


若林は手紙の内容を思い出しながら続けた。

「手紙には、父に近づくために特別に用意された万年筆を渡せば、彼の信頼を得られると書かれていました。私はそれを信じて、父に万年筆を渡しました。でも、万年筆に毒が仕込まれているなんて知らなかったんです。」


涼介は眉をひそめながら尋ねた。

「その手紙はまだありますか?」


若林は頷きながら立ち上がり、リビングの棚から手紙を取り出して二人に見せた。手紙は確かに匿名で、若林を巧みに操る内容が書かれていた。


香織は手紙をじっくりと読みながら、

「この手紙を書いた人物が真犯人かもしれませんね。私たちはこの手紙の筆跡を調べる必要があります。」と言った。


涼介も手紙を覗き込み、

「そして、この手紙の送り主が誰かを突き止めることが重要だ。若林さん、手紙が届いた時期や、他に不審な出来事があったかどうか、何か覚えていますか?」と尋ねた。


若林は思い返しながら、

「手紙が届いたのはちょうど父との連絡を再開し始めた頃です。他には特に思い当たることはありませんが、最近、父のビジネスパートナーだった山下さんが私に接触してきました。彼は私に、父に対する計画を進めるように勧めてきたんです。」

と答えた。


香織は涼介と目を合わせ、

「山下さんですね。彼が真犯人の可能性が高いです。彼についてもっと調べる必要があります。」

と結論付けた。


「若林さん、私たちがこの件を調査している間、あなたも自分の身を守るために慎重に行動してください。何か新しい情報があれば、すぐに私たちに知らせてください。」

涼介は真剣な表情で言った。


若林は静かに頷き、

「ありがとうございます。私も父のために真実を知りたいです。」


香織と涼介は若林の家を後にし、次の調査対象として山下の行動を追うことに決めた。門司港の夜は再び静寂に包まれ、二人は新たな証拠を求めて動き出した。


---


香織と涼介は山下のオフィスに向かった。涼介が小声で

「ここで見つけられるといいが」

と呟いたが、香織はそのまま無言で進んだ。


オフィスの周りには監視カメラがいくつか設置されていたが、二人は慎重にその視線を避けながら進んだ。香織は建物の裏口に目をつけ、鍵をピッキングで開けた。


「いつの間にそんな技を覚えたんだ?」

涼介は驚きの声を上げた。


「探偵の基本よ。」

香織は軽く微笑み、二人は静かに建物の中に入った。


オフィス内は静まり返っており、照明はほとんど点いていなかった。香織と涼介は手分けして調査を始めた。涼介はデスク周りを調べ、香織は書類棚を探った。


「香織、こっちに来てくれ。」

涼介が低い声で呼んだ。


香織が近づくと、涼介はデスクの引き出しからUSBドライブを取り出した。

「これが何かの鍵かもしれない。」


二人はUSBドライブを持ち帰り、解析を始めた。ドライブには高橋剛が書いた日記や、彼が誰かに脅されていることを示すメールのやり取りが保存されていた。


「これで山下が関与している証拠が揃ったわ。」

香織は満足げに言った。


「しかし、これだけで終わりじゃない。もっと決定的な証拠が必要だ。」

涼介は慎重に言った。


---


香織と涼介は山下の自宅を訪れた。涼介がインターホンを押すと、山下がドアを開けた。


「何の用だ?」

山下は不機嫌そうに尋ねた。


「あなたと話がしたい。高橋剛の件について。」

香織は冷静に言った。


「そんな話なら他でやってくれ。」

山下はドアを閉めようとしたが、涼介がそれを阻んだ。


「私たちは証拠を持っています。あなたが高橋剛を殺害し、若林恵を陥れた証拠です。」

涼介は厳しい口調で言った。


山下は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。

「証拠?そんなものはない。」


香織はUSBドライブを取り出し、

「これを見てください。ここにはあなたが高橋剛に脅迫メールを送った証拠が入っています。」

と続けた。


山下は言葉を失い、しばらくの間沈黙していたが、やがて観念したように口を開いた。

「分かった、全て話そう。」


---


山下は深いため息をつきながら話し始めた。

「高橋剛が成功しているのを見て、私は嫉妬した。彼を排除するために計画を立て、若林恵を利用することにした。匿名の手紙を送り、彼女に万年筆を渡すように仕向けたんだ。」


「毒を仕込んだ万年筆を渡すことで、彼女が犯人に見えるようにしたわけですね。」

香織は静かに言った。


山下はうなずきながら続けた。

「そうだ。全ては計画通りに進んだ。だが、君たちがここまで追ってくるとは思わなかった。」


涼介は厳しい表情で

「あなたの行動は許されない。これから警察に連絡し、全てを明らかにします。」


---


香織と涼介は警察に証拠を提出し、若林恵の無実を証明した。


「本当にありがとうございました。」

若林は感謝の言葉を述べた。


香織は優しく微笑み、

「私たちはただ真実を追求しただけです。」


門司港に再び平和が戻り、香織と涼介は次の事件に備えて新たな依頼を待つことにした。新たな事件の予兆が描かれ、物語は次のエピソードへと続く。

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港町事件簿 探偵事務所編 遺産 @minatomachi @minatomachi

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